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マクスウェルの秘宝『』  作者: 藤間
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マクスウェルの秘宝『枝』

 ――魔法西暦1293年 春――


 二人がそこで見たものは枝、枝、枝。

 見渡しても、見上げても無数の枝。

 規格外に太く、その一本一本に異様な魔力が込められ発光していた。

 それはマクスウェルの見つけた秘宝の一つ。

 彼曰くそれは大樹の『枝』。

 世界から魔力を吸い、大樹を育てるための枝。

 その魔力は河となって幹へと流れる。

 大樹は育ち続ける。


 ――魔法西暦1290年 夏――


 褐色肌で灰色の髪の少女――セレン。

 色黒で筋骨隆々の青年――マイク。

 二人は魔法学校の最高学年最後の夏を迎えていた。

 魔法国家ソレイルの魔法学校の最期の夏は卒業後の進路を考える大事な時期だ。

 多くの学生は早くに就職先を決めて卒業課題に取り組む。


 セレンとマイクは違っていた。

 学校の方針に少々疑問を感じている少し浮いた存在だった。


「セレン。卒業した後さ、お前何やんの?」


 マイクは図書室のテラス席に座るセレンに問いかけた。


「さぁ、まだこれと言って決めてないけど」


 セレンは愛読書を読みながらマイクの質問に答えた。


「周りの奴ら皆進路先決めてるし。俺とお前だけだぜ、進路決めてないの」

「そうね。じゃあ、私のところに就職しない?」

「は?」


 愛読書から視線を外してセレンはマイクを見た。

 マイクはセレンの突拍子もない発言に困惑した。


「ねえ、マクスウェルの秘宝に興味ない?」

「秘宝だ? お前ガキじゃあるまいし、そんな話嘘に決まってんだろ」

「嘘じゃない証拠があったら、どう?」


 マイクは確信を得ているセレンの目を見た。

 マイクはからかうのをやめた。

 セレンはさっきまで読んでいた本をマイクの前に開いて置いた。


「んだよ」

「いいから読んでみて」


 活字嫌いのマイクは渋々とセレンの愛読書を手に取った。

 マイクは開かれたページを読んだ。

 活字嫌いのマイクが一ページを読み終わるのには時間がかかった。

 読み終えた活字嫌いのマイクは打って変わってやる気に満ちていた。


「これ見つけたらスゲーな」

「でしょ、これだけ詳細な情報なら私たちでも探せるでしょ」


 セレンの本にはマクスウェルが旅の道中で見つけた魔道具の数々が記載されていた。


「でもそんな本どこで手に入れたんだよ」


 セレンの本は表紙や背表紙にタイトルが書かれていない。

 著者の名前もない。

 書かれている内容の信ぴょう性がなかった。


「タイトルもないし、著者だってマクスウェルが書いたわけじゃないんだろ?」


 セレンは大きなため息をついた。

 セレンは時間をかけて読んだ割に本当にただ読んでいただけのマイクに呆れた。


「この本も魔道具なのよ。それを念頭に置いてもう一度この本を読んでみて?」

「何だよ、最初からそう言えよ」


 マイクは自分の目に解読の魔法を施した。

 そして、もう一度セレンの愛読書の表紙を見た。

 表紙には『風の手記』とタイトルが書かれていた。

 背表紙には魔力の込められた特別な文字でマクスウェルの名前が書かれていた。


「風の手記って国宝級の書物じゃんか!」


 勉強嫌いのマイクでも『風の手記』は知っていた。

 ソレイルで絶賛回収作業を行っているマクスウェルが残した手記だ。

『風の手記』。

 大魔法使いマクスウェルが書いた手記。

 マクスウェルの旅のしおり。

 国宝級の書物。

 贋作や偽物が出回るが見分け方はいたって簡単。

 必ず特殊な魔法文字でタイトルが書かれている。


「そうよ」

「そんなのどうやって手に入れたんだよ」


 周りの誰が聞いているか分からないと思ったマイクはセレンの耳元で囁いた。


「買ったのよ。街はずれに古書店があってそこで見つけて買ったの」

「街はずれの古書店? そんなとこに古書店なんてあったか?」

「え? さあ、あったと思うけど」


 セレンは記憶が定かではなかった。

 あったようななかったような。

 店構えや店の内装を思い出そうとしてもはっきりしなかった。


 ■■■■■■。

 ■■■■■■■。

 ■■■■■■■。

 ▲▲▲▲。

 記憶を改ざん。

 この記憶についてセレンは思い出せなかった。



「おいおい大丈夫か?」

「とにかく、魔力もかなり昔のものだし、これは本物!」

「なるほどな。ちなみにこの中の何を見つけたいんだ?」

「全部よ。マクスウェルが見つけた秘宝を全部見つけて私たちがそのすべてを解明するの」


 セレンの目はギラギラと輝いていた。

 空想のような話だ。

 セレンは不可能と思っていないように見えた。

 セレン以外の誰かだったらマイクは断っていた。

 マイクには断れない理由があった。


「わかった。付き合ってやるよ」

「決まりね。そうとなれば早速行くわよ!」


 その足でセレンとマイクは一度家に帰って身支度を始めた。

 マイクは両親に今日のことを話した。

 両親は反対しなかった。

 マイクは何をやっても長続きしない。

 そんなマイクが自らやりたいことを見つけたようで何も言わなかった。

 小さい頃からよく知るセレンも一緒だというのなら文句のつけようもなかった。


 セレンは家に帰り旅の支度をした。

 セレンがこのことを告げる家族はいない。

 物心ついた時には孤独だった。

 マイクに招待されてよくご飯を一緒に食べていた。

 マイクの両親がセレンにとっては家族だった。


 翌日の朝。

 ソレイルから出る船に二人は乗り込んだ。

 二人は前しか見ていなかった。



 ――魔法西暦1290年 夏後期――


 セレンとマイクが向かったのはマクスウェルが最初に上陸した国。

 騎士の国。

 二人の目的の場所は騎士の国ではない。

 騎士の国から東に進んだ山脈の一角。

 騎士の国の管理から外れた山々。

 二人は今から登る山を目の前にして自然の恐ろしさと偉大さを感じていた。


「これ、まじか」


 マイクは眼前にそびえ立つ山を見て口を開けて驚愕していた。

 セレンは歩き出しすぐに野営の準備を始めた。


「まずは麓で星の並びを確認して、そこから動くわ」

「最初の秘宝はなんなんだ?」

「枝という秘宝よ」

「枝? しょぼい名前だな。本当に秘宝なのかよ」

「ええ、この世界のあらゆる場所に繋がる秘宝よ」

「出鱈目な魔道具だな。で、なんで星の並びなんだ?」


 セレンは大きくため息をついた。

 マイクに船の中で風の手記を読ませた。

 はずだった。

 マイクはその内容を一つも覚えていなかった。

 それもそのはず。

 途中からマイクはヒドイ船酔いで腹の内容物を海の魚に餌付けしていた。


「もう一度読んでおいて、そしたら星の並びが重要なのがわかるから」


 マイクはセレンから風の手記を受け取った。

 今回の秘宝についての頁を開いた。

『秘宝「枝」 騎士の国の霊峰

 麓から見える北を指す星。不穏な場所で見える大熊と小熊から少し北東へ歩く。奈落の底にそれはある。勇気を示した先にそれはある。鉄の枝がある。これは秘宝の一つ。正しく使える者のみに見つけてほしい』


