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31.エピローグ①

 

 次に目覚めたとき、私は見覚えのある場所にいた。



(……天井の照明が綺麗だな)



 柔らかなシーツと毛布の感触を感じつつ、私は考える。

 ここはオルビス侯爵家の離れの屋敷で、私はそのベッドの上に寝かされていて……。



 そして、私の隣のベッドには、父親が眠っている。



「……お父様、お父様!」



 私は父親に向かって呼び掛けた。

 横向きで眠っていた父親は、私の声でぱちりと目を開けた。



「……お父様! 私の声が聞こえる? 私がわかる!?」

「……ああ。ノエル、しばらくぶりだな。お前も意識を失ったと聞いたときは気が気で無かったが……アルジェント様が私も含めて治してくれたらしい。今はただうたた寝していただけだよ。そろそろ私も動けるようになる」

「そ、そうなの? ……そうだ、アルジェント様は? 私、アルジェント様に会いに行って、それで……。この屋敷の中にいるの?」

「ノエル様。それは、こちらから説明します」



 私たちが話していると、オルビス家の執事が部屋に入ってきた。

 そして、私たちが眠っている間に起きたことを説明した。



 アルジェントのギフトが災害を引き起こすことは無かった。

 だが、普段以上に膨れ上がった魔力が、本来災害が起きる範囲の街まで浄化魔法として降り注いだらしい。



 怪我や病気で寝込んでいる人も天から降り注ぐ光でたちどころに治ったことから、『神の奇跡が起きた』とざわつかれたらしい。




 急激な魔力の高まりを探知していた国の治安維持機構は、その発生源であるナデール山に向かった。

 そこでアルジェントと、彼に捕まえられたヘルムート先生、そして私を保護したそうだ。




 ヘルムート先生は、密かに数百年に一度起こると言われているギフトの暴走による災害に立ち会うのを望んでいた。彼個人の研究により、地脈の活性化に合わせてギフトの出力も影響を受けるということを知ったらしい。

 そして強力なギフトの持ち主ほど、ギフトの災害の火元になりやすいということも知っていた。


 私の研究を見たこともあり、ギフトの力を強くする方法を知った先生は、密かにアルジェントのギフトを強くさせる薬を作っていた。それを注入して、魔力を急激に上昇させて災害を起こすようにしたらしい。


 彼の今までのギフト研究中の動向も含めて調査され、投獄されて罰されることになるようだ。




 ヘルムート先生の処遇を知った私は、一番気になっていたことを再度確認する。



「アルジェント様は……」

「彼は、国に事情聴取されることになりました。結果として災害は起きなかったとはいえ、何故魔力が急激に向上したのか、過去に起きた災害と今回とで何が違ったのか。ヘルムートへの尋問と合わせて、彼の魔力の様子を見ながら調査は続けられています。


 まだアルジェント様が戻るまでは暫くかかります。ですが……きっと悪いようにはなりません。それは、リエット家……あなたがたも同じです」



 そして、彼は言葉を続ける。



「ギフト災害の原因がわかったこと、そして災害が起こることを防いだこと――数々の功績を称えて、国からオルビス家とリエット家に報酬が出ます。リエット家はオルビス家に借金をしていましたが、これで借金は完済されたとする――御当主様はそう仰っていました。


 今しばらくはお二人は静養を優先して欲しいとのことです」



 その話を聞いて、私は父親と顔を見合わせる。




「ノエル」


「うん……」


「色々あったみたいだが……まあ、当初やりたいと思っていたことからやっていきたいな。


 私はノエルの学園生活がどうだったか話を聞きたかったよ。その話からしてほしい。

 とりあえず、回復して家に戻ったら肉を買いに行かないとな。久しぶりに自由に使って良いお金が手に入るから、高級肉も料理に使えてしまう。一大事だな、ノエル」


「……借金返済して、まずやりたいことがそれなの?」



 私は肩を竦めて、そして少し笑う。



「お肉もいいけど……私は家の野菜料理を食べたいよ。ギフトが使えるくらい回復したら、作ってくれる?」



 ++++



 家の借金が返済されることになったため、サーフィスとの婚約の話も無くなることになった。

 とはいえ、一応は顔を合わせて話をしたかったので、私はサーフィスと再度会うようにした。



「……まだ調査中で秘匿されていることもありますが、以上が事の顛末になります」

「そうですか。まあ、事前に概ね聞いていた通りですね。事情はわかりました」



 同席したオルビス侯爵の説明にサーフィスは頷き、正式に私との婚約の話は白紙になった。



(良かった……)



