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「ちーちゃん、ただいまー! お友達が来てるの?」

馬鹿兄が帰ってきたようだ。

風見君を連れてキッチンに行くと、馬鹿兄がシャツとトランクスの姿で居た。


「同級生の風見といいます。お邪魔してます」

「まさか、ちーちゃんが男を連れてくるとは…お兄ちゃんショック…」

「もももう、何て格好してるの! 恥ずかしいし、風邪引くわよ! ちゃんとしてよぅ」




今日はすき焼きにしたのでした。

同じ鍋をつつく私と風見君…間接キッス! いや間接間接間接キッスくらい?

我ながら発想が超キモイが、あぁ…幸せ。

馬鹿兄も一緒なんだけどな。


馬鹿兄のグラスにビールを注ぎながら、念のため言っておく。

「変な誤解しないであげてね、お兄ちゃん。風見君は由佳が好きなんだよ。私とはただの友達だから」

「ほほー?」

というか、由佳に告白までしてるし。

「ちょっと深山さん!」

「誤解されたらいけないから、ちゃんと言っておかないと」

「由佳ちゃんに惚れるのは男として分かるぞ! 小動物みたいに可愛くて、何かこう…男心をくすぐるよな。守ってあげなきゃって気持ちをかきたてるというか」

「このロリコン…由佳にそっくりチクっておくね」

「やめれーッ」

向かいを見ると、そうそう、そうなんだよね…と何度もうなずく風見君。こいつらめぇ…。



「ちーちゃんはどうだ? 性格はねじ曲がってるが、家事全般そつなくこなす良いお嫁さんになるぞー」

「はぁ…」

「ちょっと風見君、あらかさまに嫌な顔しないでくれる?!」

「つ、つい…」

「君に肉はやらん! 肉禁止!! ちーちゃん見張っとけ」

「了解!」

「いいですよ、野菜好きですから」

「じゃあ野菜禁止だ!」

「なら肉を頂きます」

「うぬぬ…」

く、敵は手強し……。




「じゃあまた明日。ごちそうさまでした」

「また。気をつけて帰ってね」

リズムよく揺れる自転車が、冬の闇に遠ざかっていく。


アパートに戻ると、兄は上機嫌にまだビールを飲んでいた。

「いい奴じゃん。こういうのも、賑やかでいいもんだな」

「うん」

「お兄ちゃんがお嫁さんを貰えば、いつも賑やかになるのになぁ」

「げはっ…それを言うなよう、ふぅ」

むせ返る兄の背中をさすってやる。


「次はいつ来るんだ?風見君」

「明日。受験終わるまで平日は毎日来てくれるって」

「毎日?! 何でそこまでしてくれんの?」

「いい奴過ぎるのよ。私も申し訳ないから毎日じゃなくていいって言ったんだけどね。受験まであとひと月しかないし、協力するからには全力でやりたいらしくて、毎日来るって聞かないの」

「うーん…。何か下心があるとか? 男は狼なんだぞ。一応気をつけろよぉ、ちーちゃん」

「風見君に限ってそれは無い無い!」


何を言ってるんだ、馬鹿兄。

だから風見君は由佳が好きなんだよ。何も起こらないっつうの。




1週間経っても、もちろん何も起こらない。

でも、ひとつ変化があった。


「ちーちゃん、ごちそうさま。またね」

「またー……ん? ─────ッ!! ちょっと風見君! ちーちゃんて!!」

「別にいいじゃんか。河村さんやお兄さんと一緒」

少し恥ずかしそうな笑顔を残して風見君は帰って行く。


そう、私への呼び名が変わっただけ。

ただそれだけなんだけど…、こ…こそばゆい………。

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