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現実だと思っていた世界は仮想現実で、実はボクはAIでトレーニング中だった。

「ボクは僕たちを赦さない」

                                    蒼山りと


 ごくごく普通の高校から駅に向かう商店街の雑踏のなか、僕は自慢の女友達とゆっくりと家路についている。彼女とは同じ方向だ。幼なじみの八海佳奈は運がいい。たぶん、僕とは違う。

「おまえって本当に運がいいよな……」

「なによ? いきなり」

 彼女は勉強してないようなのに、テストで僕より良い点を確実に取ってくる。

「おまえ……どうやったらカンだけで最後の記号問題全部正解できるんだよ……」

「え? 実力だよぉ」

「なあBE動詞って、どういう動詞かわかるか?」

「何それ? アルファベットのBから始まる動詞のこと?」

「それがわからないヤツが全問正解かよ……」

 彼女はとても、美しい長い黒髪をしていて目立つ。それは風が吹くとさらさらと軽くなびく。瞳はくりっとしていて、ひきこまれるような可愛らしい素直さを感じさせた。

 僕とは人間の基本スペックが違いすぎるのだろう。美人は没個性だといわれる。僕も個性ないが、それとは違う。彼女は、そのシンプルな存在感ゆえに心を打つ。

「なぁ、おまえ運いいからさ? ひょっとしたらギャンブルやったら最強なんじゃ……」

「今の晴人は不良だね。発想が……。昔の君はもっと、カワイイ少年だったのに」

「期末考査前に遊びまくっていた佳奈にいわれたくない……」

「いうねぇ……。撤回しなさいよ?」

「ノートとって、試験前にバッチリ勉強した僕が負けるのだから、佳奈の運の良さは本物だよ」

「……ちがうよ。運だとおもっていたら。ダメだよ」

 僕は彼女を自慢したい。

「駅にさ、アミューズメントカジノができたのは知っている?」

「行きたいの?」

「僕は君がそこで勝ちまくるとしか思えない……見てみたいんだ」

「なにを?」

「僕の自慢の彼女が注目を浴びるところをさ」

 背伸びして幼なじみを彼女と呼んでみた。佳奈は

「なに言っているのよ? 私、山岸晴人くんのこと……弟と思っているもん!」

 と笑った。

「くそが!」

「なによ? 年下」


 すったもんだの末、僕たちは結局アミューズメントカジノに足を運んだ。その事で日常が終わり、不思議な運命のはじまりになると予想できるはずもなかった。


 地下カジノにいる。都会の喧噪の中にさびれた雑居ビルがあった。テナントはほとんど入っておらず誰も足を向けないそのビルの地下にそれはあった。

 地下の鉄の扉を決められた方法でノックする。アミューズメントカジノで幸運にも勝ちまくった僕らは、地下カジノへ招待されたのだ。

「ようこそ! 東京ベガスへ。歓迎しますよ。若いポーカー界のホープたちよ」

 感じの良い蝶ネクタイをした黒服が涼しい声で僕ら二人を褒め称えつつ、部屋に招き入れる。

「もし勝てばチップは一枚一万円で換金できますよ。最初に百枚チップをお渡しします」

 百万円をもらえたということなのだろうか?

「チップを全部失ったら?」

 僕は当然の質問を黒服に尋ねる。まずいことがないなら良いのだが。

「チップはないわけですからゲームオーバーですね」

「借金を背負うってことにならないの?」

 佳奈も心配そうに確認する。

「そのぐらいで若いお二方の将来が金銭的な負債にまみれるようなことはありませんよ。慎重なんですね。どうぞ気楽になさってください」

「僕らは高校生だから大金は持ち合わせてないんだ……本当に大丈夫なんだよね?」

「もちろん。承知しておりますよ」

 と黒服は微笑する。

 

 チップはどんどん増えていく。僕たちの思考を乱すためだろうか? アルコールがふるまわれる。かまわずもらった美酒を飲み干す。大丈夫、僕たちはまだ勝てると思った。


 ポーカーは難しいゲームだ。初心者が幸運だけを頼りに勝ち続けることはできない。

 ほどなく、僕と佳奈はチップをすべて失ってしまった。帰ろうとする。

「お待ちください!」

「何? もう遊べないから帰ろうと思ったんだけど」

「その通りです。遊びはもう終わりです。お二方は……このカジノの財宝ですよ。返すわけには参りません」

「なぜ? 話が違うのでは?」

「お話したとおり金銭的にはプラスですよ。なぜなら、あなたたちの体には億以上の価値がございますゆえに。若い肉体は高く売れます……」

「…………」

 佳奈の顔が凍りつく。僕もあんまりな説明に絶望する。

「最終手段としては、臓器をバラ売りするのもあります。しかし、あなた方は五体満足で健康な若い肉体を持っていらっしゃる……。そのままの方が高く売れる」 

「どういうことだ……」

 警察がこの場所を知っているわけもなく、知り合いもこの場所に僕らが来ていることを知らない。助けは来ない。自分たちでなんとかするしかない。

 

(システム……正常。AIモード起動します……)

 ボクの心の中で妙な機械的処理が加わったようなナレーターの声がする。


 ボクの瞳には相変わらず黒服が映っており、武装した警備員が僕らをにらみつけているのも見えている。それなのになぜか、ボクは急に楽な気持ちになった。

 

(勝率99%……圧倒的優勢な状況……。戦闘を開始しますか?)


 ボクは心の底で笑う。こいつら相手なんざぁ楽勝だ。始めるか?

「こっちの手札は最強だぜ!」

 雄叫びをボクはあげる。異変を感じ取った警備員が警棒で襲いかかってくる。

 なんなく躱して、ボクはそいつの腹部に強烈な蹴りを入れた。腹を抱え、苦痛の嗚咽をあげる警備員。驚愕の表情をした黒服を冷たい目で見る。

「続けるのか?」

「高校生と思って侮りました……。しかし、なめないでいただきたい。そろそろ薬が効いてくるころです……」

「……くそ」

 めまいがしてくる。ダメだ。寝てはいけないのに……。佳奈を守らないと……。懸命な想いもむなしく、ボクは気を失った。起きたとき僕らの運命は、終わっていることだろう。

 残念だ。佳奈……ごめん。ボクは君の恋人には役不足すぎた。

 再びあのシステム音声が心のなかに流れる。

 

(ボーディーガードAIは仮想世界での学習終了。生体ボディーにインストール中)


(……再起動完了)

 

 

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