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 あるひ ひつじかいのおじいさんが おかのうえに いっとうの ロバを みつけました。

 

 ロバは としよりで、ひづめは ぼろぼろ、せなかには みどりいろの こけが はえていました。

 

「こんにちは」

 ロバが いいました。

「やあ、こんにちは」

 ひつじかいのおじいさんは いっぴきの いぬといっしょに ロバに ちかよりました。


「わたくしは これから たいせつなひとに あいにいきます」


 ロバの めは めやに だらけで、ひとみは しろく、みえているのか いないのか、ひつじかいのおじいさんには わかりませんでした。


 いったい このロバは どこから やってきたのだろう。

 ひつじかいのおじいさんは ふしぎに おもいました。


「ゆめを みたのです」

「ゆめ?」

「たいようが しずむ ほうがくに あいたいひとが います」


 ひつじかいのおじいさんは ロバといっしょに ゆっくり おかを くだりました。

 ひつじかいのおじいさんの まわりを いぬが ぐるぐると たのしそうに まわっています。

 

「わたくしの ものがたりを きいてください」

 ろばは かたりはじめました。






 このくにには かつて たいへん りっぱな おうさまが いました。

 おうさまは たくさんの ひとびとと いっしょに とても おおきな おうきゅうで くらしていました。


 だいすきなひとに かこまれて まいにち、しあわせに くらしていました。

 おうさまの きらいなひとは おうさまの そばには だれも いませんでした。

 だから おうさまは ずっと しあわせでした。


 おうさまは おんがくが だいすきでした。

 みんなが たのしく おどってしまうような そんな おんがくが だいすきでした。


 おうさまのとなりに すわる おきさきさまは とても やさしい ひとでした。

 おうさまは おきさきさまのことが だいすきでした。

 おきさきさまも おうさまのことが だいすきでした。

 いつも ふたりは いっしょでした。

 

 



 あるとき、おうさまは びょうきに なりました。

 おうさまの びょうきは なおりませんでした。


 おうさまは たくさんの かなしみのなかで しにました。

 おんがくは さみしく かなでられました。


 おきさきさまは かなしみで へやに とじこもってしまいました。


 そのあと すぐに、おうさまのくにで あらそいが おこりました。


 おうさまが いなくなったあと、すべてのひとびとは すべてのものを うばいあいました。


 おうさまを うしない、かなしみ、とほうにくれていた おきさきさまは さらに ふかく かなしみました。

 



 あるよる、おきさきさまは おうきゅうから すがたを けしました。

 おきさきさまが どこにいったのか、だれにも わかりませんでした。

 

 ひとびとの あらそいは いつまでも つづきました。

 

 そのうちに、みんな、おうさまのことも おきさきさまのことも わすれてしまいました。





 おうさまには こどもが ひとり いました。


 おうさまのこどもは おきさきさまと いっしょに おうきゅうから さりました。

 ふたりは まちをさまよい もりをまよいながら あるきつづけました。

 

 けれども、ある あらしのばんに、おうさまのこどもは おきさきさまと はぐれてしまいました。


 おうさまのこどもは もりのなかを ひとりで あるきつづけました。けものの なきごえに おびえながら。


 このようなよるは はじめてです。

 いつも そばいる おきさきさまは いま いません。


 もりのよるとは ここまでの くらやみ だったのか。


 おうさまのこどもは おびえながらも すこしずつ すこしずつ まえに すすみました。


 やがて、おうさまのこどもは もりのなかに、いっけんの いえを みつけました。

 とても りっぱな わらぶきやねの いえでした。

 きのとびらを あけると、おばあさんが だんろのまえに すわっていました。


 だんろの ひが へやの ゆいいつの あかりでした。

 テーブルのうえに パンとスープが おいてありました。

 おうさまのこどもは とても おなかが へっていました。


「いらっしゃい、ぼうや」






 つづく





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