「どういう意味だ?」


 マイクは内容を読み込んでも内容が半分も理解できない。

 首をかしげてセレンを見た。


「私も真実は分からない。でも星座を見れば少しは分かるはずよ」

「なるほど、そのための星座表か」


 マイクが虚空へ手を伸ばすと虚空に穴が開いた。

 マイクは虚空に開いた穴に手を入れた。

 再び穴から手を出すとその手に星座表を持っていた。

 次元魔法。

 マイクの得意とする魔法である。


 次元魔法。

 次元の歪みを作り、人のいる次元とは違う次元に三次元の空間を作る高等魔法。

 作り上げた次元に荷物などを入れて好きな時に取り出すことができる。


「本当にあんたのそれ便利よね。どういう風にやってるのか今度教えてよ」

「ああ、簡単だから今教えてやるよ。ぐわんってやってぐいんで曲げてギュイーンだよ」

「全く分からないから、もういいわ」

「いや、だから、ぐわんのぐいんのギュイーンだよ」

「それでわかるのはあんたくらいよ」


 マイクは感覚派の魔法使い。

 セレンは理論派の魔法使い。


 理論派。

 理論を構築し、魔力をその理論をもとに扱い魔法を発動することを基本思想とする。

 感覚派。

 体内の魔力を流れに沿って操作し感覚的に魔法を発動することを基本思想とする。

 本来セレンとマイクは相容れない思想同士の魔法使い。


「勝手に魔法が暴発したり、暴走したりはないんでしょうね?」

「ないない、この魔法一回三次元を構築したら魔力消費ゼロだから」

「あんたの魔法も出鱈目よ」

「そうかなぁ、そういうセレンは何の魔法なんだ。教えてもらったことないよな」


 魔法使い専攻する魔法を他人に教えたりはしない。

 特別な魔法を扱える家系は近親と交配を繰り返す。

 自分の血筋以外の血を家系に取り入れない様にしている。


「秘密よ」

「俺だけ得意な魔法がバレてんの不公平だぜ。これからずっと旅するんだから教えてくれよ」

「嫌よ。アンタみたいに便利な魔法じゃないし、気軽に使える魔法じゃないの」

「ええ、なんだよそれ」

「とにかく、時が来たら教えるわ」


 セレンは頑なに喋らなかった。

 マイクは釈然としないまま野営設営の手伝いを始めた。


 ―― 夜 ――


 二人は星座表を頼りに夜の山を浮遊の魔法で登っていた。

 徐々に標高が上がるごとに澄んでいた空気が更に澄んでいく。

 少し呼吸をすればすっと空気が肺に入りむせそうだった。


「セレンそろそろか?」

「ええ、そろそろよ」


 二人が降り立ったのは山の頂上付近の辺鄙な場所だった。

 月明りの照らす場所はそこだけ綺麗な円形に整地されていた。

 そこは独特な雰囲気を醸し出していた。


 異様。

 ただの土地がまるでそこだけ別の空間のような異様さ。

 ちぐはぐ。

 まるで別のところから持ってきたようなちぐはぐさ。


「なんか変な場所だな」


 マイクは言葉で表せない不気味さに体を震わせた。


「ここが手記の場所で大熊と小熊っていうのは恐らく星の事だから、あっちね」

「おい、待ってくれよー」


 セレンは方角を確認してどんどん進んでいく。

 マイクはセレンの後ろを情けない声を上げてついていった。

 不気味な場所から手記に記された通りに進んだ先は断崖絶壁だった。


「道なんてないな」


 崖の下は真っ暗で何も見えない。

 まさに奈落。

 セレンは手記の内容を確認する。

 星と手記の内容から自分の位置をおおよそ推測する。

 一つの回答にたどり着いた。


「いや、落ちればいいのかも」

「マジで言ってんのか⁉ マクスウェルは風の大魔法使いだから落ちても大丈夫だっただけで、俺たちはひとたまりもないぞ!」

「いや、大丈夫。合ってるわ」


