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25 竜使いのミロルナ


「で、お前は何か言いたい事があるんだろう、ミロルナ」


セラフィという女性が、アルヴァンの事をシルバヌス達に任せて、今世話係としてお仕えしている相手の、エレナ姫の元に戻っていった後、シルバヌスはミロルナを見やった。


「ええ、何の事だかわかんなぁい」


「しらばっくれるな。お前は物事がよく見えているだろう。そして嗅ぎ分けられるはずだ」


シルバヌスは、そう言って、二人医務室から出て行く通路で小さく言う。


「今度は、何を嗅ぎつけた。その共鳴する竜の嗅覚で」


「シルバヌスって、本当にそういうところ嫌い。アルヴァン隊長はあたしの秘密にしておきたいところは、ちゃんと見なかった事にしてくれるのに」


「そんな問題で終わるネタじゃないだろう、お前の感じを見るに」


「これだから、地獄の猟犬と契約する相手は嫌い。……でもまあ、いつまでも秘密にしてられないかもね」


ミロルナはそう言って、周りを見回した。細まった両目は、何かを見透かすように瞬いて、何かの確認が終わったらしい。瞬いた瞳を元に戻して、彼女は言う。


「セラフィっていった、あの女の人」


「彼女に何を見いだした」


「あの人、ガンザスより強いよ」


「……なに?」


「ガンザスが、ずっと警戒していた。念話で聞いてみたら、セラフィはガンザスより魔力変換率が遙かに高いって言ってた。ガンザスはこんな事間違ったりしない」


「待ってくれ、ガンザスはこの国の最強格の竜種の一匹だろう。彼が警戒するほどの高さとは、どれくらいだ」


「ガンザスの体感だと、七百五十だって」


「ばっ……」


でたらめか妄言としか思えない数字に、シルバヌスは絶句した。


「待ってくれ、アルヴァン隊長の百六十八ですら、驚天動地の世界で、一時期関係者が大騒ぎになったんだぞ、それを超えるのか」


「超えてるなんてかわいい話じゃないね。セラフィは強い。あたし達召喚士の部隊である、四番隊が総力を結集して、皆が共鳴を選んでも、確実に負ける」


「おい……そんな力の持ち主が、単なる辺境伯の末姫の世話係? 悪い冗談にもほどがあるだろう」


「多分あたしと似た感じで、測定器が最後の数字しか測定しなかったんだろうね、あの人は」


「なるほど」


シルバヌスはミロルナを見やった。ミロルナは生まれて初めての魔力測定で、彼女の家柄ではあり得ないほど低い数字を出した事で、娘の一人とは認めてもらえず、檻の中で育ったという過去がある。

これは、ミロルナが檻の中で、何でもいいから一人にしないで、と孤独に耐えきれず、そのとんでもない魔力変換率と、生まれによる膨大な魔力で、正式な術も知らずにガンザスを呼び出すまで続いた待遇である。

ガンザスは孤独な少女の呼びかけに答え、彼女が縛鎖の術など知らないままだったから、すぐに共鳴してしまったのだ。

そして彼女の実家を全壊し、家にいた人間を皆殺しにして、そのままその領地の人間を根絶やしにしかけた。共鳴した相手の孤独と絶望を救うために、竜種は力を余す事なく使おうとしたのだ。

それを止めたのが、アルヴァンである。

アルヴァンはリリィを使い、ガンザスを止め、ミロルナを召喚士の集まる問題部隊、第四部隊に入隊させたのである。

当時ミロルナはたったの七歳。そして人間の常識など全くなかった。そんな

七歳の子供の世話をしながら、アルヴァンはあらゆる雑事と、四番部隊の問題児達の後始末をして、三年前まで生活していたのだ。

第四部隊の召喚士の中でも、ミロルナのガンザスは桁が二つほど違うような強さだったので、それを抑えながら世話する事ができるというだけで、アルヴァンは部下達から一目置かれ、全員が言う事を聞き、話に耳を傾ける男になったのである。


