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風見君の携帯に電話するのは初めてで、ちょっと緊張する。

一週間ぶりに声が聞けるのは嬉しい。


『こんばんは。試験どうだった?』

「受かったよ。 風見君のおかげだよ。本当にありがとうね」

『あー…良かった! おめでと。俺はちょっと手伝っただけさ。落ちてどう慰めようかずっと考えててさ、受かってて安心したよ』

「ばか」

『ハハ、ごめんごめん。湯たんぽ暖かくていいね。退院してからは母さんがずっと使ってて、よく眠れるって喜んでるよ』

「お母さん退院したんだ?」

『うん、3日前に退院して、今は伯父の別荘にお世話になってる。環境も良いしお酒も止めたがってるから今は落ち着いてるよ。ただ、家に戻ってからどうなるかまだ分からないけど』


お母さんの具合が安定してるのだろう、電話の向こうの声が嬉しそうに弾んでいる。



「あの、由佳への告白取り消したって聞いたんだけど…ほんと?」

『あぁ…本当』

「何で! 何でそんな早まったことしたのよ」

『俺なりに考えてのことだよ。あの告白が早まってたというか…』

「そんなことないでしょ。由佳のこと3年好きだったんじゃない。今からでも遅くないよ、取り消したのを取り消さなきゃ」

『もう決めたことだから取り消したりしないよ。3年…3年もバレバレだったのか。確かに可愛いなとは思ってた。でも、違うなって思ったんだ。だから神社に一緒に行ったときに謝って取り消した』

「神社って…だいぶ前じゃない。何で言ってくれなかったの? 相談してくれれば良かったのに」


相談してくれれば止めたのに。

今日、由佳だって風見君のことを気になってたって沢木君が言ってた。

両想いの良い関係になれたかもしれないのに。


『ごめん、言おうかなとは思ったんだけど、家庭教師に行く口実なくなるだろ。だから言えなかった』

「……口実って? タダ飯欲しかったとか?」

『タダ飯…。うん、そうだな。ちーちゃんと他愛ないお喋りしたり、お兄さんも一緒にあったかい夕食食べてさ、本当に楽しかった。家帰っても独りで、居場所があってどんなに救われてたか』

「……」

『要は、甘えてたんだ。…悪かった』


お互い長い沈黙が続く。

あれは…一緒に食事したいという私の下心有りの、家庭教師のお礼で。

風見君にとってそんな意味があったなんて。

お母さんと一緒ならもう来る必要ないだろうと思いながらも、「また来ていいよ」と私は返した。

いつでも甘えてくれていいよ、本当はこう言いたかったけれど照れで出来なかった。




「お兄ちゃん、私こっちの大学に決めたから。でも、私ももう大人だから、遅く帰ったり友達のところに泊ってきたりしていいから。遠慮しないでね」

「分かったけど……。急にどうしたの、さっき聞いた時はまだ考えるって言ってたじゃん?」

「だって…あんなこと言ったら行けないわ」

「ほぇ?」


不思議そうにきょとんとする顔に背を向け、兄の部屋のドアを閉めた。

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