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土曜日のカラオケは、ファーストフード店に集合だった。


店のガラス窓越しに、楽しげに向かい合う風見君と由佳が見える。

私服の彼を見るのは初めてだった。

黒を基調にシックにまとめている。彼らしいなぁと思った。



顔を赤くして、ニコニコ笑いながら由佳に語りかける風見君。

うんうん、と可愛い笑みを返す美穂。

何だか…かなり良い雰囲気!?


ぐ、ぐふぅ……。

実際目の当たりにすると想像以上にキツイ。

今さらだが、私のやってること、風見君を応援するということは、こういうことなんだ。

胸がきりきり痛い。

息苦しささえ感じて、身体から変な汗が出てくる。

頑張れ自分! 風見君の幸せを受け入れないと…。

私は意を決して店に入った。




「ち~ちゃん聞いて! 風見君『タルタルズ』好きなんだって。結成当時のこととか、すごく詳しいの~」

「へえ、由佳と趣味合うね」

さすが優等生。下調べはバッチリか!

「あ…」

風見君の前の、未開封のチーズバーガーを取ってやった。

「風見君なぁに?」

「いえ、何でもございません…」


「風見君が来るなんてびっくりしたよ。ちーちゃんと仲良いんだね」

「うんにゃ、別に良くない。勉強教えて貰ってるだけだよ。」

まだ何も教えて貰って無い。

でも誤解を与えぬよう、ここはちゃんと否定しておかねばならぬぅ。



「あと来るのは美穂?」

「美穂ちゃんと、沢木君。沢木君と話すの初めてなの。緊張するよ~」


美穂は由佳と同じクラスの女の子で、たまに今日みたいに私も一緒に遊ぶ。

サバサバとして男勝り、言動はきついけど情がこまやかで、とても周りに気を配る子だ。

大学生の彼氏がいるらしい。

───沢木は……あの沢木…?




「お待たせー、沢木が逆ナンされててさ」

「こんにちは、遅れてごめんね」


店に入ってきた美穂の隣に、超絶イケメンがいた。

やっぱりそうだ、沢木智也!

185cmの長身、軽くウェーブのかかった長めの髪がふわふわ揺れている。

ドイツ人のハーフだかで、色が全体的に薄い。

家は資産家で、成績もトップクラス、スポーツ抜群。

いつも爽やかな笑みを浮かべて、フェロモンをまき散らす。

風見君と同じくらいの、いやそれ以上の超ハイスペック男じゃないか。

もちろん私は断然、風見君だけどな!


噂では、次々と女をとっかえひっかえしているらしい。

しかも相当なレベルの人でないと付き合わないとか。


何故そんな彼が、私たちとカラオケ?

その疑問は、すぐに解けるのだった。




───そうしてカラオケボックス。


風見君が『タルタルズ』の曲を、見事に歌い上げた。

練習したんだなぁ。

息子の成長を喜ぶ、母親のような心境になってしまう。


「わぁ、風見君上手いねぇ~~!」

「あ、ありがとう…」

喜ぶ由佳の隣で、風見君が真っ赤になって照れている。


それを見た美穂が苦笑して、ぼそっと漏らした。

「分かりやす……」

「やっぱ分かるよね…」

私も苦笑いを浮かべるしかなかった。

「あいつもなのよ」と美穂が沢木君にそっと顔を向けた。

「へ?」

ま、まさか………。



続いて沢木君も、風見君が歌ったのとは違う『タルタルズ』の曲を披露した。

なぜこいつも『タルタルズ』なんだ?

それはさておき、上手い。

風見君も上手かったけれど更に上手い。

透き通った美声が心地よく耳に残る。

容姿も相まって、まるでテレビで芸能人を見てるかのような錯覚を起こしてしまう。

何なのぉ、この何でも出来る超絶イケメンは…。





───そして、歌い終わった後、沢木君はさらりと言ってのけたのだ。


「河村さん、良かったらさぁ、僕と付き合わない?」


……。

………。

…………。

……………?!


柔らかく微笑んだままの沢木君。

由佳を含めて、あまりの急な出来事に周りは凍りついた。

何故そのタイミング? 何故ここで?!

口をぱくぱくするだけで、驚きのあまり声が出てこない。

しばらく、いや途方もない沈黙が続いた気がする。


その沈黙を破ったのは風見君だった。



「いや、俺と付き合おう。河村さん、俺と付き合って下さい」


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