 私は内心息をついて思う。

 ――何だか、先程までよりも身体が軽くなった気がする。

 いざという時はサーフィスとも結婚をする覚悟はしていたけれど、それが想像以上に心の負担になっていたみたいだ。この場から解散になったら街へ散歩にでも出掛けたいと思った。




「……あ。ノエル」

「はい?」


 安心していると、サーフィスに不意に話しかけられる。



「この後、時間はあるかい?」

「え。まあ、一応は」

「あ、オルビス侯爵。もしよろしければ僕たち二人にしていただくことは可能ですか? 少しだけ話したいことがあるのです」

「ええ。この部屋はご自由にお使い下さい」



 そう言って、オルビス侯爵は部屋を出て行った。

 私とサーフィスは部屋に残される。



「ノエル」

「はい」

「君と付き合うことは出来るかい?」

「えっ?」

「あ、付き合うというのは男女交際のことだよ。また考えてみないかい?」



 軽い調子で言ってくるサーフィスに私は困惑しつつ、なんとか言葉を返す。



「……その必要は無くなったはずです。先程も説明されましたが、私の家は……」

「家のことはもうわかった。でも、僕たちの個人的な交際が制限された訳ではないだろ?」

「……」

「ノエルは学園にまだ通う予定なんだろう?」

「それはまあ、はい」




 元々オルビス家との契約で学園に通うことになっていたが、借金返済が終わったため、学園に通わなくてはならない話も無くなった。

 だが、父親とも話し合った結果、私は学園に引き続き通い続けることになった。

 リエット家の財政状況が回復した結果、学園への費用も払うことが出来るようになったからである。



 今までオルビス家に手伝ってもらっていた孤児院経営も、別の人間を雇って続けていくことは出来そうだ。

 孤児院の子どもたちにこの間会ってそう説明したとき、彼らは少し寂しそうにしつつも私のことを祝福してくれた。




 私の答えを聞いて、サーフィスは私と距離を詰めてくる。




「婚約の話が持ち上がって君に会ってから、色々考えてたんだ。君に楽しいことを教えてあげるには何がいいかなって。思えば、最初に君と会ったのは学園の庭園の近くだっただろう。あれ以来君があの辺りにいることは無くなったようだが、僕はよく行くから案内してやろうと思ったんだ。二学期が始まったら一緒にどうかな」

「……あなたを最初に見たときは、庭園を楽しんでいるようには見えなかったのですが……」

「まあまあ。楽しみ方にも色々あるってことだよ。まあ、ノエルが庭園が嫌というなら他の場所でもいい。一からの交際でいいから、僕と付き合ってみないかい」




 軽い感じで誘ってくるサーフィスに対して、私は思う。

 確かサーフィスにはガールフレンドが何人もいたはずで、その上で私とも交際しようとしているのだろう。

 それも彼は悪意があって言っているのではなく、恐らく楽しいことを教えてあげたいというのは本心なのだ。何に対してもフットワークが軽そうな人だから。



 そう考えた上で、私は頭を下げた。




「すみません。あなたのお誘いには応えられません」

「……そうなんだ。仮に他の女の子たちともう遊ばないって約束してもだめ?」

「はい。他に事情があるので、私はあなたとは付き合えません。短い間でしたが、今までありがとうございました」




 事情というのは、私には好きな相手がいるから付き合えないということだ。



 おそらくこの気持ちが成就することは無いだろうけど、それでも今他の相手と付き合う気にはなれなかった。

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