2.極限状態の一矢。
応援よろしくです(*'▽')ノ
「だ、誰か助けて……!」
声のした方へ向かうと、そこには弦の緩んだ弓を持った少女の姿があった。肩ほどまでの赤い髪に、身軽な服装をした小柄な女の子だ。彼女は完全に腰が抜けてしまったのか、ただ悲鳴を上げて助けを求めることしかできなくなっている。
そして、そんな少女の十メートルほど先にいたのは一体のデーモンだった。
亡霊のような細い肉体とは対照的に、巨大な鎌のような指先を鳴らしている。鮮血のような瞳がぐるりと周囲を見回し、ゆっくりとこちらを見据えた。
「どうして、こんな場所にデーモンが!?」
ボクは驚き、そう口にする。
デーモンは魔物の中でも、中級に格付けされている存在だ。
彼らが生存するには相応量の魔素が必要となる。そのため空気中の魔素濃度が高い、俗にダンジョンと呼ばれる洞窟内に棲息しているはずだった。当然ながら人間の居住地に近いこの森のように、魔素の薄い場所では生存そのものが危ぶまれる。
「でも、そんなことを気にしている場合じゃない!」
ただし今に限っては、目の前の事態に対処しなければ。
そう判断したボクは急いで女の子のもとへ駆け寄り、最大限に平静を装って声をかける。
「キミ、大丈夫!? 走れそう?」
「すみません……膝に力が、入らなくて……!」
すると少女は金の瞳を潤ませながら、震える声でそう答えた。
見れば彼女の右膝は、紫色に変色してしまっている。腫れ具合からしても、骨に異常をきたしていると考えて間違いないなかった。
つまり、逃げることは不可能。
ボクの力を考えても、歩けない人を守りながらは無理だった。
「く……!?」
そうなると、選択肢は二つに絞られる。
つまり自分だけ逃げるか、デーモンと戦うか、だ。
普通に考えれば、彼女を置いて――というのが、懸命な判断だろう。しかしボクはどうしても甘ったれで、懇願するようにこちらを見る女の子を見捨てられない。
だったら、どうするか……。
「戦うしか、ない……か」
「え……?」
たとえ共倒れだろうとしても。
ボクには、その選択肢しか取れなかった。
しかし少女にとっては意外なことだったらしい。彼女は声を震わせながらも、大きく首を左右に振ってボクに訴えるのだ。
「そんな! 敵うわけないです、死んでしまいます!!」
「は、はは……たしかに、そうかもね」
「だったら、今すぐに……!!」
――逃げろ、と。
きっとボクの膝が震えているのに、気付いているのだろう。
だから、彼女は必死にこちらを助けようとしている。この極限状態に置かれても、その気持ちは痛いほどに伝わってきた。
でも、だからこそボクは彼女を置いて行けない。
「……ボクは、残るよ。絶対に」
「そんな、馬鹿ですか……?」
「はははは、キツイなぁ」
そう、たとえ馬鹿者だと言われても。
絞り出した笑いが、どれだけ乾いたものであっても。
「考えろ。考えろ、考えろ考えろ……!」
思考は止めるな。
微かでも、逆転の糸口を探し出せ。そして――。
「……ねぇ、キミのスキルって何かな?」
「え、どうして――」
「いいから! キミのスキルは!?」
その僅かな希望を。
「――【必中】で、す!」
……見つけた。
ボクは急いで彼女の手を取り、残り数本の矢を握らせる。
「いい? ボクが合図したら、デーモンに向かって射るんだ」
「え、でも……この弓、弦が緩んでて……」
「大丈夫。威力は、こっちが何とかするから!」
「……は、はい!」
そして、有無を言わさずに指示を出した。
ボク自身のスキル――【倍速化】があればきっと、文字通り一矢報いることが可能なはず。相手は弱体化しているデーモン一体。であれば、急所への一撃は致命的なはず。
そう信じ、ボクはゆっくりと息を吐き出して……。
「三、二、一……いまだ!」
「………………っ!」
声を張り上げると、少し頼りない速度の矢が放たれた。
だが、その矢に向かって――。
「……頼む、行ってくれ!!」
――ボクは【倍速化】を使用した。
その直後、
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
矢は一気に速度を上げ、デーモンの心臓を射抜いたのだ。
断末魔の叫びを上げながら、魔素へと還っていく悪魔を見る。そして、
「や……やった……?」
ボクは情けなくも、傍らの少女と同じように腰を抜かすのだった。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!