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彼と彼女の短編シリーズ

『国語』について~僕と先生~

作者: 紅月

「お前のテストなんだがな。」


 職員室に呼び出されたのだから何事かと思った僕に、国語を担当している先生が切り出したのはついこの間のテストについてだった。自慢ではないが、僕自身は校則をまったく違反せずにこの学校生活を送っている。無遅刻無欠席。自分でも少し悦に入っている。

 でも、先生が僕を呼び出した理由はまったく違うもの。そもそも、校則関連で呼び出されるはずも無かったのだけど、そうなると一体何がどうなってこの間のテストについて呼び出されることになるのかがわからない。


「お前の成績を見たんだがな…。」


 そういいながら先生は話し始めた。それによると、僕の成績は結構上のほうにあるらしい。そこまではよかったのだけど、そこで目に付いたのが国語の点数だったらしい。なんとなく、読めてきた。なので、先手を打つことにする。


「国語の点数が著しくよくないことですね。」

「ああ。」


 先生は何で分かったのかと、驚いたような顔をしながら僕を見るが、それは僕が中学時代にも散々言われていたことで、いまさら言われても痛くも痒くもないというか。ちなみに僕のテストの平均点は88点。国語をのぞくと平均点は92点になるらしい。

 たかが二点、されど、二点。昨今続く大学の受験戦争においてこの二点がどれだけ大きいのかは、大学を受験したことがない僕にはさっぱり分からないのだけれど、先生が気にするからにはやはり、大きいのだろうと思う。


「ぎりぎり、赤点にはなっていないが…、国語の何が苦手なんだ?」


 この発言から察するに僕の国語の成績を上昇させようとしているつもりらしい。答えを渋るのも怪しいし、僕としてもこの問題を解決できるならぜひとも教えて欲しいと思っているので正直に話すことにした。


「例えば、ですね。『山に登って笑顔でいた時の主人公の気持ちを答えよ』っていうのがあったじゃないですか。僕はたしかその答えを『自分が山の頂上に立つことで山を征服したつもりになったから』って書きました。」

「その答えは違うな。そこは『登りきったことに達成感を感じていたから』が正答だな。」

「ええ、でも、僕はその辺の感性がおかしいのか〝山に登った=達成感〟ではなくて"山に登った=山を征服〟と考えるわけです。この話自体における主人公の感情の記載もとても曖昧です。」


 先生に頼んでテストの問題用紙を見せてもらうとそこには「山頂にたどり着き、太陽が昇るのを見て、彼の顔は自然と笑みを作った。その顔には、やり遂げたことによる満足感であふれていた」となっている。これじゃあ、山の征服(・・・・)を目的にしていたのか、はたまた、ただ山に登る(・・・・)ことだけを目的としていたのかがよく分からない。そう言うと先生はうなりながら首をひねった。どうやら彼は一般人よろしく(そういうと僕が一般人じゃないみたいだけど)山に登ったことへの達成感だとしか感じられなかったのだろう。


「でも、それだけじゃあ、ここまで点数は悪くならんだろう?」


 そして、他にも理由がある。さっき言ったことだけじゃあ、せいぜい十点分の減点にしかならない。実は、この時点で、僕はかなりやる気をなくしている。もともと、突然の呼び出しにテンションが下がっていた僕に更なる理由の説明を求められたことで、さらに下がる。

 なので他の理由を挙げるのも面倒で、逃げたいのだけれど、残念なことに今は放課後。帰宅部である僕には部活へ行くという理由が使えないので逃げれない。あーあ、である。


「漢字を覚えるのが嫌いなんですよ。」


 仕方がないので、説明する。

 別に、漢字を書けないわけじゃない。むしろ、普通に書ける。

 日常で使う漢字なら、使って覚えればいいのだけど、学校で教えられる漢字は、「絶対に自分で書かないであろう」というものが含まれている。そんなものを覚える気は僕にはさらさらない。ゆえにさらにそこで減点となるわけだ。

 他にはあれだ。古文やら漢文の口語訳とか。大体、今の世の中、源氏物語や枕草子、土佐日記といった有名なものにはほとんど現代語訳版がある。よく、原文を読むことに風情を感じる、と言う人がいたりするけれど、僕はわざわざ原文を訳しながら読む必要を感じない。ゆえに、口語訳のやり方を覚えない。

 僕にとっての国語は、理解しがたく、不必要なことを教えられる迷惑な教科でしかないのだ、とまでは先生には言わなかったが、そんなものである。正直、国語をする暇があるのなら歴史を学んだり、将来使わないかもしれないけれど、化学の実験などをしているほうがよっぽど有意義だと思う。日本に生まれて、日本語を勉強する理由が分からない。国語という教科がどうしても必要なら、内容は敬語や、手紙の書き方といったもっと実用的なことだけでいいと思う。というか、それ以上を僕は求めていない。


「お前は進学する気がないのか?」

「いえ、進学はしたいですが、それでもやっぱり、僕と国語は性が会わないのですよ。」

「言い訳だな。」

「言い訳ですね。それくらい理解していますよ。」


 先生に睨まれながらも、僕は中学終了時には出していた結論をはっきりと自嘲気味に言った。中学のころはまじめに国語を勉強していた。当時の先生に


『少年老い易く、学成り難し。一寸の光陰軽んずべからず。という言葉がある。何事も時間をかけてゆっくり学べばいい。』


 学成り難し、だけにな。と(意味を履き違えているような気がする)名言を持ってきてまで言われて仕方なしにやったのだ。でも、まったく理解できない。それで、諦めた。諦めたので、今のように覚えようともしなくなった。それだけである。


