(2)
私は風見君をずっと見てた。
そうしていたから彼がずっと誰かを意識して、目線を送っていたのが分かる。
その誰かとは、私のイトコの、河村由佳だった。
だからモテるだろう彼に、高校に入って全く彼女が出来なかったのだと私は思う。
河村由佳は私のいとこで、私や風見君の3年2組の、隣のクラスの3年1組。
1、2年の時は同じクラスだった。
真っ白の肌に桃色のほっぺ、可愛らしい童顔の顔立ち、絹のようなサラサラの肩までの髪。
同性の私でも思わず抱きしめたくなる、まるで子猫のような女の子なのだ。
性格もほんわかしていて、癒し系の愛されキャラ。
私が勝てるわけないし、勝とうとも思わない。はなから白旗だ。
「ちーちゃん、クレープ食べに行くんだけど一緒に行かない~?」
風見君とゴミ捨てから帰って来ると、帰り支度を済ませ友達を連れた由佳が廊下にいて誘ってきた。
ふわふわして、やっぱり今日も可愛い。
「ちょっと約束あるから今日は行けないや、由佳ごめんね」
いいよ~、と由佳は手を振って去っていく。
横に居る風見君を見やると、顔を赤く染めて由佳を熱く見つめていた。
ハハハ、分かりやすい奴め!
ぼーっとしている風見君をツンツンつつく。
「今日は作戦会議の予定だったけど、今度にして由佳とクレープ食べに行くのもいいね、どする?」
「いっ、いやいいよ。河村さんとデートだなんてそんな僕……」
風見君が茹でダコみたいになってて、顔をぶんぶん横に振る。
デートじゃないし!
キャラ変わっちゃってるよ!! しかも一人称僕とか…。
由佳の可愛さは、硬派な風見君をこうまで変化させるのか。おそるべし。
ヤキモチで胸が痛くなるけれど、由佳相手なら仕方ない、とさえ思ってしまう。
加えて、こんな風見君も可愛いなぁと感じる救いようの無い私なのだった。
掃除が終わって放課後、私と風見君は二人教室に残っていた。
「作戦の流れとしては…何とか仲良くなって、バレンタインにチョコを貰う!これが第一の目標ね。最終目標は3月1日の卒業式で告白すること。でもその先にホワイトデーもあるし、お返しと共に告白でもいいわね。うまくいかなくても共同戦線はホワイトデーまで。それまでは出来る限り協力するわ。分かった?」
「…チョコ…河村さんからのチョコ……」
風見君は、どうも由佳のこととなると、たまに人格変化スイッチが入るようだ。
とりあえずスルーして続けることにする。
「出来る限り、仲良く出来る機会を作るから。ね? やってみない?」
今度は何やら考え込んで難しい顔をする風見君が。
どんな表情の風見君もかっこええのぅ…。
「いくつか聞きたいことが。最初に確認しとかなきゃだけど、今は河村さんに彼氏はいないの?」
「いないわ」
風見君が表情が少し柔らかくなった。そりゃ由佳に彼氏がいたらこんなことはしない。
「好きな人もいないの?」
「それは知らない」
とたんに表情が曇る。分かりやすい奴め。
「私が聞いたら教えてくれるかもしれないけど、それを流石に風見君にバラすのは出来ないよ。風見君を全面協力するけど、由佳を裏切るようなことは私はしたくないから」
「あぁ、そうだな」
「風見君が由佳好みの男になって振り向かせるの! 卒業まであと少し、駄目元でやってみない?」
「お、おす。元々諦めてたし、卒業まで頑張ってみる。協力頼む。でも…」
「何故深山さんが、ここまでしてくれるんだ?」
う…。
それは…あなたが好きだからです!
あなたとの思い出が欲しいからです!
何より、あなたの優しさに恩返ししたいからです!!
言えないよー!
「ええと…、受験もうすぐだし勉強教えて貰えたら…いいかなって」
「…分かった。そういうことなら全力で協力させてもらうよ」
私グッジョブ!
ナイス言い訳に自画自賛したが、彼の優しさにつけこむような理由にちょっと心が痛む。
しかし、悲しいかな成績が悪くて協力が欲しいのは本当なのであった…。
「あともう一つ教えて。何故俺が河村さんを好きなこと知ってんだ? 俺、誰にも言ったこと無い」
ううぅ…。
訝しげな視線が注がれる。言葉に詰まった。
あなたが好きで、ずっとあなたを見てたから分かるんです、とは口が裂けても言えない。
「えっと、私そういうのに敏感だから、なんとな──く分かっちゃったのよ!」
「そっか…。無意識に河村さんのこと、いつも見てたからなぁ」
そうそう、そうなのよ。
それを私がどんな思いで見ていたか。罪作りな奴!!