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チャペルでの襲撃

 そのチャペルは私立高校の校庭のハズレの洋風庭園の中にひっそりと立っていた。

 のどかな植え込みの中に多数の熱反応あり……。刺客だ……。殺人を目的としたドローンか? やつらにはウィルスを仕込み自爆するように指令する。……上手くいったように思える。

「佳奈……気を引き締めろ……」

 小声で注意を促す。

「最高……! マジで最高! 楽しみだね」

「……おまえ……状況わかってる?」

「うん!」

「まあいい、ボクたちにスキができるのは式の最中だ……それまでは襲ってこないだろ」

「相手はね……幼なじみの男の子なんだ……」

「なんだ……それ?」

 本当に……嫌なヤツってわけではなさそうだなぁ。

「佳奈に協力してくれているの!」

「ま、いいよ……入ろう……」

 チャペルの扉を開けるとそこには新郎の姿があった。そして立派な神々しい格好をした神父様がいた。偽装に惑わされず、同様に処置する。上手く行った。ヤツも機能停止したはずだ。

「本日はおめでとうございます……」

 と内心ほっとしつつ、新郎に挨拶をしてみる。

「いや、まぁ、確かに君にとっては、おめでたい日になるかもな……」

「……どういうことでしょう」

「普通ならね……。でも、君は優秀だと聞いている……だから、襲撃は心配してないよ」

「そのとおりですね……もう刺客はあらかたかたづけました」

「あぁあ、やっぱもうヤっちゃったんだ」

「まずかったですか?」

「でもボスが残っているよ?」

「ええ、それもヤりました」

「さすがだね……」

 と言って、新郎は神父をみる。神父は殺人ロボットだったが、すでに機能停止している。

「はぁ……佳奈どうする?」

 新郎はぼやく。

「カオル君……もっと強力な殺人ロボじゃないと……晴人は実力出し切れないよ……」

 佳奈の幼なじみはカオルという名前のようだった。

 もしかしなくても……自作自演か。……たく、殺人ロボット手配したのが、誰だって?

「おい……」

 思わず不満を漏らすボク。

「おい……じゃねぇよ……早くセリフ言えや……」

「危険は去った……でも、ボクはもっとデンジャラスだぜ……」

 託されたセリフを棒読みする僕だった。

「私……八海佳奈は普通の女の子になりたかった。あなたと一緒の人生はきっと危険でいっぱい、それでも、私はあなたの名前を知りたいです」

「……ボクは……って名前、知っているだろ?」

 その時だ……。佳奈の目から涙が流れ落ちる。こんな様子の女の子をみるとその子がたとえおてんば娘であろうとも、男の子としては罪悪感でいっぱいの気持ちにさせられる。

「知らない! 知らないもん!」

「おいおい……」

「教えてよ! あなたの名前を教えてってば!」

「……山岸晴人だよ」

 彼女の涙が単純な演技ともおもえず、その迫力におされて、名前だけを言う僕。

「……私の名前は……八海佳奈と申します」

 相変わらず彼女の目は潤んだままだ。

「じゃ、帰るぞ佳奈……」

「……ばか。バカバカ。晴人のバカ」

「こんなことして……何がバカなんだよ」

「私の……私の気持ち……返してよ!」

「どういうことよ?」

「今日ね……私、朝とっても幸せだった……」

「あ、ああ。楽しそうだったな」

「なんでか……わかる? ってわかるわけないよね……これはね! 大事な2人の出会いなんだよ! 佳奈と晴人が出会った記念日をなぞっているんだってば!」

 ひときしり怒ると、がっかりしているようで佳奈はどんどんと元気をなくしている。

「結婚式が楽しみだった?」

「そうだけど……違う」

「おい……」

「おい……じゃねぇよ。なんで、その口癖だけは変わらないんだよ! ポンコツ」

「そういわれてもなぁ……」

「思い出してよ! 私を思い出してよ!」

「ボクは佳奈のこと……大事に思っているぜ……」

「そうじゃなくて、仮想現実のまがいものの私じゃなくて、八海財閥令嬢の私を見てほしいの! 私たち、ずっとずっと…………してきたじゃない」

「何をしてきたんだ?」

「今の晴人が私にやってくれないことを……よ!」

 つまり、あれか。男女の……。それとも……もっと大事な何かをしていたのだろうか?

