(11)
目の前にいる沢木君に追いつめられるように、屋上のシャイングレーの柵に背をつけた。
何かの力が宿ってるかのような琥珀の瞳に捕まって、観念して全てを吐露してしまった。
話が終わると、何を考えてるか掴み切れない普段の笑顔が、とたんに侮蔑の表情に変わり私に刺さってくる。
「ばっかじゃないの?」
「…………」
「そんな自分の気持ちを裏切るようなことしてどうすんのさ。何が応援だよ。心の底では二人に付き合って欲しくないんじゃない?」
「……でも風見君が由佳を好きなんだもの」
「関係無い。振り向かせればいいじゃん」
さも簡単そうに言う。
そんなことが出来るならとっくにやってる。
「風見と河村さんが付き合ったらどうせ君は泣くんでしょう? どうせ泣くなら気持ちをぶつけて玉砕して泣いた方がずっといい」
「……無理…」
「簡単さ。好きです、って言えばいいんだ」
またそんな簡単に言う…。
でも、彼の言うことは正論だ。私が卑怯で臆病なだけ。
由佳のことと優しさにつけこんで側に居て。自己満足で喜んで。
間違ってるのは私だ。
「そうね。分かってる。分かってるんだけどね…」
視界がぼやけて、目から涙があふれてくる。
泣いたのは、高校に入ってから初めての気がする。
初めて気持ちを誰かに打ち明けたこと、図星をつかれたことで、ずっと抑え込んでいた気持ちの堰が壊れてしまった。
「歪んでる。歪んだ愛し方だねぇ」
小さなため息が落とされる。
「まぁ…でも……そういうのも嫌いじゃないよ」
不意に横から肩を抱かれて驚いて顔を向けると、いつものゆらゆらした笑みが現れていた。
優しく抱き寄せて、そっとハンカチを手渡そうとしてくれる。
それは受け取らず、自分のポケットからハンカチを取り出した。
こういうことを簡単にするから、遊び人って言われるんだろう、沢木君は。
それから、予鈴が鳴るまで何も言わず静かに側に居てくれた。
「そろそろ戻ろっか。まー見ててみ? 君の思惑通りにはさせないから」
「……どうして沢木君はそんなに自信満々なのよ」
「僕ですから♪ ンフフフ」
「意味分かんないわ、もう」
自然と笑みが漏れる。
この人は美穂の言うとおり、悪い人じゃない。
自信家で、正直で、見てて気持ち良いとさえ思う。
教室に戻ろうと立ち上がった時、屋上の扉が勢いよく開いて風見君が見えた。
驚いた表情をして、こちらに向かってくる。
「眼も顔も真っ赤で…泣いてたの!? 沢木!何やったんだ」
風見君の後ろから由佳も現れて。
「沢木くん!!!! ちーちゃん泣かせるなんて、サイテ――!!」
屋上に怒声が響き渡った。