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13.ギフトの謎

 

「ギフト能力の課題について聞きたい……?」

「はい。そうです」



 私はとある日の放課後、ヘルムート先生に会いに来ていた。



 ヘルムート先生は非常勤講師で、ギフト研究の専門家でもあるらしい。

 彼に聞きたいことがあったので、学園に来る日を見計らってこうして研究室に訪問した。



 私が学園に通う上で、ひとつ大きな懸念事項がある。

「ギフト関連の課題を他の生徒のように出せない」ということだ。




 汎用的な魔術の授業の他に、学園には自分のギフトについて研究してレポートを提出するという課題がある。

 だが、私は自分のギフト――【アルジェントの心の声、主に恋愛妄想が聞こえる】についてはひた隠しにしている。

 故に、この課題をどう提出したものか頭を悩ませているのだ。

 その為、ギフトの課題の担当者だというヘルムート先生に話を聞きに来た。



 彼はギシリと椅子に体重を預けながら、私に返答する。



「ギフト研究の課題が出せないなら、その分は点数がつかないことになるね。まあ、それで進学出来なくなるということは無いけれど、これくらいの影響は出るだろう」

「な……成程……」



 私は先生の出してくれた書類を見つめて、顔を強張らせる。

 ……ギフト研究の課題が出せないと、中々大きな差がつくようだ。

 この学園では、取った成績によってブロンズ、シルバー、ゴールドの順にランク付けされる。ギフト研究が白紙のままだと、他の成績がよくてもブロンズになることは免れなさそうだ。



(せめて、シルバーは取りたいわ。オルビス家の心証を良くするために……)



 そう考え、私は先生に確認をする。


「では、自分のギフトではなく……他の方のギフトを研究する。それで問題ないですか?」

「ふむ。まあ、それでもいいだろう」



 先生の答えにほっとした。

 ……内容は考える必要があるけど、とりあえず何か提出するようにしよう。

 オルビス家の心証を少しでも良くしておきたいから。




 会話が一度止まった後、ヘルムート先生はじっと名簿を見つめながら呟いた。



「ノエル・リエット……。そういえばきみ、もしかしてホワン・リエットの娘かい?」

「え。そ、そうです」

「そうか。リエット伯爵は今、オルビス家の指示でギフト研究をしているだろう。そのトレーニングには僕も付き合っているんだよね」

「えっ、そうなんですか!? ち、父親がお世話になっています……!」



 私はヘルムート先生に頭を下げた。

 ……思わぬところで、私の家に繋がる人がいた。

 私はどきどきしながら彼に父について聞く。



「今のところどうですか。研究の成果は……」

「まあ、こういうのは短時間で結果が出るものではないね。でも、リエット伯爵のギフトは想像以上に貴重なものだとわかりつつあるよ」

「そ、そうなのですか?」

「ギフトには色んな能力があるけど、リエット伯爵みたいに【物質をノーリスクで生み出す】というのは相当珍しいんだよ。今は野菜しか作れないみたいだけど、もしこれが他の物質も生み出せるのならば、とても強力なギフトになる。その領域までリエット伯爵が至れるなら、きっと借金もすぐ返済出来るだろう」

「ほ、本当ですか……!」



 私はヘルムート先生の言葉に目を輝かせる。


 私が想像していたより、父の研究はうまく進んでいるらしい。

 もしうまくいけば、学園在学中でも借金が返済出来るだろう。


 私が王立学園に通っているのは借金がある状態でオルビス家に指示されてのことだから、オルビス家との関係が切れた場合、退学する運びになるのかもしれないが……。

 それでも、借金返済の希望があることは喜ばしかった。



 喜ぶ私を見つめて、ヘルムート先生はぼそりと呟いた。



「でも、娘であるきみにはギフトが発現してないんだねえ」

「は、はい。そうですね」

「ふむ……。これは僕の個人的な研究なんだけど、今年は全体的にギフトの威力が強くなる傾向がある年なんだよ。今年になってギフトが発現したという人間も例年よりも倍増している。だから君みたいなケースは珍しいな……」

「そ、そうなのですか……? ギフトの力が強くなる年がある、と……」

「ああ。ギフトの威力が底上げされるのに加えて、制御不可能なくらい非常に強力なギフトを持った者も現れる、それがこの年だと推測されるんだ」



 ヘルムート先生は詳しく教えてくれた。

 先生は歴史書に残ったギフトの記述を紐付いて、どんな能力があったかを記録しているらしい。

 その結果、数百年に一度の周期で強力なギフトの記述があることに気付いたのだという。



「それは一撃で都市を壊滅にもたらす程に大きな破壊力を持ったものもあるし、逆にどんな難病も癒すような治癒能力だったこともある。人間にとってプラスの能力なのかマイナスの能力なのかが決まっていないのは、まさに神の思し召し――というところなのかもしれないね」

「なるほど……。でも、その推測が正しければ、近いうちに誰かのギフトの威力がすごく増すかもしれないということで……。それは、ちょっと怖い気がします」

「そうかな。僕からすれば、珍しいものが見れるならば多少の被害が出ても構わないと思うけどね。まあ、歴史書に書かれた時代よりも今の方が社会は進歩している。被害もそう出ないと思うよ。だが、それはそれとして……」



 ヘルムート先生は、じっと私を見つめた。



「ノエルくん……君がリエット伯爵の娘ならば、特殊なギフトを持つ可能性も高いとみていた。君が君自身のギフトについて課題を出していたなら、真っ先に読みふけっただろう。でも、現時点では発現していない、と。 僕からしてみればちょっと期待外れかな。ははは」

「はは……」



 ヘルムート先生の飾らない言葉に、私は苦笑した。







 用事を済ませて先生の研究室から出た私は、歩きながら一人考える。



 ――実のところは私のギフトはもう発現しているんです、それも変な能力が、といったらヘルムート先生は喜んでいただろうか。


 でもそうする訳にはいかない。


 人の心を読めるギフトは、周囲にも本人にも災いをもたらすものだと本で読んだ。

 少なくともオルビス家の心証は悪くなるだろうし、今のアルジェントとの関係は確実に壊れるだろう。



 私がアルジェントと個人的に仲を深めるようなことは無いだろうけど、彼はどうやら今のところは私に対しては悪印象を持っていないらしい。

 出来れば、その印象を保ったままに綺麗にお別れしたかった。





(でも、先生の話を聞いて、アルジェント様の心の声が聞こえ続けた理由がわかった気がする……。


 今年はギフトの力が強くなりやすいらしいから、私のギフトもその影響で前より強くなった。だから心の声が頭に流れつづけるようになったんだ……)




 ということは、この先もアルジェントの妄想は流れっぱなし――ということなのだろうか。



 彼が私のギフトの存在を知らないとしても、それで問題ないとはならない。

 心を無断で覗いてしまうのはどうしても罪悪感があるし、私が挙動不審になったらアルジェントにいつか勘付かれるかもしれない。

 出来れば、なんとかギフトを制御出来るようにしたいものだが……。



 私は頭を捻りながら、寮へと向かっていった。




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