表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

(11)

目の前にいる沢木君に追いつめられるように、屋上のシャイングレーの柵に背をつけた。

何かの力が宿ってるかのような琥珀の瞳に捕まって、観念して全てを吐露してしまった。

話が終わると、何を考えてるか掴み切れない普段の笑顔が、とたんに侮蔑の表情に変わり私に刺さってくる。


「ばっかじゃないの?」

「…………」

「そんな自分の気持ちを裏切るようなことしてどうすんのさ。何が応援だよ。心の底では二人に付き合って欲しくないんじゃない?」

「……でも風見君が由佳を好きなんだもの」

「関係無い。振り向かせればいいじゃん」


さも簡単そうに言う。

そんなことが出来るならとっくにやってる。


「風見と河村さんが付き合ったらどうせ君は泣くんでしょう? どうせ泣くなら気持ちをぶつけて玉砕して泣いた方がずっといい」

「……無理…」

「簡単さ。好きです、って言えばいいんだ」


またそんな簡単に言う…。

でも、彼の言うことは正論だ。私が卑怯で臆病なだけ。

由佳のことと優しさにつけこんで側に居て。自己満足で喜んで。

間違ってるのは私だ。


「そうね。分かってる。分かってるんだけどね…」


視界がぼやけて、目から涙があふれてくる。

泣いたのは、高校に入ってから初めての気がする。

初めて気持ちを誰かに打ち明けたこと、図星をつかれたことで、ずっと抑え込んでいた気持ちの堰が壊れてしまった。


「歪んでる。歪んだ愛し方だねぇ」


小さなため息が落とされる。


「まぁ…でも……そういうのも嫌いじゃないよ」


不意に横から肩を抱かれて驚いて顔を向けると、いつものゆらゆらした笑みが現れていた。

優しく抱き寄せて、そっとハンカチを手渡そうとしてくれる。

それは受け取らず、自分のポケットからハンカチを取り出した。

こういうことを簡単にするから、遊び人って言われるんだろう、沢木君は。

それから、予鈴が鳴るまで何も言わず静かに側に居てくれた。


「そろそろ戻ろっか。まー見ててみ? 君の思惑通りにはさせないから」

「……どうして沢木君はそんなに自信満々なのよ」

「僕ですから♪ ンフフフ」

「意味分かんないわ、もう」


自然と笑みが漏れる。

この人は美穂の言うとおり、悪い人じゃない。

自信家で、正直で、見てて気持ち良いとさえ思う。




教室に戻ろうと立ち上がった時、屋上の扉が勢いよく開いて風見君が見えた。

驚いた表情をして、こちらに向かってくる。


「眼も顔も真っ赤で…泣いてたの!? 沢木!何やったんだ」


風見君の後ろから由佳も現れて。


「沢木くん!!!! ちーちゃん泣かせるなんて、サイテ――!!」


屋上に怒声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