 直後、セレンは断崖の先へ足を進めた。

 セレンはマイクの視界から断崖絶壁の下に消えていった。

 小さくなるセレンの姿。

 徐々に奈落に呑まれ、見えなくなった。


「おい、セレン!」


 マイクは慌てて彼女の後を追う。

 勇気を振り絞り奈落へ飛び込んだ。

 消失しそうな意識。

 不快な浮遊感覚。

 マイクは落下しながら胃の内容物を吐き出しそうになった。


「セレーン!!」


 落下の途中聞こえる謎の音声。

『既定の速度を確認。

 管理室への入室を許可。

 落下予防機能を起動。』

 マイクがその音声を冷静に聞き取ることは不可能だった。


 地面にぶつかる直前で暴風がマイクを受け止めた。


「うわぁ!!」

「情けない顔ね、マイク」


 セレンはいたずらっぽい笑みを浮かべてマイクの憔悴しきった顔を覗き込む。

 五体満足なセレンを見たマイクは安堵のため息をついた。


「お前急に飛び降りんなよ」

「まあ確証があったのよ」

「ここは……」


 見渡たした景色から場所の目的を推測するのは難しかった。

 明らかにこの世のものと思えない程の大規模な空間。

 見たことのない規格外に太い何か。

 それが秘宝だと判断するのは難しくなかった。


「あれが『枝』か……」

「恐らくそうよ」


 天井を埋め尽くす程張り巡らされた無数の枝。

 それらは異様な魔力を帯びて、怪しく発光していた。

 マイクはこの世ならざるものに恐れを抱いた。


「これには何か使い道があるのか? それともただの飾り的な宝か?」

「恐らく使い道があるわ。マイク、ランタン出して」

「おお」


 マイクは虚空の穴からランタンを取り出した。

 セレンはランタンを受け取る。


「これが起動のスイッチかしら」


 ランタンの照らした先には石のような何かで作られた台座。

 台座には掌を表すマークが記されていた。

 セレンは何の躊躇いもなくそのマークに自分の掌を合わせた。


「本当に大丈夫か? いきなり崩落したりしないよな」

「いきなり崩れることはないと思うけど」


 微かに怪しく光っていた『枝』から発せられる光がどんどん強くなる。

 枝はやがて光の粒を生み出し。

 粒はやがて線になる。

 線は幾重にも、幾重にも重なる。

 やがて膨大な量の魔力で構築された河が形成された。


「この流れに乗ったらどこにいくのかしら」

「乗ってみるか」

「そうね」


 差し出されたセレンの手をマイクは迷わずにとった。

 マイクはこの旅の本当の始まりをこの瞬間に感じていた。


 二人は魔力の河に乗った。

 強い魔力の流れに身体を押され二人は流された。

 そのまま魔力の流れに身を任せて空を渡り、海を渡る。

 気づけば二人は知らない場所に立っていた。


「ここは」


 マイクは戸惑いながら隣を見る。

 セレンは戸惑った様子もなく納得していた。


「やっぱりね」

「セレン」

「説明は後よ、マイク。これは世界に知れてはいけないこと」

「え?」

「わからない? こんなものが悪意ある魔法使いの手に堕ちたらこの世は終わる。この秘宝だけじゃない。全ての秘宝を適切な人間が適切に管理すべきよ」

「お、おう。そうだな」


 マイクは一瞬セレンが別人に見えた。

 セレンの言葉には聞こえなかった。


 喋っているのはセレン?

 確信が持てなかった。


 秘宝を回収するとは別に二人の旅にもう一つ目的が追加された。

 秘宝のことを隠すための仲間を集める。

 彼女らの集めた優秀な魔法使いたちの集団。

 それが後に『風の一族』と呼ばれる組織だった。

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