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 くもが きれて、おおきな たいようが あらわれました。

 うすぐらかった せかいに ひかりが さしこみました。

 

 おうきゅうでは、おうさまの えを かべから おろそうとした へいしが とつぜん なきはじめました。


 おきさきさまの えを ぬすもうとした ぬすっとの おんなが とつぜん なきはじめました。


 みんな、おもいだしました。


 どこから ともなく おんがくが ながれています。


 みんな、おもいだしました。


 あかるい、おんがく、たのしい おどり。

 はなやかな おうきゅうの ぶとうかい。



 

 おうさまの えが かべに もどされました。

 おきさきさまの えも そのとなりに かざられました。


 そのとき、いしがきの こわれた おうきゅうに ひとりの こしのまがった おばあさんが あらわれました。

 

 おばあさんは たいようの かがやく そらに いのりました。




「わたくしの こうふくは みんなの こうふくです。そして わたくしが のぞんだ たったひとつのことは わたくしの こどもが うまに のって のやまを かける じゆうでした」


 ふしぎなことに、いまは もう いない おうさまのこえが、みんなに とどきました。


 

 おうさまは おうさまのことが きらいなひとのことも けっして きらいだと いいませんでした。

 それが、おうさまに きらいなひとが いなかった りゆうなのです。


 みんな、おもいだしました。



 おおきな おのをもった おおきなおとこが やってきました。

 おうさまのこどもを ひつじかいのおじいさんのいえに むかえにきたのです。


「あなたは いかなければなりません」





 りっぱな ばしゃにゆられて ひとりのせいねんが おうきゅうに あらわれました。

 

 みんな おもいだしました。


 しんでしまった おうさまのこども、おうじさま。


「おうじさまだ」

「おうじさまだ」


 おうきゅうに のこっていた ひとびとは、おうじさまに かたひざを つきました。

 おうじさまは おうきゅうに かえってきました。



 おうじさまは ぼろぼろに なってしまった おうきゅうのなかに はいりました。

 おうさまの へやには、もりのなかで いっしょに くらした おばあさんが いました。


「おかえり、ぼうや」


 こしのまがった おばあさんは、とても きれいなほうせきを くびにつけて、くろい ようふくを きていました。


 おうじさまは しずかに かべの えを みつめました。


 そして、おうじさまは はなしはじめました。


「わたくしは ながいゆめを みていました」


 おばあさんは すすけた へやの すすけた いすに すわり、おうじさまを じっとみつめていました。


「おばあさまに たすけられたこと」


「いくさで しんだこと」


「わたくしは いつのまにか としよりのロバに なっていました」


「わたくしは そのすべてが ゆめだと おもっています」


「そのロバは、わたくしが ちいさいころに うまのかわりに のっていた ロバでした」


「そのロバは わたくしのために りっばに きかざっていましたが、うまよりも ばいは ぐどんだと いわれて、いつも からかわれていました。ロバは きっと かなしんでいました」


「そういうときは、わたくしも いっしょに かなしみました」


「そして、そのときに はじめて ロバの こえを ききました」




「わたしは おまえと ともに いきて、おまえと ともに しにたい」

 ロバは いいました。

 ロバのたましいは おうじさまのなかに すうっと はいりこみました。おうじさまの こころは そのとき、ほんのり あたたかく なりました。




「やがて、ロバは つちにかえりました。それから、おなじように つちと なりはてた わたくしを むかえにきたのです」

 

「おうさまが わたくしに あたえてくれた ロバは けっして ぐどんではない、とくべつな ロバだったのです」


「ロバは つちから はいいでて、わたくしを ひろいあげました。それから、わたくしとともに まいにち にしへ にしへと あるきつづけました。それが わたくしたちの さいごの たびでした」





 つづく




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