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次の日、夕食後に風間君から同じお守りを貰った。

由佳に貰ったものと同じだと伝えると、「あー」と声を上げる。

「河村さん同じの買ってた。ちーちゃんにだったのか」

「効果2倍だよ。ありがたく貰うね」


「俺のちーちゃんは愛されてるなぁ。うんうん」

馬鹿兄がニヤニヤして嬉しそうにする。キモイ。

「俺の、とか言うな。気持ち悪い」

「きもちわるい…ひどい…ひどいよー」

25の男が泣き真似をするな。キモイ。


「そういえば河村さん、貴史さんのこと言ってましたよ」

「お? カッコよくって頼りがいがあるって? 参ったなー。困っちゃうなー」

「いえ、すごく面白い人よね~と」

「……それだけ?」

はい、と頷く風見君。

兄が「はぁ……」と頭を抱え始める。

「いつもそうなんだよね、面白い人止まり。世の女の子は見る目ないよね。何故こんなイイ男を放って置くのか常々不思議でたまらんちん」

「見る目あるから、放って置かれてるとか」

「…風見君、それどういう意味?」

「風見君、正解」

「ちーちゃん、そこは兄を庇うべきでしょ。6年ふたりで暮らした仲じゃないかー」


そこで会話が止まってしまった。

兄が、しまった、という顔をする。

我が家でタブーとなっている、親のことが連想されてしまったから。

親のことについては心のどこかにわだかまりがあって、私も兄もなかなか話が出来ない。


「ぶしつけなんですが、ご両親は?」

遠慮がちに風見君が聞いてきた。

「…両親は6年前に別れて、それぞれ新しい家庭持ってるの。私たちはいらない子ってわけ」

「こらこら。違うよ」

兄が身を乗り出して、頭を優しくいたわるようになでてくれる。

「でも、もう慣れたから全然平気。私にはお兄ちゃんがいるし。ただお兄ちゃん、私がいるから恋人も作らないで独りなんじゃないかって。それだけが心配」

「そうなんだよねー。引く手あまたなのを、片っぱしから断り倒して。全く罪な男だわ。そのうち刺されちゃうかも。あ、生命保険入っておかなきゃー」

なでていた手で、ぽんぽんと頭を叩かれる。

「嘘嘘、ぶっちゃけ全くモテナイだけだから気にするなよ。な」

「うん、そうだと思った」

「なんだとぉ」


この兄の底なしの明るさとバイタリティに、ずっと救われてきた。

本当に兄には頭が上がらない。


「親のことって難しいですよね。子は(かすがい)と言いますけど、子供には親のことはどうにも出来ない」

「んだなぁ……難しいな」

風見君にも、何か心を痛めることがあるのだろう。

彼女としては無理だけど、友人として力になりたいと思う。


「ちーちゃん、俺のこと兄だと思っていつでも頼ってくれな、兄だと思って何でも言っちゃって」

ことさらに兄を強調して、兄をけしかける様子が可笑しい。

照れ隠しに、そんなふうに言う感じがした。

「あのぅ…目の前に本物の兄がいるんですが…」

「えっ、あっ、そうでしたっけ? 忘れてました」

「風見君の方がお兄ちゃんぽいかも」

「でしょー」

兄の座が危ないー!とわめく兄を、ふたりで笑い合った。



帰り際、風見君が心配そうな表情で覗き込んでくる。

大丈夫だよ、ありがとう、という気持ちを込めて微笑むと、一度うなずき微笑み返してくれた。




風見君には随分甘えてしまったと思う。

元々は、風見君の助けになりたいと思って始まった仲なのに。

これ以上甘えてはいけない。

受験が終わったら、距離を取ろう。


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