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「卵粥作って来たよ」

「食べたく無い……」


白の家具で統一された可愛らしい部屋に、風邪をこじらせた由佳がふせっていた。

昨日今日と、昼間は由佳のご両親が仕事で側に居られないので、私が代わりに世話に来ている。


「こらこら。食べて体力つけないと熱下がらないよ。無理にでも食べてね」

「うん…」

「食べさせてあげるから、あーんして」


小さい口にほどよく冷ました粥を運ぶ。

昨日は熱にうなされて何も食べられなかったけれど、今日は体調が回復して、食欲が少しわいてきたみたいだ。


「ふふ」

「何笑ってるの?」

「ひな鳥に餌をあげてる気分だなって」

「もぅ。私はピーピー鳴いて無いわよ~」


二人で笑い合っていると、インターホンが鳴った。


「出てくる、ゆっくり食べててね」

「ありがとぉ」





リビングのモニターを見ると、例の楽しげで仕方ない男の笑顔が映っている。

由佳のお見舞いに来たのだろう。


「沢木君、こんにちは」

「やぁ、イトコさん」

「すごい花束…」


鋳物の門扉の向こうで、沢木君は大きな花束を抱えていた。

20本はありそうなコーラルピンクのバラに、かすみ草が添えられている。可愛らしくて由佳にぴったりだ。

応接間に通すと、念のため由佳に部屋に上げていいか確認を取りに行く。



「由佳、沢木君がお見舞いに来てくれたよ。こーーーんな大きな花束抱えてるの! 通していいよね?」

「帰って貰って」

「え。でも…」

「会いたくないから。髪ぼさぼさだしパジャマだし…」


そういうことか。女の子だったらやっぱり自分が綺麗な時に会いたいものだ。

気になる異性には特に。

由佳も沢木君のことはまんざらじゃないのかな…?





「ごめん、今は会いたく無いって。熱もまだ下がって無いし、また風邪が治ったころに来てあげてくれる?」


沢木君の笑みが消えた。いや、一瞬消えた気がした。

刺すような鋭い表情が一瞬あったように見えたけれど…今はいつもの笑みが保たれていて私の見間違いかもしれない。

私が小さな疑問を浮かべていると、沢木君が大接間を出て行こうとする。


「悪いね、僕は会いたいんだ」

「ちょ、ちょっと待って、沢木君!」


私の制止を無視して、沢木君が階段を上り由佳の部屋に入っていく。





「こんにちは、お姫様。お加減はいかがですか?」


まるで中世のナイトのように一礼をして、私がさっきまで座っていたベッド横の丸椅子に腰かけた。


「帰って、って伝えたでしょ」

「君の顔が見たくてね。ここ何日か会ってくれなくて、もー限界」

「帰ってよぉ」

「熱で赤らんだ顔も可愛いよ」

「………」


沢木君の上半身がゆっくり前かがみになり…顔が由佳に近づいていく。

これじゃ顔と顔がぶつかっちゃう………。

あぁ…これはキスしようとしてるんだ!!

さらに顔が赤くなった由佳が、そっと目をとじる。

見ちゃいけないと分かりつつも、身体が固まって動かなかった。

もう少しで触れ合うというところで、沢木君が体を起こし振り向いた。


「イトコさん、申し訳ない。花を花瓶に活けてきてくれるかな?」

「あっ、う、うん。行ってくるね!」




応接間のローテーブルに花を活けた花瓶を置く。

さっきの続きをしてるだろうから、今はとても持っていけない。

ソファ―に腰をおろして前かがみに頬杖をついた。

はぁ…。何て光景を見てしまったんだ。

あまりの急な出来事に現実味がわかない。ドラマのワンシーンのように思えてなおさらだ。


由佳と沢木君か………風見君は悲しまないかな…。

一週間前の電話であぁ言っていたけれど、好きな気持ちが急に全部消えたりするだろうか。

私だったら絶対無理だ。




「帰って!」

由佳の大声が聞こえた。

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