(3)
次の日、風見君に渡したいものがあって、学校が終わってからファミレスに来て貰った。
別にファミレスで無くてもいいんだけど、風見君と一緒にファミレスで食事をしたい! という私のささやかな野望の為なのでした。
役得役得。むふふふ…。
「これと、これと、あとこのストロベリーパフェお願いします」
「俺は半熟卵付きカルボナーラで」
注文を取った店員が去っていくと、風見君に小声で言われる。
「深山さん…太るぞ」
「私は痩せの大食いなの」
「痩せ? 誰が?」
私はメニューを縦にして、失礼極まりない男の頭をバシッと叩いてやった。
「おごろうと思ったけど、深山さんがそんなことするならやめた」
こやつめ……!
好きな人を目の前にしたら少食であるべきかなぁ、とちょっと反省。
でもいいや。どうせ私に気持ちが向くことは無いしね。
だからだと思うけど、風見君と居て胸はキュンとなるものの、緊張はしなくて素の自分を出せる。
身近な感じさえして、こういうのも悪くないと思う。
「ほんとに全部食べやがった…」
「ふふふ。食べ物を残すと勿体ないお化けが出るんだから」
「お化け??」
不思議な顔をする風見君をスルーして、本題を切り出した。
「風見君は今週土曜の放課後、空いてるかな?」
「何も予定は無いけど。勉強の件?」
「良かった。勉強は来週からでいいよ。でね、土曜由佳と友達とカラオケに行くんだけど、風見君も行かない?」
「……河村さんとカラオケ…、河村さんと暗い密室に一緒………行くッ!」
なんか危ないよ風見君…! 変な人になってきてるよ…!!
元からこんな性格だったのか!?
ずっと見つめてきた隠れストーカーとしてちょっと自信無くなってきた…。
「風見君、『タルタルズ』ってバンド知ってる?」
「あんまり。曲を何度か聞いたことある程度かなぁ」
「由佳の好きなバンドなの。特にボーカルが好きらしいよ」
私も結構好きで、由佳と一緒にコンサートも行ったことがある。
鞄の中からCDを数枚出し、風見君に差し出した。
「『タルタルズ』のCD。貸してあげるから土曜までにマスターして来てね」
「ええッ!? 土曜に俺がこれを歌うの?」
「そうよ。由佳へのアピールなんだから頑張って。めぼしい曲をリストアップしてこのメモに書いてあるから参考にしてね。よし、練習がてらカラオケ行くよー!」
「風見君、下手~~~~~~~~!!!」
「だから…、何度か聞いたことある程度なんだって。急に歌えないっつの!」
「もう! 見本見せるから聴いててね」
「うめぇ…」
「上手くないよ。って、なに勝手に曲入れてるの~~!」
「…小倉圭」
「あー、私も好きだよ。ギャラクシーヒーロー伝説ってアニメの、エンディング曲がきっかけでハマった。風見君、渋いの好きなんだねぇ」
「マジカッ!! 俺その作品めっちゃ好きなんだけど」
風見君がキラキラした目で私を見てくる。
硬派な朴念仁が、意外とアニメ好きとか、私のツボをつかないで!
その後は、結局ギャラクシーヒーロー伝説の曲ばかり歌うことになってしまって…。
「また二人でカラオケ来ような!」
「うひゃッ!」
私の手を取り言う始末。
手があぁ、手が触れてる!! ななな何という卑怯な不意打ち!!!
しかも少し汗ばんでて、生々しいよ! ひええぇ…
頭がとろけそうになるけど、断腸の思いで風見君の手を振り払った。
「風見君、当初の目的忘れて無い!? 土曜のカラオケで上手くやって、由佳に印象付けなきゃなんだよ!」
キッと睨んで、言い聞かせるように言う。
「あぁ、家でちゃんと練習してくるから。さ、深山さん、次は1期のオープニングいこうぜ」
おいぃ…。こやつめ、ちゃんと聞いてますかー!
なんたるタルタル