生徒会にて
授業は共通科目と、オリエンテーションで選択した魔法の授業が始まった。あの時に会えなかった攻略対象者には会えたのは会えたのだが、あいさつだけで会話はないのに、令嬢からの嫌味は尽きることがない。【悪役令嬢】にも会えてない。「取り計らう」と言っていたのは本当で、学園長から相談を受けてくれる先生を紹介してくれた。
アーサーを諦めきれず、探したり、追いかけたりしたが、交わされっぱなし。剣の訓練場を見に行ってもいないし、そもそも魔法の私では訓練場に入れる時間帯が限られている。
他の攻略対象者とは何もないが、ザッオールには教室の移動時、登下校時、学食時に頻繁に会うようになった。孤児だからと貴族から避けされているせいもあり、友達もできず一人ぼっちだからと、気にかけてくれ、会話もするようになった。でも、ザッオールの側には【悪役令嬢】イザベラはいない。
ザッオールにイザベラのことを聞いたが、「知らない」「どうでもいい」「妃教育だろ」婚約者なのに興味はないようだった。クロムエルも詳しくは知らなそう。
「愛想もなく、太々しい…愛せる気がしない」
「殿下…お可哀想」
たしかゲームではそんなセリフあったと思う。
「リリアーナは優しいな」
王子ではない、素のザッオールの笑顔にときめいてしまった。次第にザッオールの姿を目で追うようになった。
心がザッオールに傾き始めたころ。
「ぜひ、生徒会に入って欲しい」
ザッオールから誘われた。…!
これは完全なるザッオール『ルート』のイベント!
〜生徒会のお誘い〜
生徒会長のザッオールとの好感度から親密度に変わるイベント!
生徒会には、生徒会長のザッオール、副生徒会長クロムエル、アーサー、ダイタナもいる。もちろん【悪役令嬢】イザベラも。ええ…と、このイベのあとから、言葉だけでなく、教科書を破ったり水をかけたりとエスカレートするはず。もしかしたら、このイベから嫌がらせが始まるのかな…。
放課後、生徒会室へ向かった。ノックをしようとした時…
「なぜ、オレのいうことに従わない!?」
ザッオールの声だ。ずいぶんと声を荒げている。
「ですから、妃教育で生徒会の業務の時間がとれませんと、何度言ったら理解してくださるのですか?!」
イザベラだ。口調はきつい。ノックのタイミングが分からなくなって、2人の会話を聞くしかなかった。
「妃教育は陛下の命ですし、学園長にも陛下から話が通ってます」
「っ!」
「私が生徒会に入らなくても、優秀な方が大勢いるではないですか。殿下の人を見る目はとても優れていると私も、他の貴族からも言われてますのよ」
「そ、そうか」
ザッオールさすが!未来の国王なだけあって、身分や貴族の上下で見ないってことね。やっぱり【悪役令嬢】ねザッオールのお願いに応えられないなんて、私がザッオールを支えるしかない。
「失礼します、殿下。殿下は私が力になり、お支えします」
「…!」
イザベラが驚いているわ。ザッオールのお願いに応えられない貴女は不要よ。
「リリアーナ!ありがとう。よく来てくてた」
ザッオールは立ち上がり、私の側に来た。しかも肩に手を置いて引き寄せられた!わー……イザベラの前で〜こんなに密着していいんですか?
そういえば、物申す的な感じで入ってきたけど、生徒会メンバーはゲームどおりだ。やっとアーサーに会えたけど、前ほどのトキメキはないな。
「皆様!初めまして!生徒会に入るのことになりました。リリアーナ・ユシュナと申します。よろしくお願いします」
アーサー、ダイタナ、クロムエル一人一人あいさつを返してくれる。……あと見たことのない男の人…
「初めまして、留学で今学期よりこの学園に来ています。フェルディオ。3年生で、殿下と同じクラスです」
この人もかっこいいな〜。でもゲームにいなかったと思うんだけど。モブかな?
「私は生徒会ではないですが、イザベラです。お見知り置きを」
はい、知ってます。【悪役令嬢】のイザベラ。ザッオールの婚約者。
「殿下、やはり…」
元孤児を生徒会に入れるのは反対です!婚約者がいながらベタベタして!
みたいなセリフだった気がする。で、ザッオールが庇ってくれる…、流れ。
「反対するな!オレが決めたことだ!」
「殿下…まだ何も言ってません」
ザッオール…フライングですよ。肝心の嫌味セリフがまだなのに!
「私は…殿下の人を見る目は素晴らしいですね……の言おうとしましたのに」
「あ、そ…そうか…そうだろう」
ザッオールの誇らしげな表情もいいですね。
「生徒会に入れない理由もわかった。ただ、そこの騎士はなんだ?」
イザベラの横に姿勢正しく立っている…入学式時にもオリエンテーションに行く時にも、イザベラと共にいた女騎士。
「陛下のご厚意で私の護衛としてついています」
帯剣があるから、女騎士は«剣»ということか。ゲームでは騎士については触れてなかったな。初めてみる。
「近衛騎士の制服だな…女騎士なんか近衛でいたか?」
「いえ、私にも存じ上げません」
ザッオールもクロムエルも知らない…騎士。
「護衛をつけるにあたり、男性騎士では良からぬ噂がたってもいけないと、急遽女性騎士を近衛にしたそうですよ。ナナあいさつを」
「はっ!殿下、ごあいさつ申し上げます。近衛騎士ナナ。未来の王妃になるイザベラ嬢をお守りいたします」
あの制服は近衛騎士なのか。ゲームでは見れない物にワクワクするなー。
ナナという騎士が、国家紋章が刻まれた懐中時計を確認しイザベラに話しかける。
「申し訳ございません。馬車を待たせておりますので、失礼します」
「ああ…。ナナ!」
扉の前で立ち止まり振り返る。
「お前は«剣»か?」
「はい」
「今度、手合わせしてもらおう」
睨むような目で、口元は笑っている。
「恐れ多いことです」
「あら、ナナ。いいじゃない?殿下の剣技はすごいのよ」
ナナは常に無表情だ。騎士だからなのか、もともとそうなのかわからないが、笑えば可愛いと思う。
「…殿下、よろしくお願いします」
イザベラとナナは去っていった。イベントはクリアかな?
「クロムエル、ナナという近衛騎士のことを調べろ」
わかりました、と返事をした。