「ドアを叩け、さすれば開かれん。って言葉を知っているか?」

「聖書ですね。」

「まぁ、そうだ。俺は国語の教師な訳で、生徒には国語を頑張って勉強して欲しい。なので、お前みたいにはじめから勉強しないやつは気に入らん。お前だって、国語の成績がこのままでいいとは思っていないだろう?」

「まぁ、思っていませんね。」


 一応は進学志望で、ここは有数の進学校な訳で、もらえるものならやはり、点は欲しい。そう言うと国語教師は意地悪い笑みを作った。この先生のこういう顔を見るたびに体育教師向きの性格だと思うのだけど、この先生は体が細すぎて、一説によるとまったく体力がないということで、体は体育教師向きではない。そのことが人事ながら僕にとっては、とても残念な事実だったりした。


「そういうわけで、俺はお前の代わりにドアをたたいてやろうと思うんだが、どうだ?」

「どうだって言われても、僕には何が言いたいのかさっぱり理解できないんですが。何をするつもりですか?」

「言ったまんまだ。」


 そう言って出してきたのは十枚のプリントだった。五枚が古文、漢文。もう五枚が漢字。そのことからどうやら今までやった小テストだということが分かった。わかったのだけど…。


「なんで、こんなものが出てくるんですか?」

「お前の過去の小テストの点数を平均すると大体三点というところだな。」


 ふむ、それくらいは僕も大体理解している。で、それがどうしたというのだろう。僕が理解できずにいるのが分かったのか、先生は呆れたように頭をかきながら僕に言った。


「それを、全部(・・)今週中に(・・・・)やって来い。それで、平均点が八点を超えたら、小テストの平均点を八点にしてやる。」


 テストの点数はいじれないが、小テストのほうで救済してやろうということらしかった。やっと理解できた。言い方が遠まわしすぎる。国語教師だからなんだろうか?

 でも、国語嫌いの僕がいくら点数のためとはいえ、こんなことをするだろうか。答えは否、である。正直、これだけやって、五点しか増えないのならやっても意味はない。そこで少しばかりあがくことにする。


「でも、僕だけこんなことをしていいんですか?」

「いや?やばいやつをみんな一人ずつ呼び出して同じ話をして、これを渡している。全員うれしそうに持ち帰ったぞ?」


 第一のあがき、贔屓の可能性はあっさりつぶされた。


「それに、別にノート見ようが、他の誰かの力を借りても全然構わんぞ。」


 第二のあがき、人を頼る、も先手を取ってつぶされた。それだけで、手詰まりになった。いや、足掻きだけに足詰まりか?どっちでもいいけど。

 てか、足掻きが二つしかないとか、悲しすぎるなぁ。そう思いながらも僕はおとなしくプリントを受け取った。せっかくなので、聞いてみることにする。


「先生にとって、国語ってなんですか?」

「俺にとってか?もちろん『愛』だが。」


 絶句。

 愛、ときたか。しかも、もちろんって。国語の何処に愛があるというのか教えて欲しいものだ。


「俺は国語を通して愛を生徒達に伝えているんだ。それに、俺は生徒を愛している。―――ついでに言うと、愛が伝わってないという突っ込みはなしだぞ?」


 僕が聞くよりも早く、そして突っ込もうとするよりも早く先手を取られた僕はこの先生が読心能力でもあるのではないのかと怖くなった。とりあえず、この先生が危ない人だと分かったのでさっさと職員室から出て行くことにした。


「俺は別に読心能力はないし、危なくもないからなー。」


 職員室から出て行く際に言われたことに、心読んでるじゃないですか、と突っ込みを入れながらも声には出さなかった。そして職員室から出てから気付いた。

 今日は木曜日。

 ゆとり教育が導入された今、土曜日に授業はない。補習はあるけど、出席義務はないので僕は一切、参加していない。(たいていの生徒は参加している。)これからも、よほどのことがない限り参加するつもりはない。我ながら、本当にこの学校の生徒なのか疑問になってくる。

 少し話はそれたが、一週間といえば、日曜日から土曜日までを、カレンダーはさしている。

 つまり。


「今週中って、実質、明日までじゃないか…。」


 僕は手に持っているプリントを見ながらため息をついた。

 どうやら、今日はこれから、友人のところへ行かないといけないことになったようだ。まっさらな国語のノートを思い出しながらため息をつき、僕は友人宅へ向かうべく自転車置き場へと向かった。

 今日は早く寝れることを願いながら。

今回使用した名言

名言集.com(http://www.meigensyu.com/)より

少年老い易く、学成り難し。一寸の光陰軽んずべからず。―朱子

ドアを叩け、さすれば開かれん―聖書


どもども皆さんお久しぶりなのです。

紅月です。

久々に書きました。

言い訳は活動報告で。

ここでは裏話的なことを少々。


・国語の先生について

実は、彼にはモデルがいます。(『僕』『彼女』にはいませんが)

中学時代の国語の先生です。

年度始めの授業で、「僕はみんなに愛を教えたいです」と言っていたのはいい思い出です。

愛を教えられた覚えがないのもいい思い出。

そんな先生は今も元気だとか。

この人をうまく書ききれていない感が否めないのは単純に自分の力量不足。orz

またいつかこの人は出したいな、と思う反面、このシリーズは『僕』『彼女』以外は一発キャラなのでどうなるかな。


・本当は・・・

『彼女』メインの話を書きたかったんですが、この話がむくむくとわきあがってきてしまった。

恐るべし、国語教師・・・。


・名言について

今回も前回も無理やり感が否めない入れ方ですが、一作につき二つは入れていきたいです。

でも、今回は、それっぽいの探すのに結構苦労した。

前回は結構種類があったんだけどなぁ。


今回はここまでです。

読んでくださった方に感謝を。

楽しんでいただけた方からは感想やら評価を期待しつつ。

三作目をお待ちいただけるといいなぁ、なんて考えながら。



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