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7.知られたくないこと

 

 他の生徒と同様、私は授業に入ることになった。



 とはいっても、私の入学時期は他の生徒とは離れているから、既に先を進んでいる生徒たちの中に混ざることになる。

 実質、先輩のクラスにひとり混ざったような気持ちで、少々居心地が悪い。



(でも、私は学位を取るために学園に来ている。なんとか授業についていくようにしないと……)



 授業は、社会の歴史や他言語など、座学のものが多かった。

 家で勉強した範囲でついて行けそうで、私はとりあえずほっとした。



 だが、それだけでは済まない授業もあった。



「魔法の授業は他の生徒とバディを組む……?」

「ええ。魔法の授業は今みたいな座学もあるけど、実践の結果は他の生徒と記録しあうのよ。不正をしないようにね。ノエルさんが組む相手は……誰か希望はある?」

「いえ、特には……」


 魔法の座学の授業の後、私は教師に話しかけれた。

 教師の質問に、私は首を振った。



 学園に入ってから数日経ったが、私は無難に、目立たないように、という方針を守って生活を送っている。

 初日に屋外でいちゃいちゃしているカップルの衝撃が強かったのもあるかもしれない。この学園にはアクの強い生徒も沢山いるのかもしれない、編入生として変に目立った行動をすると、そういう生徒に目を付けられるかも――という恐怖心が働いてしまった。



 故に、既に出来上がっているクラスの交友関係の輪に入れていない。

 端的にいえば、ぼっちだった。



 孤児院の子どもでこういう子がいたら、私は心配して話し掛けるだろうけど、自分のこととなるとてんで駄目だった。

 まあ、友達がいないとしても学業がどうにかなるならいいか――と思いながら日々を過ごしている。

 故に、このように二人組を作ってくれ、と言われても何の希望も出せなかった。




 そんな私の回答を聞いて、魔法の先生は頭を捻る。


「そうなの。じゃあ、私が適当に決めちゃおうかな……」

「先生!お困り事ですか?」



 魔法の先生が教室内を見回していると、遠くにいた生徒がひょこりと手を挙げてこちらへ来た。私よりもやや背が低く、かわいらしい感じの子だ。



「魔法のバディを探しているんですか?良かったら私が組みましょうかあ?」

「あら、いいの?あなたの負担にならないならいいけど」

「こっちは大丈夫です!私はサラ。ノエルさん、よろしくね」


 ベージュの髪の女子生徒――サラは、そう名乗ってにこりと笑った。







 サラと私はバディを組むことになった。

 サラは今まで誰かと組んでいたのではないか、とおそるおそる聞いてみたけど、今バディを組んでいる他の子の魔法はかなり安定してきたからそっちは放っておいても大丈夫なの、安心して――と言われた。

 優しそうな子で、私はほっとした。




 魔法の実学は、室内で暴発すると危ないからという理由で屋外で行われるのだという。

 私はサラに案内されて、人気の無い校舎裏へと行った。



 魔法学の第一ステップは、魔力を集めて手のひらに集めるというものだった。


 貴族の多くはその身体に魔力を持って生まれてくる。だが、使いこなすにはコツがいる。

 魔力を結集させて、物体的なエネルギーにするのが第一関門だと言われているらしい。

 ここでしくじると体内の魔力のバランスが崩れて健康被害が出るので、王立学園のように専門家がいる場所でないと中々魔法の習得は出来ないのだという。

 家にお金が無かった私も、今まで魔法の練習をしたことは無かった。


 ちなみに、ギフトの場合はこのような学習をしなくても発現すればすぐに使うことが出来る。神からの贈り物と言われる所以だ。

 ギフトを更に使いこなすには、それはそれで学習が必要らしいけど、私の場合はギフトを使いこなせる場面というものがほぼ存在しない。とりあえず汎用魔法を使えるようになっておきたかった。




「はぁ……!」


 貧乏貴族とはいえ、一応伯爵家に生まれた私にも魔力は備わっているようで、私は早々にふわりと輝く玉を手のひらに作ることが出来た。これは魔弾と呼ばれるものだ。これを作れれば第一の課題はクリアらしい。



「すごーい!」


 サラは私の魔法の記録を付けた後、ぱちぱちと手を叩いた。甘い声で私を賞賛してくる。


「もっと時間がかかるかもって思ってたけど、すごく早く終わっちゃったねえ。ノエルさん、すごいよ!」

「……あ、ありがとう」



 ふわふわの女の子に褒められるのは、なんだか照れる。

 魔法の予習のために家ではひとりで勉強していたけど、こうして誰かに褒められながら課題をやっていくのも悪くないな――と思った。



「ところで、ノエルさん……」


 サラは、私をじっと見つめながら聞いてくる。……こう至近距離で見上げるように見つめられると、どこか小動物みたいだ。

 私はどぎまぎしながら対応する。



「な、なに?」

「王立学園に編入生が来るって、かなり珍しいことらしいの。ノエルさんが来たってことは、何か大きな事件でもあったのかなあ?例えば、すごくいいギフトが発現した、とか……」