「魔力変換率が八十三のお前よりも、第四部隊で最強の魔力変換率のアルヴァン隊長よりも、高い数字……」


シルバヌスは問題が降ってきた事に頭を抱えたくなりながら、言った。


「お前のガンザスが嗅ぎつけたのはそれだけか?」


「ガンザスは間違えないって、あんたが信じるならもっと話すけど」


「お前のガンザスが、この手の事で間違いを言った事が一度としてあったか」


「ないでしょ。あたしは間違いだろうが何だろうが、ガンザスを一番信じてる」


「じゃあ、その信じるガンザスの嗅ぎつけた事を、話してくれるか」


「シルバヌスは話の通りが早い。第四部隊以外だと、ただの妄想っていわれるけど」


ミロルナは自分より遙かに年上の、だが実力は自分よりずいぶんと低い男を見上げ、こういった。


「セラフィは、人間じゃない。あの人は……ガンザスや、あんたの地獄の猟犬デデスと一緒」


「どういう事だ」


「まだわかんない? セラフィの匂いは人間の匂いじゃない。セラフィは……」


ミロルナはそこで一瞬だけ間を置き、こういった。


「セラフィは、異界のモノだよ。本人はそれに気づいていないし、誰も気づいてないみたいだけどね」


「……!!」


「だから魔力変換率は七百五十っていうあり得ない数字で、人間の数値を測る機械じゃまともに数字も測れない」


ミロルナはさらに、爆弾に似た事を言う。


「セラフィは、異界の神の破片だよ。ガンザスがそうじゃないかって教えてくれた」


「……神に破片もあるのか、異界は」


「異界はこっちの世界と関わってるでしょ、シルバヌス。だから、こっちで笑い事にならない戦争が起きたら、あっちにも影響が出てくる。大量殺戮とか、大規模な土地の荒廃とかで、あっちの神様はあっちの世界とこっちの世界を直すために、自分の一部を切り落とすんだってさ」


それが神の破片なのだと、ミロルナはガンザスから聞いただけの事を話す。


「切り落とされた神の破片は、こっちに呼び出された後、何かと成り代わる。人でも獣でも道具でも。何かに。そして、存在するだけで世界の崩壊を食い止める存在になる」


「セラフィがそうだと?」


「アルヴァン隊長の呪いは、相当に根深い感じだってガンザスが言ってた。それを上から包み込んで、中和して、なんて。普通の力でも、人間でも竜種でも難しいだろうって。できるのはそれ以上の格の存在で、そうなったらもう、人間じゃないだろうって」


そしてセラフィは悪魔種の匂いはしない、とミロルナが断言する。


「悪魔種は、こう、すごく甘い匂いがする。でもセラフィは、そういう匂いじゃなかった。だから、悪魔種じゃない。そうやっていろいろ考えると、最終的に行き着くのは、神の破片って事になるんだって」


「……それを、お前は誰に話すつもりだ」


「誰にも言わない予定だった。シルバヌスが気づかなかったら、言わないつもりだった」


「相当な重大な話だぞ」


「それで、アルヴァン隊長が幸せになれるなら話したけど、話してもアルヴァン隊長は幸せにならなさそうだから、言わないって事にしたかった。アルヴァン隊長はあたしのお父さんだよ。お父さんの幸せを、娘が願わないで何するの」


竜種は家族愛が深い。人間など比べられないほど深い。そしてその竜種と共鳴するミロルナは、それと同じだけ家族愛が深いのだ。

ゆえに、父として見ているアルヴァン隊長の幸せにならない問題な話は、黙っておくつもりだったのだろう。


「……これは、一度陛下にお伝えしなければならない話になってきたぞ」


「なんで? アルヴァン隊長から、セラフィが取り上げられちゃうよ」


「だが、隠しておく事で、アルヴァン隊長にとって不利益が生じる可能性が高い」


「なんで?」


「それだけの驚異的な力の持ち主の事を、俺達が知っていたら、アルヴァン隊長も当然知っていると思われて、反逆の意思があるとされるからだ」


「アルヴァン隊長はこの国を愛しているのに」


「でもだ。人間はそういう疑り深いところが強い。だから俺達を、いつ裏切るかわからないと遠ざける」


「デデスも同じ意見みたいだね」


「デデスはそう言うのに詳しいからな。前の召喚士が、権力争いの被害を受けている」


「……じゃあ、デデスの忠告も聞いておいた方がいいんだ」


「そうなる」


「……人間って、いつも思う。面倒くさいって」


「俺もだ、ミロルナ」


「で、どっちが隊長に言う」


「俺が言おう。隊長から文句を言われるのは、副隊長の仕事だ」


「ありがとう」


そう言って、彼等は自分たちの宿舎に戻っていったのだった。


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