(9)
次の日、夕食後に風間君から同じお守りを貰った。
由佳に貰ったものと同じだと伝えると、「あー」と声を上げる。
「河村さん同じの買ってた。ちーちゃんにだったのか」
「効果2倍だよ。ありがたく貰うね」
「俺のちーちゃんは愛されてるなぁ。うんうん」
馬鹿兄がニヤニヤして嬉しそうにする。キモイ。
「俺の、とか言うな。気持ち悪い」
「きもちわるい…ひどい…ひどいよー」
25の男が泣き真似をするな。キモイ。
「そういえば河村さん、貴史さんのこと言ってましたよ」
「お? カッコよくって頼りがいがあるって? 参ったなー。困っちゃうなー」
「いえ、すごく面白い人よね~と」
「……それだけ?」
はい、と頷く風見君。
兄が「はぁ……」と頭を抱え始める。
「いつもそうなんだよね、面白い人止まり。世の女の子は見る目ないよね。何故こんなイイ男を放って置くのか常々不思議でたまらんちん」
「見る目あるから、放って置かれてるとか」
「…風見君、それどういう意味?」
「風見君、正解」
「ちーちゃん、そこは兄を庇うべきでしょ。6年ふたりで暮らした仲じゃないかー」
そこで会話が止まってしまった。
兄が、しまった、という顔をする。
我が家でタブーとなっている、親のことが連想されてしまったから。
親のことについては心のどこかにわだかまりがあって、私も兄もなかなか話が出来ない。
「ぶしつけなんですが、ご両親は?」
遠慮がちに風見君が聞いてきた。
「…両親は6年前に別れて、それぞれ新しい家庭持ってるの。私たちはいらない子ってわけ」
「こらこら。違うよ」
兄が身を乗り出して、頭を優しくいたわるようになでてくれる。
「でも、もう慣れたから全然平気。私にはお兄ちゃんがいるし。ただお兄ちゃん、私がいるから恋人も作らないで独りなんじゃないかって。それだけが心配」
「そうなんだよねー。引く手あまたなのを、片っぱしから断り倒して。全く罪な男だわ。そのうち刺されちゃうかも。あ、生命保険入っておかなきゃー」
なでていた手で、ぽんぽんと頭を叩かれる。
「嘘嘘、ぶっちゃけ全くモテナイだけだから気にするなよ。な」
「うん、そうだと思った」
「なんだとぉ」
この兄の底なしの明るさとバイタリティに、ずっと救われてきた。
本当に兄には頭が上がらない。
「親のことって難しいですよね。子は鎹と言いますけど、子供には親のことはどうにも出来ない」
「んだなぁ……難しいな」
風見君にも、何か心を痛めることがあるのだろう。
彼女としては無理だけど、友人として力になりたいと思う。
「ちーちゃん、俺のこと兄だと思っていつでも頼ってくれな、兄だと思って何でも言っちゃって」
ことさらに兄を強調して、兄をけしかける様子が可笑しい。
照れ隠しに、そんなふうに言う感じがした。
「あのぅ…目の前に本物の兄がいるんですが…」
「えっ、あっ、そうでしたっけ? 忘れてました」
「風見君の方がお兄ちゃんぽいかも」
「でしょー」
兄の座が危ないー!とわめく兄を、ふたりで笑い合った。
帰り際、風見君が心配そうな表情で覗き込んでくる。
大丈夫だよ、ありがとう、という気持ちを込めて微笑むと、一度うなずき微笑み返してくれた。
風見君には随分甘えてしまったと思う。
元々は、風見君の助けになりたいと思って始まった仲なのに。
これ以上甘えてはいけない。
受験が終わったら、距離を取ろう。