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日曜日、気持ちの良い快晴だった。


衣類とシーツを洗濯、布団を干して、部屋に掃除機をかける。

2DKなのでそれほど時間はかからない。

それからお風呂洗い。

泡立つスポンジを握る手をふと見ると、荒れてあかぎれのひびだらけだ。

家事をするくせに、手入れを怠っているから。

女を捨ててるなぁと苦笑する。



インターホンが鳴って玄関扉が開く音が聞こえた。

「ち~~ちゃん♪ ケーキ作ってきたの。一緒に食べよ~」

由佳だ。

ちょうどお茶をしたいと思っていたところなので嬉しい。

「いらっしゃい。お風呂洗ったらすぐ行くから、コタツ入ってて。スイッチ入れてねー」

シャワーで風呂釜を洗い流すと、念入りに手に保湿クリームを塗りつけた。



アッサム紅茶で淹れたミルクティーを飲んで、由佳がふっと息をつく。

「ちーちゃんの淹れるミルクティーはいつも美味しいね」

「やめてよ。誰が淹れても一緒よ」

ほんとよぅ、と目を細めて彼女が微笑んだ。

簡素な部屋も心なしか華やかに感じる。

お腹に浸透するミルクティーのぬくもりのように、彼女が一緒に居ると心が休まる。

我がイトコながら、不思議な子だといつも思う。


ブルーベリーとサワークリームがたっぷり乗ったチーズケーキ。

「…うまぁ……」

チーズケーキと、甘酸っぱいブルーベリー、ほのかな酸味のサワークリームとの組み合わせが絶妙だ。

「美味しいね! こりゃプロ級だよ。叔父さんの店で出せるんじゃない?」

「まさか~。まだまだよぉ」

私の伯父にあたる由佳のお父さんは、飲食店を何店か経営されている。

製菓の専門学校を出て、そこでパティシエとして働くのが由佳の夢だ。



「貴史さんは? まさかまだ寝てるなんてことは…」

「お兄ちゃんは、掃除の邪魔だから叩き起こしてやった! ついでに買い物を命じて追い出した!」

「もう、相変わらず暴君なんだから。ふふっ」



「沢木君とはどんな感じ?」

気になっていたことを聞いてみる。

困ったような表情が返ってきた。

「うーん。沢木君とはあれから何にもないよ~。あの人はよく分からない人だよね」


よく分からない人。

私もそうだ。

先日、沢木君について、彼と親しい美穂に聞いてみた。


『そうだよね、うん、ごめんな。由佳のこと心配してるんだよね』

美穂はさも私の考えてることが解る、と言いたげだ。

『あいつは…悪い奴じゃない。確かに遊んでる。でも遊びと本気の区別はちゃんとする奴だよ。ドSで人を食った態度だから、誤解されがちだけどね』


うーん…。

確かに遊んでて、ドSで人を食った態度。

それに、遊びと本気の区別って?

セフレと彼女ってこと?

美穂は信頼してる。

でも悪い奴じゃない、とはとても思えない。

私的にはどんな鬼畜な遊び人なんだ、って感じなんですが?!




「風見君とはね、昨日出かけて来たよ~」

「………」

不意打ちに、言葉が詰まってしまった。

胸の内の色んな感情をぐっと飲み込む。

「そっかぁ」と精一杯の笑顔で言う。

ふぅ、言えた。

ちょっと顔はひきつってたけどきっと大丈夫。


「これ、おみあげ~。受験頑張ってね」

学業のお守りだった。

二人で神社に行ったのか。

何だかとても、二人らしいなぁと思った。

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