「いやあ……そういうおめでたいことは何も……」

「そうなの?じゃあ……家の事情?」

「まあざっくり言うと、そうだね」

「へええ……大変だね」

「そんなこと無いよ!家のことでも無ければ魔法を勉強する機会も無かったし、他の生徒にも会えなかっただろうから、今はこれで良かったかなって思ってるよ」

「ふうん……」



 私は、サラの質問に答える。



 自分の家が借金持ちで借金返済のために来ました――と全てを話すのは難しかったから、ところどころ誤魔化すような形になってしまったけど。

 でも、学園に来れて良かったというのは本心だ。


 私は社交界デビューしていないこともあって、今までサラのような同い年の子と友人になれたことがない。


 サラは社交的な子で、クラスでも沢山友達がいるようだし、私とはまだまだ知り合いレベルだということはわかっているけど……。

 今後もっと仲良くなれたらいいな、と胸の中では思っていた。



 +++



「うん!二回目の実習はここでやろう」

「ほ、本当にここでいいの……?」

「大丈夫大丈夫。さ、道具を持って」



 サラに連れられた私は、到着した場所を見て少し戸惑った。

 ここは学園内にいくつかあるカフェテリアの中の、一番大きい店から見える場所だ。店までは距離があるから私達の話し声までは聞こえないだろうけど、姿は見えている筈だった。





「ノエルさんは魔力を弾にすることは早めに出来たから、二回目の実習も難しくないと思うよお。はい、魔弾で撃ってみて」



 サラは地面に立った丸い的を指さした。

 的はルーレットのようにいくつかの色がついていて、中央は赤い。そこから外にいくにつれて色が薄くなっている。



「オレンジ、ピンクあたりに当たったら合格ね。でも、初めてだと方向を定めるのは難しいだろうから、その補助道具を使ってね」

「うん、ありがとう」



 私はサラに渡された補助道具を手に持った。これは魔力の流れを整える道具で、魔弾を撃ちたい場所に向けると、狙いを定めることが出来るのだという。


 私は呼吸を整え、魔弾を生成する。


 そして、補助道具を使って、的に当てようとして――


「……、あれっ?」


 魔弾は明後日の方向へと向かい、消えていった。




 そこから何度か魔弾を作って撃ってみたけど、的のどこにも当たらない。

 私は困って、サラにコツを教えてもらおうとした。



「ねえ、サラ……」

「……ふふふ」




 私は、あれ、と思った。


 サラが、あの甘い声でくすくす笑っている。



「……的にも当たらない人なんて、初めて見た。補助道具付きなら、みんな白いところには当てられるものなんだよ」


「そ、そうなんだ。ごめんね。なるべく予習はしてきたんだけど、手間取っちゃって……」


「やっぱり――借金持ちでギフトも使えないなら、汎用魔法も出来ないかあ」



 サラの言葉を聞いて、私は身を固くする。

 その刺々しさにも驚いたけど……、何故彼女は、私の事情を知ってるんだろう。


 沈黙する私に、サラは真顔になって口を開く。



「驚いた? ちょっとだけ調べたんだよ。あなたが何か隠していることはないかって。そしたら、色々出てきた。リエット家はオルビス家に借金をしている……。アルジェント様とはそういう繋がりがあったんだね」


「……アルジェント様のことを知っているの?」


「うん。成績優秀なだけでなく、そのギフトの希少さで教員の研究にも協力している。素敵な方……。アルジェント様に憧れの気持ちを伝えようとしたのに、私とは交流の時間を設けてくれなかった。でも、あなたとは校門で話していた……」



 その言葉を聞いて、私は数日前のことを思い出す。

 ――あのとき、サラは私達のことを見ていたんだ。




「ねえ、ノエルさん。本当にあなたはギフトが使えないの? 実は洗脳のような能力があって、アルジェント様にこっそりかけているんじゃない?」

「な――なんで、そんなことを」

「だって、そうでもないとアルジェント様があなたと話す理由が思いつかないもん。それとも、あなたが借金でのつながりがあるのをいいことに、アルジェント様に無理矢理絡みにいってたんじゃない?私、それが一番納得出来るな!」

「そんなことは……」

「あ、そうなんだ!全部違うんだ。じゃああなたはアルジェント様がプライベートで話したいって思うくらい、優秀なのかな?それなら魔法を使えるとこ、早く見せてよ。出来ないなら……やっぱり、汚い女なんだなって思う。そんな子、うちのクラスにも学園にもいて欲しくないな……」



 サラの低い声を聞いて、私はやっと理解する。

 ――サラは、私と仲良くしたいと思っている訳じゃなかった。

 ただ邪魔者だと思って、排除しようとして近づいてきただけだったんだ。



(初めて同年代の友達が出来るかなって思ってたけど、違ったんだ……)



 内心で私は落胆する。

 期待したことが外れて、もしかしたら自分の考えていることは何もかもが的外れなんじゃ――という気持ちが湧いてくる。



 汎用魔法なら使えると思っていたのも、間違っていたんじゃないか?

 王立学園には汎用魔法の試験もある。これで結果を出せないなら、学位を取ることも難しいだろう。



 サラは魔弾を当てれば認めてくれるという。

 それで済むならそうしたいけど――、正直、当たる気がしない。

 私たちの後ろにはカフェテリアがあって、教員や生徒たちも利用している。私が失敗するところをみんなに見られて、アルジェントにもその噂が届くとしたら……。



(私、役に立つようなギフトも持っていないし、家の借金返済のために働くことも出来ないの?何の役にも立てないのかな。そんなの……)



 手が震える。ここから去りたくなってきたけど、それを実行したら実習が出来なくて逃げた生徒がいると噂になるだろう。


 実習を続けて、的を撃つしか無いのか。


 私に、撃てるのか――。





「――そこで何をしている?」



 誰かが私たちに話し掛けてくる。


 そこには、アルジェントがいた。

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