>>>>ザッオール・ルート
「殿下…、お可哀想…」
確かにそう言った。
「リリアーナは優しいな」
上階の廊下から、あの2人の様子が見える。噴水のある庭に生徒がくつろげるようにとベンチやテーブルを置いている庭。
『チョロいでしよ』
【ええ…呆れるくらいに】
2人を見届ける、2つの影は移動する。図書室の複数ある机の1番奥に、1人は座り1人は半歩下がった位置に立つ。
『お願い』
本を読みながら、声をかける。
【他の生徒がいる中でするのは、おすすめしませんが…】
渋々承諾し、座っている人の肩にポンっと触る。
「はい、いいですよ」
騎士のナナが声をかける。本は読むふりをしながら、話しているのは、イザベラ。
「たまには、図書室でゆっくりしたいのよ」
「…遮音魔法を使ってまで?」
「お話はしたいもの」
イザベラは、妃教育と学園の両立をうまくやってのけている。学園では成績は優秀。よくやる…
「リリアーナは殿下の好感度爆上がりね」
「でも、速すぎませんか?好感度はイベごとに少しずつ上がるイメージがありますが?」
ゲームはやったことはないが、聞いた限り急激に好感度が上げれないはず。
「それは殿下ルートだからよ。さっきも見たでしょ」チョロい…か。
「褒められれば、図に乗る。令嬢が集まるのは、王族という肩書ではなく、自分に魅力があると勘違いする…そんな男だからよ」
はぁ……なんともクズ男…。
護衛のため、話をしていても感情が顔にでないように気をつける。イザベラが進級してから護衛についているが、表情にでないようにするには疲れる。
「好感度は簡単に上がる代わりに、…まぁ他のキャラにもあるけど、バッドルートがあってね。殿下の場合、分岐が分かりづらいのよ」
?すんなりハッピーエンドとはいかないのか。
「クロムエルに妹がいるんだけど、超絶シスコンになってヒロインとともに部屋に閉じこめちゃうとか、」
!?監禁…犯罪じゃん!
「ダイタナはヒロインを奴隷として、よしよししちゃって…さらには奴隷売買を始める」
!?奴隷もこの国では犯罪だ!
「アーサーは辺境の戦地にヒロインと行って戦死」
!?死んだ?
「ウイルズは生徒に手を出したとして、解雇と闇落ち」
!?禁断の恋愛は危険…だわ。
どれも怖いんですけど?
話に夢中になってしまい、学園の鐘で懐中時計を確認する。
本を閉じると同時に、魔法を解除する。
「お嬢様、王城へ参りましょう」
「そうね。妃教育のあと、陛下にあいさつをしないと」
妃教育は主に王城で行う。進級してから、教育の内容が多くなり、授業より妃教育のほうを優先しないといけなくなっている。
学生たちに笑顔であいさつをしながら、専用馬車まで歩く。馬車に乗り込むと、口調も気にせず、友達として話せる唯一の時。
「妃教育、よくやるな」
「目標のためだもの」
イザベラにつきあっているのも、護衛だけでなく他のサポートも、その目標が成就するため。
「殿下のバッドって、なに?」
「いや〜これは〜……んー…、言いづらい」
まぁ後でゆっくり聞くとしよう。一時緊張が解け、口元が緩む。
数日のち、殿下がリリアーナを生徒会に勧誘した。その前からイザベラを生徒会にしつこく勧誘していた。ゲームでは生徒会入りしているのだが、断り続けている。聞き入れてくれないため、陛下に根回しすることにした。
図書室の決まった席に座り、遮音魔法で会話をする。
「先日、リリアーナを勧誘してました」
「…予定どおりね」
今日は西側の言語の教本を呼んでいる。
「リリアーナ以外の令嬢には?」
「数人、デートしてました」
イザベラは大きなため息をついた。その報告を受けた私は、ドン引きでため息も出なかった。
「王族に入りたい令嬢は多いわ。これから、もっと増えるでしょうね。婚約者が相手しないんだから」
ノートに言語を書き出しながら、発音する。私は周囲の警戒をしている。
「…来ました」
図書室に入ってきた男子生徒は胸に生徒会バッチを付けている。探す素振りをするかと思ったが、まっすぐこちらに向かってくる。
「ほぅ」
私たちより数歩離れたところで立ち止まり、イザベラではなく、どこか眺めている。
「これは、防音結界?いや…風魔法を使った、遮音か」
他の生徒は気づくことのない魔法を見破られた。そもそもこの魔法は見えないはずだ。
「ああ、失礼。生徒会長が来るようにと」
気づかれた時には魔法を解除した。何者なのか…!自分の中で警戒を強めた。
「わかりました」
今度はイザベラと私を交互に見る。
「あの魔法は、イザベラ嬢が?……いや、そちらの騎士かな」
は?バレないように魔法は使っていたほずなのに。
「ナナ、こちらは留学生のフェルディオ様です」
動揺は隠せているだろうか…と思いつつ会釈をする。
さぁ行きましょう、と席を立ち、イザベラに続きついて行く。
このあと、殿下とイザベラの言い合いが始まり、リリアーナ登場となる。褒めれば照れて納得する、殿下のチョロさがさらに目立つイベントだった。
馬車に乗り込み、私もため息をつく。手合わせすることになった……そのこともあるが、
「まさか、フェルディオが隠しキャラだった?」
「そうよ」
「早めに教えてよ!魔法も見破られたし、焦ったんだから」
なんか意地悪に笑っている。カバンから教科書を出しパラパラとめくる。
「続編の攻略対象キャラでもあるの。隣国の王子で、魔法を選んでるけど剣も修行しているの」
入学式で攻略対象キャラを全員見つけれたら、オリエンテーションでフェルディオに会うイベントが起きるのか。続編への布石にもなってる…と。
「フェルディオは珍しく、魔力が見えるの。気をつけてね」
まさか、わざと魔法を使わせたのか!?フェルディオに気づかせるために!?
「いやいや、だから早く教えてよ」
今日はいろいろありすぎて、ポーカーフェイスも崩れそうでしたよ。
「この〜生徒会へのお誘い〜イベントで、好感度から親密度に変わったわ」
何が違うのかがわからない。
「いい?好感度は好きの気持ち。親密度は心や体…例えば手を繋ぐとか、キスとか」
なるほど…頷いたが
「もっと物理的に、親密しちゃうのよ」
「はぁ!?」
頭を殴られたような衝撃がした。それって乙女ゲームなの?
「一応、全年齢対象よ、このゲーム。まぁストーリーの合間とか、暗転、はどんなことをしていたなんて、わからないし〜」
「そうだけどぉ~」
だいぶ前にため息と落胆したことがあったことを思い出した。