(6)
風見君、言っちゃったよ─────!
卒業式に告白するのが目標だったのに…。
諸々すっ飛ばして、告白しちゃった─! うひゃあぁ。
なんというサプライズ。
まさか今日に、好きな人の告白を目撃することになろうとは。
上手くいって欲しいような、いって欲しくないような……。
応援しないといけないのに、本音ではやっぱり複雑。
由佳はどう応えるんだろう…。
茫然自失して凍りついたままだ。
そりゃそうだよね、まさかカラオケしてて告白されるとは思わないよ。
それも二人に。
見てる方も驚きで声が出ないんだから、当事者の由佳はもっとだろう。
一方、沢木君はニコニコした笑顔を崩さない。
この状況を楽しんでるようにも見える。
何なんだ、この余裕たっぷりのイケメンは。
そもそもおまえが元凶なんだー!
「あーあ。由佳が困って固まっちゃってるよ。二人とも由佳を困らすのは本意じゃないでしょ? 返事はしばらく待ってあげなよ。じゃあフェアに、ってことで、沢木も風見も由佳と連絡先交換してもらいな」
結局、美穂がその場を仕切り、カラオケは解散になった。
週開けて月曜日、風見君が私の住むアパートに来ている。
平日、学校が終わってから、私の家庭教師をしてくれることになったのだ。
好きな人とふたりっきり!
恋愛小説だったら、何かが起こるべくして起こる絶好のシチュエーション!!
今夜何かが起こる! ……………わけはないのであった。
夕食の下ごしらえを済ませて私の部屋に行くと、風見君がこたつテーブルに座って、ギャラクシーヒーロー伝説のDVDを見ていた。
幸い、うちには外伝含めて全巻揃っているので、待って貰う時に暇にさせないで済みそう。
いそいそと私もこたつに入る。
風見君と同じこたつに入れる幸せ。むふふ…
「待たせてごめんね。うち母親いなくてさ、私がご飯作らなきゃなんだ。良かったら風見君も一緒に食べて行きなよ」
「悪いよ」
「いいから、いいから」
強引に説得して、お家の方に夕食はいらないと連絡して貰った。
「由佳とはどう?」
「………俺のことよく知らないので、友達からお願いします。ってメールがあった。それだけ」
「そっかぁ…。でも、はっきり断って無いなら、沢木君とも付き合うわけじゃないんだろうし、いいんじゃない? しかし……ほんとにビックリしたよ………」
「俺もビックリした。とっさに俺も告白しちまうし…もう春まで冬眠してたい気分だよ」
「気持ちを伝えられたのは良いことじゃん。ライバル牽制もできたんだし」
もし断られることになっても、好きな人に気持ちを伝えられたのは、素晴らしいことだと思う。
私みたいに、もうここまで乗りかかった船にどんぶらこしてると、告白も出来ないよ…くふぅ。
「ライバルが沢木君かぁ…すごい対抗馬が出てきたねえ」
沢木君と、風見君。
どっちも学校でトップクラスのハイスペックだと思う。
ただタイプは全く違う。
沢木君が優雅なアフガンハウンドなら、風見君は朴訥な秋田犬?
由佳はどっちを選ぶんだろう。
「沢木にかなうわけねぇ」
「そんなこと無い無い! 私は断然風見君の方がいいと思うよ。自信持ちなって」
「お…おう」
「ただ、沢木君の方が女性経験が豊富そうだよね。風見君は由佳一筋だったから、全く経験無さそう。その点がちょっと不利かなぁ」
「う、当たってる」
「のんびりしてたら、あっという間に沢木君に由佳を取られちゃうよ。だから私の家庭教師はいつでも休んでいいからさ、由佳はもう専門学校に入学が決まってるし、積極的に由佳を誘うんだよ。 あんな女たらしに由佳を渡すのは心配だもの、頑張って」
「いや、家庭教師はきっちりやらせてもらうよ。さ、これにまとめて来たから、明日までに覚えて。ひとつずつ理解できるまで見ていこうか」
差し出された紙を見ると、A3用紙にパソコンでびっしりまとめられている。
私の為にここまでやってくれるとは…。
風見君、ありがとう。
「ちなみに、毎日1枚な。ちゃんと覚えていけよ」
「うはぁ……」
こたつテーブルの斜め向かいに座って、丁寧に教えてくれるんだけど…
近い、近いよー!
風見君の顔が近いよーーー!
息がふぅっと顔にふきかかる。ひえええええぇ!
ある意味天国だけど、ある意味拷問だ。
心拍数上昇、冷や汗をかきながらも何とか一通り教えて貰った。
はぁはぁ…耐えきった。ってどんな苦行やねん!
「深山さん、男に免疫無いんだなあ。顔まっかっか」
「─────ッ!」
「俺も人のことは言えないけど、俺以上なんじゃない?」
クスクス笑って、さもおかしそうに言う。
風見君だからなのよー! 誰のせいだと思ってるんだあ!
「か、か、風見君が近すぎるの!! そういう風見君こそ、由佳の前では顔まっかっかなんだから!」
「うえッ!まじか…」
本人に見せてやりたいよ、由佳の前での風見君のデレデレ顔を!!