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真実の愛がなくなってしまった後、待っていたのは。  作者: 家具付


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26 結末のセラフィ

「セラフィ、たくさん言いたい事はあるけど、ずっと、本当に、私のためにたくさんの事をしてくれて、ありがとう」


エレナ姫はそう言って泣きそうな笑顔になった。セラフィはうん、と頷いてから笑った。


「私もだよ、エレナ姫。これからは、元気にいっぱい、やりたい事をして、健やかに育って、幸せな自分の道をつかみ取ってね」


セラフィはそう言って、エレナ姫が抱きついてくるので、彼女を抱きしめ返した。

セラフィがエレナ姫の元に戻った後、本当に色々あったのだ。

誰が自分の噂を信じたのか、勅命がセラフィに下り、セラフィは怪獣大集合とカリナが言っていた、国王の軍隊の一つ、第四部隊の補佐に任命されたのだ。

家柄や、そのほかの事が一切考慮されていないそれは、まさに国王の命令でなければ起きる事のない人選で、一体なぜと誰もが思ったが、国王が


「アルヴァン隊長の事を、辺境の土地で真摯に支えていたと聞いているから」


と発言したために納得されたのである。

アルヴァンは英雄とされたが、叙勲される名誉を、自分の幼い部下をかばうために失い、与えられるはずだった貴族の名前も保留とされているのである。

そのため、貴族は誰も、多少武勲を立てただけの、第二王子の身代わりなんていう事しただけで、実際の血筋は卑しい平民のものであるアルヴァンの下につこうなどとは考えず、しかしこの三年間の間に、第四部隊の隊長として任命された隊長達が、もっても数ヶ月しか務められないと言う事も知っていた。

国王直属の部隊の隊長というのは、貴族の子息にとっては大変な名誉であるし、少しでも自分の身を立てたい貴族にとっては、この上ない肩書きにもなるのに、第四部隊の隊長として任命された、力もあり、頭もよく、魔力も申し分ない貴族達が、皆あっという間に辞表を提出するのである。

そしてこの三年の間に、この召喚士達の部隊が起こした、中くらいの問題は、数え切れないほどなのである。アルヴァンが隊長であった時は、一年に二回あるかないかだったというのにである。

だが召喚士達を野放しにはしておけない。彼等はとんでもない戦力であり、敵国との戦力数が二桁も違う状況でも、この国が勝利する大きな理由になっているのだ。

彼等を他の国に引き抜かれてはたまらない。言う事を聞かないのも大問題。

となって、彼等がまだかろうじて言う事を聞き、話に耳を傾ける男、アルヴァンが再び、第四部隊の隊長に就任した事は、多少モノの見える貴族には当然の事だった。

だがアルヴァンは三年の過酷極まりない月日の結果、体の動きに支障がある。国王が任せたい書類仕事を、以前と同じように一人で行う事はできない。

そういうわけで、辺境の土地で、アルヴァンにとても献身的だったと評判だったセラフィを、アルヴァンの補佐としたのは、多少の情報を持っている人間達からすると、正しい判断といえた。

彼女の有能さは、学園の関係者ならよく知っているのだ。そしてそれは王の耳にまで入っている。

そんなわけから、セラフィは第四部隊の宿舎で生活をして、アルヴァンの手伝いをする役割になったわけである。

元々セラフィは事務作業がそれなりに得意なので、書類の書き方がわからないといった問題や、計算ができないという問題は起こらない。

アルヴァンも今は一人では捌ききれないため、この補佐はとても重宝する人間になったといえるだろう。


「もしも、仕事がつらくなったら、こっちに手紙を送ってね。私も全力であなたを助けるから! あなたが私にしてくれたように!」


「その言葉だけで、十分だよ、エレナ姫」


セラフィはそう言って、エレナ姫に笑いかけた。


「エレナ姫のこれからの人生が、幸いでなくちゃね!」


「セラフィ!! ねえ、セラフィ! そろそろこっちに戻ってきてよぉ」


「あ、わかった! じゃあね、エレナ姫」


「ええ、そうだ、あなたの休日がわかったら教えてね、あなたと話したいから!」


エレナ姫の笑顔に、セラフィは同じだけの笑顔で頷いた。

そして、今日はガンザスをこちらに呼び出していないため、一人でセラフィを待っていたミロルナのほうに近付く。


「待った?」


「待ったのはあたしじゃなくて、隊長! アルヴァン隊長の補佐なんだから、セラフィはアルヴァン隊長を一番にしてよ!」


「お仕えしていたお姫様とのお別れくらいは、いいでしょ?」


「あたしそんなのわかんない」


「そっか」


ミロルナは誰かに仕えているという意識は全くないらしく、ただアルヴァンの言葉をある程度実行する位の感覚でいるらしい。それだから、叙勲式に乱入し、式を延長すると言う無茶をしたのだろう。

だがミロルナは、ほかの部隊の人間が束になっても叶わないほどの武勲を立てており、そしてこの国に彼女が愛想を尽かせたら、それはこの国の終わりの始まりなので、国王も強く叱れないのである。

一番怒っているのはアルヴァンらしい。まるで父親、とは第四部隊の召喚士の言葉だ。


「でも、大事な人とまた会おうって約束するのは、大事だってわかるよね」


「うん」


「それみたいなものだから、ね」


「セラフィはアルヴァン隊長のセラフィだけど、ほかにも大事なモノがあるの」


「召喚士の人達みたいに、唯一無二がある人間の方が、珍しいんだよ」


「それはアルヴァン隊長も言う。でもあたしはわかんない」


「もっとたくさんの事を経験したら、あなたもわかるよ」


そう言いつつ、セラフィはミロルナが握ってくる手に引っ張られて、第四部隊の執務室に向かった。


「遅れてすみません、セラフィ、ただいま来ました」


「ああ、エレナ姫との挨拶は終わったのか」


執務室では、今年度までに大量に、召喚士達がやらかした問題を確認していたアルヴァンが、セラフィの方を向いて言う。


「はい。これから、よろしくお願いしますね!」


「セラフィも、無理をして体を壊さないようにしてくれ。この前の頭痛は、鎮痛剤の使いすぎで、一歩間違えれば俺は死ぬところだったらしい」


「だからちゃんと用量を守ってっていったんだよ」


「そうだったな」


アルヴァンはかすかに笑う。その笑顔に、セラフィは胸の中がむずがゆくなって、そして笑ってアルヴァンの手伝いのために、書類の整理や計算に回っていったのだった。





これが、真実の愛がなくなってしまった後、それを貫こうとして裏切られた少女の一つの終わりの形である。


彼女がこの後の人生で、自分が何者で、何をするべきなのかを決めるのかはわからない。

だが一つだけ確実に言える事としては、


彼女は今、心からの笑顔で笑う事ができるという事なのである。



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