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33.エピローグ③

 私はアルジェントの言葉を制止して言った。



「アルジェント様、私も国の調査に協力したいです」

「……!」

「私のギフトは危険予知の力だと精霊に教えてもらいました。もっと前からギフトの力を知ろうとしていたら、アルジェント様に危機が迫っていることを教えることも出来たかも……。だから、私も行きます」



 私の宣言に、アルジェントはあまりいい顔をしなかった。



「俺のことは国が特別に注視するようになった。ノエルがそんな義務を負う必要はない」

「ギフトについてはわかっていないことが多いのですよね。これから先、アルジェント様以外もギフトが暴走しかけることはあると思います。その被害を出さないためにも、私も研究に協力したいです」

「そうか……」



 私の言葉を聞いたアルジェントは、息をついて下を向いた。

 そして、私に向き直る。



「ノエル」

「はい」

「行くなら、一緒に行こう。国が君をぞんざいに扱うことは無いと思うが、侯爵家が後ろ盾にあるとわかった方がより丁重に扱われるはずだ」

「そ、そうですか。……ですが、もう私たちの家同士は無関係になったはずです。わざわざ一緒に来て頂く必要は……」

「ある。俺がそうしたいからだ」

「……?」



「ノエル。改めて言わせてくれ。――俺は、君のことが好きだ。学園でも、卒業後でも共にいたい。俺と、婚約して欲しい」



 私はアルジェントのその言葉に一瞬固まった。

 そして、おずおずと彼に確認する。



「あ、アルジェント様……」

「ああ」

「ナデール山であったこと、本当に全て覚えていますか。私はずっとギフトで心の声を聞いていて、それを知ったアルジェント様は……」

「ああ。動揺はした。それは認める。しかし……あの時はノエルに嫌われてしまうかも、と思ったから動揺した……それだけだ」

「……?」


「ノエルについて今まで色々空想していたことは……全く後悔していない。俺は君を好きになったおかげでここまでやってこれた。そして、俺が君を好いていることが伝わっていたなら、それでいい」

「……!」

「これからも俺の声が君に聞こえることがあるかもしれない。それも理解した上で、俺は君と一緒にいたい」




 私は、アルジェントの答えに言葉を失った。

 ――アルジェントが私のギフトを知った上で、私と会っても平気そうなのを不思議に思っていた。

 彼は、もう心の声を聞かれても平気だと考えていたんだ。




 もう腹を括っていそうなアルジェントとは違って、私はまだ色々と覚悟が出来ておらず、目を彷徨わせた。



 そんな私を前にして、アルジェントは焦れたように顔を近づけてくる。



「……そもそも、君だって言っていただろう。俺の話自体は嫌いではないと。あれは俺の幻聴だったというのか」

「いえ。確かに、あの時はそう言いましたが……」

「今は違うのか? あれは嘘だったということか?」

「そういうことでは無いんですけど、やはりアルジェント様の内心を覗いてしまうのは申し訳ないというか、今は大丈夫でもいつか心の負担になることがあるのではないかと思って」



 私の言葉を聞いて、アルジェントは口を開いた。




「ノエルにとっては、どうしてもそれが引け目になるんだな。なら……そうだな。ノエルが内心考えていることも教えてくれるか」

「えっ。わ、私の……ですか!?」

「ずっとギフトについて隠していた君のことだ、俺に対して思っていたことも沢山あるんだろう」

「うっ」

「どんなことでもいい、君の話を聞いてみたい。教えてくれ。それで、ギフトで心の中を覗かれていた件は手打ちとしよう」



 アルジェントのその提案に、私は慄く。



 恥ずかしい……。

 今まで彼の前ではずっと取り繕ってきたのに、今から内心を開示するのは気まずい。



 ――でも。



 アルジェントの方が今の私よりもずっと気恥ずかしかったはずだ。

 本来誰にも聞かれていないはずの心の中を読まれていたのだから。



 彼の言う通り、これで手打ちになるというのなら――私も、ちゃんと伝えよう。



 そう思って、意を決して口を開いた。





「アルジェント様は……」

「ああ」

「しょ、正直なところ……昔会ったときの方が、大人っぽい想像をしていたような気がします。最近のアルジェント様の想像することは……ちょっと昔とは毛色が違うというか……」

「うん……それは自分でもちょっと感じていた。少々妄想の内容が安易になっているのではないかと……。だが、日々の課題が増えるにつれて癒しを求めてしまってな……想像の中のノエルにそれをぶつけてしまったのだろう」

「そ、そうですか。……でも、私もそれはちょっとわかる気がします。」



 私は指折り数えてアルジェントに伝えた。

 今までしていた他愛の無い空想のことだ。



 アルジェントの好きな飲み物を作りたいと思っていたこと。

 孤児院の子どもにアルジェントを紹介して、再び孤児院の中を案内したいと思ったこと。

 一緒に絵本を読んでみたいと思ったこと。

 あるカフェの店員の制服が格好良かったから、アルジェントの着た姿も見てみたいと思ったこと……。



 そんな話を聞くアルジェントの顔は、綻んでいた。



(アルジェント様は、今まであまり表情を変えるところを見せなかったけれど……。……そうか。自分の気持ちを見せないように、抑えていただけなんだ。これからはもうその必要はない。アルジェント様も……私も)



 そう気付いた私は、改めてアルジェントに向き直って口を開いた。



「――すみません。まだきちんと返事をしていませんでした。


 私も、アルジェント様のことが好きです。


 学園でも学園の外でも、一緒にいたいです。最初に会ったときみたいに、あなたの考えていることを聞かせて下さい。私……あなたのお話を聞くのが好きです」



 そして、彼に繕わない笑顔を見せるようにしたのだった。



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