「佳奈は……昔の僕が好きだったんだな……」

「今の晴人だって……スキだよ! ……でもキライ」

「キライか……」

 オレは言葉を失った。たとえ、庶民の女子高生の佳奈じゃなくても、彼女に言われるには、あまりに辛い言葉だった。

「……ごめんな」

「あやまらないでいいよ……」

 力無く佳奈が、か細い声で言葉をふりしぼる。

「どういうことか説明してくれる……かな」

「えっとね、晴人はAIだけど……もともとは人間の男の子だったんだよ」

「そうだな……ボクもそう思っていた……」

「ホントにホント。この本物の世界で人間の男の子だったの……」

「それで……ひょっとしてだけど、死んだのか?」

「うん……」

「ボクの体は……」

「……本物の人間の男の子の体だよ……」

「人間の晴人は?」

「銃撃戦でダメージを受けて……病院に運ばれて……脳死状態になったの……」

 ああ、そうか……。

「ボクの体は佳奈の恋人のものか……」

「…………うん」

「でも、心は……ボクの心は……佳奈の恋人ではない……ごめんな……」

「それでも……少しだけ期待してたんだ……」

「ああ、そうか……思い出を探す旅か……」

 佳奈はボクに、佳奈の昔の恋人である記憶をもつように願っているのか……。

「彼の記憶の断片というか、記録はないのか?」

「ないよ……晴人は自分の記憶のバックアップを作るのを嫌っていた」

「なんで?」

「知られたくない過去が……あるんだと思う。謎が多いひとだったから……」

「……!」

……とても嫌な直感が働いた。

 

(AIモード起動……自己システムのウィルスへの感染状況を調査)


(……重大な脅威を発見……脅威の種類……不明)


 ボクは素早く自分のシステムに脅威が潜んでないかを調べる……結果は良くない……。

「佳奈……ボクは、本当にデンジャラスなようだ……」

 そのセリフを言った瞬間だ、佳奈はクスクスと笑い出した。

「……それ本気?」

「もちろんマジで言っている」

「あのね……教えてあげよっか?」

「あ、ああ……なんだ?」

「シたいんでしょ? エッチ……いいよ? 佳奈も同じだから」

「おい……ふざけるな」

「ふざけてなんかないよ? 晴人は……昔の晴人はそのセリフのあと、いつも私を抱いてくれていた……」

「あのなぁ……」

「じゃ、ホテル行こっか? 良かった……」

「なにがいいんだ……」

「晴人が少し自分を思い出してくれて……」

 よくわからん……。だが、人間の晴人はどうやら、エッチに誘うサインとして、このセリフを多用していたようだ……と推測できた。……だが、私は佳奈とホテルに行くわけにはいかない、なぜなら自己システムがとんでもない脅威レベルのウィルスに感染していることに気付いてしまったからだ……。どうやって、彼女を思いとどまらせればいいのか?

「なぁ佳奈は……死ぬの怖くないのか?」

 きっと彼女はあまり怖がっていない。それには理由がある気がした。

「……?」

「ボクは佳奈を危険にさらすわけにはいかない……僕は……」

 危険だ……。だが言い換える。そうすることで彼女を守らないといけないから……。

「安全な日以外に君とするわけにはいかない」

 彼女は安全ということばは、あまりスキではないと思う……。だから、これで萎えてくれるといいのだが。

「いくじなし……いいよ……佳奈は確かに今日危険日ですよ……だ!」

「わかっていただけましたか……」

「うん……わかったよ……晴人のいくじなし!」

 ……ボクはほっとした気持ちになった。いくじなしで結構。だが、ボクは彼女と子供をつくりたくなかったわけではなく、単純に彼女の命を守りたかっただけだった。でも、今はその勘違いも好都合だ。大事なのはボクは彼女とこれ以上接近するべきではないと言うことだ。自己システムがどういう種類のウィルスに感染しているか判明するまでは……だ。

「帰ろう……」

「うん、佳奈も帰りたいよ……」

 佳奈は心底がっかりしているようだった。

 自動運転の車の中、ボクは気が休まることはなかった。ボクは、彼女を守ろうとしているが……ボク自身が彼女にとって非常に危険な存在の可能性があることに、気付いてしまった。あぁ、一体どうすればいいのだろうか……。だが、いくら自分が彼女にとって危険だからといって、自己破壊をするほどの酔狂さはボクには無かった……。


 ボクは寝る前に毎晩、自己システムのスキャンをするようになる。そうして、ボクは気付いてしまう。僕は彼女のボディーガードであると同時に、彼女たちを完全に殺しきるために訓練された最強最悪の刺客であることに……だ。

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