(5)
土曜日のカラオケは、ファーストフード店に集合だった。
店のガラス窓越しに、楽しげに向かい合う風見君と由佳が見える。
私服の彼を見るのは初めてだった。
黒を基調にシックにまとめている。彼らしいなぁと思った。
顔を赤くして、ニコニコ笑いながら由佳に語りかける風見君。
うんうん、と可愛い笑みを返す美穂。
何だか…かなり良い雰囲気!?
ぐ、ぐふぅ……。
実際目の当たりにすると想像以上にキツイ。
今さらだが、私のやってること、風見君を応援するということは、こういうことなんだ。
胸がきりきり痛い。
息苦しささえ感じて、身体から変な汗が出てくる。
頑張れ自分! 風見君の幸せを受け入れないと…。
私は意を決して店に入った。
「ち~ちゃん聞いて! 風見君『タルタルズ』好きなんだって。結成当時のこととか、すごく詳しいの~」
「へえ、由佳と趣味合うね」
さすが優等生。下調べはバッチリか!
「あ…」
風見君の前の、未開封のチーズバーガーを取ってやった。
「風見君なぁに?」
「いえ、何でもございません…」
「風見君が来るなんてびっくりしたよ。ちーちゃんと仲良いんだね」
「うんにゃ、別に良くない。勉強教えて貰ってるだけだよ。」
まだ何も教えて貰って無い。
でも誤解を与えぬよう、ここはちゃんと否定しておかねばならぬぅ。
「あと来るのは美穂?」
「美穂ちゃんと、沢木君。沢木君と話すの初めてなの。緊張するよ~」
美穂は由佳と同じクラスの女の子で、たまに今日みたいに私も一緒に遊ぶ。
サバサバとして男勝り、言動はきついけど情がこまやかで、とても周りに気を配る子だ。
大学生の彼氏がいるらしい。
───沢木は……あの沢木…?
「お待たせー、沢木が逆ナンされててさ」
「こんにちは、遅れてごめんね」
店に入ってきた美穂の隣に、超絶イケメンがいた。
やっぱりそうだ、沢木智也!
185cmの長身、軽くウェーブのかかった長めの髪がふわふわ揺れている。
ドイツ人のハーフだかで、色が全体的に薄い。
家は資産家で、成績もトップクラス、スポーツ抜群。
いつも爽やかな笑みを浮かべて、フェロモンをまき散らす。
風見君と同じくらいの、いやそれ以上の超ハイスペック男じゃないか。
もちろん私は断然、風見君だけどな!
噂では、次々と女をとっかえひっかえしているらしい。
しかも相当なレベルの人でないと付き合わないとか。
何故そんな彼が、私たちとカラオケ?
その疑問は、すぐに解けるのだった。
───そうしてカラオケボックス。
風見君が『タルタルズ』の曲を、見事に歌い上げた。
練習したんだなぁ。
息子の成長を喜ぶ、母親のような心境になってしまう。
「わぁ、風見君上手いねぇ~~!」
「あ、ありがとう…」
喜ぶ由佳の隣で、風見君が真っ赤になって照れている。
それを見た美穂が苦笑して、ぼそっと漏らした。
「分かりやす……」
「やっぱ分かるよね…」
私も苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あいつもなのよ」と美穂が沢木君にそっと顔を向けた。
「へ?」
ま、まさか………。
続いて沢木君も、風見君が歌ったのとは違う『タルタルズ』の曲を披露した。
なぜこいつも『タルタルズ』なんだ?
それはさておき、上手い。
風見君も上手かったけれど更に上手い。
透き通った美声が心地よく耳に残る。
容姿も相まって、まるでテレビで芸能人を見てるかのような錯覚を起こしてしまう。
何なのぉ、この何でも出来る超絶イケメンは…。
───そして、歌い終わった後、沢木君はさらりと言ってのけたのだ。
「河村さん、良かったらさぁ、僕と付き合わない?」
……。
………。
…………。
……………?!
柔らかく微笑んだままの沢木君。
由佳を含めて、あまりの急な出来事に周りは凍りついた。
何故そのタイミング? 何故ここで?!
口をぱくぱくするだけで、驚きのあまり声が出てこない。
しばらく、いや途方もない沈黙が続いた気がする。
その沈黙を破ったのは風見君だった。
「いや、俺と付き合おう。河村さん、俺と付き合って下さい」