>>>>手合わせの後
「もう〜降ろしてください」
恥ずかしさのあまり手で顔を隠した。手合わせ後、怪我のためフェルディオに抱えられて医務室に向かっている。ホントは怪我は大したことはない。地面に落ちる寸前に風魔法で衝撃を和らげていた。
「それにしても、君の剣捌きなら殿下を負かせることもできただろ?」
フェルディオはしっかり見ている。確かに負ける気はしなかった。
「それは、お嬢様が負けろと命じたからです」
フェルディオはイザベラのほうを見る。
「殿下が負けると、今度は下級生を相手にして、ボッコボコにしてしまうからです」
「なにそれ。……それはなんというか……」
降ろしてくれないまま、医務室に着いてしまった。移動中、生徒に見られ笑われ、落ち着かなかった。
医務室のベッドに寝かされ、イザベラからは怪我の確認をされる。
「大げさです」
「そんなことないわ。小さい傷と打撲もあるわね」
剣には当たってはないから、地面に落ちたときだろう。フェルディオも小さな傷を見つけてはイザベラに教える。
「君は、吹っ飛ばれたときと、地面に落ちた時に魔法使ってたね。うまい演出だったよ」
フェルディオはいつまでいるんだろう。運ばれただけでも恥ずかしのに……
「2人とも、今は、砕けた口調でいいよ。私の素性はバレてるみたいだし、隠しっこなしってことで」
(なんか知ってるな)
治癒魔法に集中しているイザベラを睨む。ちらっと、私と目が合ったが治癒を続けている。
「何か聞きたいことでも?」
「1番の疑問は、………イザベラ嬢は殿下に冷たいんじゃないか?」
「私はこの国の国母となるために、婚約し勉強もしている。殿下のためではないのよ。それに」
治癒は終わり、ため息をつく。漸くフェルディオに目を向ける。
「あなたも見たでしょ?あの2人」
「ああ、」
「殿下は女にだらしないのよ。優しくする必要ないのよ」
「王族だから女は集まるしな」
2人の話を聞きつつ、傷が癒え起き上がる。体を確認すると、服が土で汚れてしまった。着替えは持ってないし、このまま帰るしかない。
「イザベラ嬢は2人をそのままにしておくのかい?」
「他の令嬢からの嫌がらせを私のせいにするのよ。これ以上関わったら次はありもしない罪で死刑にされるわ」
「婚約はやめないんだな」
「………」
上着を脱ぎ、窓辺で服についた土を叩くがたいして綺麗にはならない。
そんな様子をフェルディオは見ている。
「君は、身体強化なしで、あそこまで打ち合えるとは…息もあがってないし、」
打ち合うというか、殿下が一方的に打ってきたのが正しい。
「……師匠のおかげです」
「私の国では豪傑の鬼神と言われてるよ」
他国にも別名があるのか。どんだけすごいんだ……師匠。
「で、ナナは剣と魔法どっち?」
「…………………」
剣の扱いもたけ、魔法も使えるのは疑問に思うのも無理はない。
「……どちらでもないです」
「え?」
まあ、そんなリアクションになりますよね。
「ナナは孤児だからよ」
イザベラはフェルディオに椅子に座るよう促す。私とイザベラはベッドに腰掛ける。
「孤児でも、選択の権利はあるだろ?」
それはフェルディオの国ではそういう考え方なのか。
「この国は、王族・貴族至上主義なのよ。平民はそんな権利は認められていない…ナナは選択儀式ができないから『どちらでもない』のよ」
「孤児は近衛騎士になれるのか?」
「まず無理ね。私が陛下にお願いして近衛騎士の所属にしてもらったの。一時的に男爵の位にしてもらってね」
お願いをすんなり聞く陛下にも、びっくりだったが、この件に口うるさくする貴族が出てくる様子もない。陛下が黙らせたのだろう。
この国の平民差別は根強い。平民だからと学園も行けないし、騎士試験も受けれない。私の近衛騎士は異例なのだ。
文句を言ってきた騎士をボコボコにしたこともある。へへへ…
「お嬢様。そろそろ…」
懐中時計を確認し、声をかけた。医務室を後にし、馬車まで行くの、だが…フェルディオがついてきた。
「あの…まだ何か?」
王子なんだよな?…ニコニコして、柔和な人。比較できるのがザッオールしかいないから、参考にはならないか。
「王城に行くなら、陛下にご挨拶をっと思いまして」
「急な訪問はできません。まず先触れを出してから…」
「大丈夫でしょ。挨拶くらいなら」
イザベラは立ち止まり、振り返る。…いいのか…?許可なく連れて行っても……あ、
「馬車には乗せませんから!婚約者以外の男性を密室の馬車に乗せたら、どんな醜聞が広まるか」
「えー……じゃぁ!君みたいに認識阻害を使うのはどうだろ?」
すかさず遮音を施す。とんでもないことをバラしやがった。
「だから、気をつけてねって言ったでしょ。さっさと行くわよ」
気をつける度合いが半端ない。フェルディオといっしょに王城へ行くことになった。