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23 再会するセラフィ

アルヴァンがそこそこの力を持っている事は、セラフィも知っていた。

だが、彼がそれらを全て、隷属の契約により失い、そして今彼を支配する立ち位置についているのは、自分だとセラフィはきちんと覚えていた。

彼の願いを叶えて、セラフィは彼と隷属の契約を結んだのだ。

それの力により、アルヴァンは魔力変換率が低い男となってしまっている。

ミロルナという可憐な桃色の髪の毛をした少女は、それがわかっていないのだろう。

だが手紙を書いたという事は、ある程度の事情を説明したという事だ。

事実アルヴァンはミロルナをじっと見た後に口を開いた。


「見て見ろ、四番隊所属、桃色竜ミロルナ。俺を見て何もわからないとは言わせない」


「ちょっとぼろ雑巾になっただけじゃんか」


「そのぼろ雑巾は、もはや召喚術を使用できるほどの力を持っていない。三年の間に俺からそれは失われたのだ」


ミロルナが信じられないという顔をした。


「誰がそんな真似ができるの。誰が! 召喚士アルヴァン隊長! あんたほどの力の持ち主を、リリィが耳を傾ける男を、誰がそんな状態にしているんだ!」


「もうすでに、それを行った人間は皆死んだ」


疲れ果てたような声で、アルヴァンは言う。そう言えば、顔色が悪い気がするのは気のせいだろうか。

セラフィは城の壁をぶち破ってきているというのにまだ応援部隊に当たる人間が誰もここに来ない事に、違和感を覚えつつも、彼等のやりとりを聞いていた。


「死んだら解放されるんじゃないの!」


「それはお前の勉強不足だ。死んだから開放されるものばかりではない」


子供に噛んで含める用に言い聞かせる、そんな調子でアルヴァンはいい、ミロルナの頭を片手でわしわしを撫でていう。


「お前は俺が戻ってくるのを楽しみに待っていたのだろうが、それは叶わないときちんと教えただろう」


「だ、だって、だって誰が、誰があたしたちの大喧嘩を、止めてくれるの? 一緒に怒られてくれるの? 罰則を一緒に受けてくれるの?」


そう言った少女ミロルナの顔からぼろぼろと涙がこぼれて来る。

アルヴァンという隊長は、子供の年齢の部下達に寄り添って、親のように、兄のように、彼等に寄り添って行動していた事が、そこから何となく察せられた。

いきなりそんな相手がいなくなり二度と帰ってこないというのは、子供の心には受け入れられない事で、だからこそ、こんな城の壁を破って現れるという乱暴な手段を、取ったのだろう。


「これからは自分だけで受けるんだ、ミロルナ」


「ううう、うええええええええんん!!」


ミロルナは見たところ、まだまだいたいけな年齢である。十二歳にもなっていないだろう事が分かる姿をしていて、その姿をしているのに、すでに召喚士という立場である事も、この暴走の原因の一つだろう事は、明らかなような気がしていた。


「だが最後に一つだけ、俺はお前達にやるべきだろう」



「ふぇ?」


ぐちゃぐちゃの顔でアルヴァンを見上げていた子供に、彼は頷いてから、国王の方を向き、頭を下げた。最高の角度の下げ方で、最も謝罪した角度と言われているそれである。


「この度のミロルナの暴走は、きちんと言い聞かせられなかった俺にも責任があります。ゆえに陛下、勲章などを没収し、それを処罰としてください」


これには誰もが言葉を失い、どよめいた。

誰しも叙勲される事は名誉だ、叙勲を目指して武勲を立てる人間の多さを、彼もよく知っているはずだった。

だがこの目の前の男は、ミロルナを庇い、部下の不始末の罰として、それを失う事も構わないと言っているのだ。

ミロルナは目を見開いてアルヴァンを見上げている。

顔色の悪いアルヴァンは、更にいう。


「もとより、与えられる事など考えもしなかった勲章にございます。どうかこの場の不始末を、それにておさめていただけないでしょうか」


国王はしばし黙った後に、じっとアルヴァンを見た。


「お前がそんな男だからこそ、私は勲章を与えるに至ったのだ、アルヴァン隊長」


「もうその名前は、召喚士を名乗れぬ俺には相応しくない物になっております」


アルヴァンは謝罪の体勢を崩そうとしない。ずっと頭を下げている。

ミロルナがそれを見ていて、そして。


「顔をあげよ、アルヴァン。三年も、我が息子のために身を挺した男を、どうしてミロルナ一人のために罰するのだ」


国王がそう言って、アルヴァンが顔をあげた時だ。

彼はいっそう血の気を失い、ぐらりと体が揺れたと思うと、そのまま倒れ込んでしまったのだ。


「アルヴァンさん!!」


耐えきれるわけがなかった。セラフィは人目などどうでもよくなって、とにかく彼のもとに走り寄った。


「アルヴァンさん!! って、あなたまた鎮痛剤飲み過ぎたんだね!?」


セラフィはアルヴァンから一瞬だけ漂った薬の香りが、かなり強い鎮痛剤の匂いだった事から、きつい声でそう言った。


「あの鎮痛剤は、飲み過ぎると内臓系に結構な損傷が出たりするから、二日に一回っていう事を治癒師のかたからきつくいわれていたじゃない! なんでこんな匂いが染みつくくらいぱかすか飲んでるの!」


「……セラフィ?」


倒れて目を回しているのだろうアルヴァンが、不思議そうにそう言ってから、何がおかしいのか不意に笑った。


「セラフィだ」


「そこは笑う所じゃないの! そんなに痛み止め飲むほど、体が痛いなんておかしいじゃない、あなた一体どんな無茶な事をしでかしたの!」


「……家に帰るのが、つまらなくて」


「アルヴァンさん、一般的にいう所の、仕事人間だったんだね? そんな人間だから、台所がすごくきれいだったんだ、なるほど」


人間生活をかなり端折って生活していたに違いない。あの家の中の、やたらに生活感のない台所はそう言う事を示していたのだ。


「どうしようかな。ねえ、そっちのお嬢ちゃん」


「あ、あたし?」


「この人人力で運ばなくちゃいけないから、あなた手伝える? この調子だとご飯も普通の固形物は受け付けないんだよね」


「あ、じゃあ召喚士の宿直所があるよ! ……あれ、あんた、アルヴァン隊長と同じ匂いがする」


「洗濯石鹸が同じ匂いなんじゃないかな、さて、よいしょ!」


そう言いつつ、肩の方をもって立ち上がったセラフィに、ミロルナは慌てて足の方を掴む。


「じゃあね王様! あたしたち隊長運んで寝かせるから!!」


ミロルナがにいっと笑って、呆気にとられた国王やそのほかの誰もを黙らせて、セラフィと共に竜の背中にアルヴァンを乗せて、竜が用件が終ったと言わんばかりに壁から体を外してどこかに歩き出す。


式典は台無しになったが、そもそもミロルナが入ってきた時点で台無しなので、国王は咳払いをして貴族たちを見回してこう言った。


「この度の叙勲式は、無期限の延期とする!」


それしか方法などなかったに違いなかった。貴族たちはあまりの出来事に囁いた後に、不意に成人したばかりの女性が友達にこう言った。


「あの青い髪の綺麗な女の子、あの子、貴族学校を飛び級で卒業したセラフィだわ」


「あの? 冤罪受けちゃったセラフィ?」


「間違いないわ、あの綺麗な顔は見間違いのないものだもの」


「いったいどこで、英雄と知り合いになったのかしらね」



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