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マクスウェルの秘宝『』  作者: 藤間
13/14

マクスウェルの秘宝『審判』

 ――魔法西暦? ???年――


 それは人を裁く装置。

 罪を見抜く。

 嘘を見抜く。

 生き様を見抜く。


 誤魔化しも効かず。

 詭弁も効かず。

 実力行使も効かない。

 それは人を裁く装置。


 上位なる者が人を裁くための裁定の装置。


 ――魔法西暦1346年 陽春――


 遥か昔。まだ地図のないこの世界を踏破した大魔法使いマクスウェル。

 彼がその旅の道中で見つけた超古代魔法文明の魔道具を『マクスウェルの秘宝』と呼ぶ。

 便利な魔道具かと思われたマクスウェルの秘宝は、世界のバランスが壊れてしまう危険な魔道具だった。


 危険なマクスウェルの秘宝を一般人から遠ざけ、発見、回収、研究、秘匿管理をする秘密組織がある。

 魔法使いたちの間でその組織は『風の一族』と呼ばれ、一部の魔法使い達の中では都市伝説として語り草になっていた。


 春。うららかな日和。

 この時期は組織に新しい風が吹くことが稀にある。

 毎年ではないが、新規の構成員が入ることがある。

 組織の人員補充はその都度行っている。

 研究チームは割と定着率が高く人も集めやすい。

 一方で秘宝回収任務に就く現地調査員は定着率も低く、人員が見つからないことが多い。


 今年の春は現地調査のチームに稀な新風が吹いた。

 淡い青がかった長髪を揺らし。

 この時代には少々不便そうな伝統的な魔女の長い杖。

 伝統的な魔女のローブをまとい、魔女帽子を被った少女。


 容姿はその辺にいそうな垢抜けない少女。

 人混みに紛れれば見失いそうな無個性な雰囲気。

 しかし、この組織の構成員にはない若さ由来のフレッシュ感があった。

 今年唯一組織に入った新進気鋭の現地調査員――ドロシー・ジャン・マーガレット。


 彼女を出迎えたのは枯れた中年魔法使いの男。

 ウェスタンハットを被り気だるそうにベンチの背もたれに寄りかかっている。

 煙草の煙を虚空に吐く男の眼はこの世の全てに絶望したかのような腐った眼をしていた。

 加齢由来の哀愁漂う雰囲気。

 視界から外せば煙草の煙と一緒に消えてしまいそうだ。


 黒いウェスタンシャツに首にはネッカチーフを巻いて。

 ボロボロのデニム履いているのに、足元のブーツは手入れされていた。

 今年随一の面倒ごとを任された現地調査員――レオ・ダ・ハート。


「今日から配属になりました。ドロシー・ジャン・マーガレットです!」


 レオは新人のフレッシュな挨拶に目も当てられず昇天しそうになった。


 このコンビ結成が決まった際。

 面倒ごとに首を突っ込まない主義の自分に回ってきたお鉢に眩暈がした。

 それに加え自分の娘程の年齢と思われる少女のお守り。

 この命令には流石に異を唱えた。


 しかし、理由はレオが適任というわけでも、面倒ごとを押し付けられたわけでもない。

 新人のお守りができそうなベテランがレオしかいなかったという人員不足が理由だった。


「あー、俺はレオ・ダ・ハートだ。よろしく、お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんではなく、ドロシーです」

「組織では一人前になるまではお嬢ちゃんなの。いいか、俺の言うことは絶対、いいな?」

「それがルールならわかりました」


 ドロシーは仕方なさそうに了解した。


「よろしい、んじゃ早速」

「秘宝回収ですか‼」

「いや、煙草買ってきて」


 レオは前のめりでズイっと顔を近づけたドロシーの眼前で煙草の空箱を揺らした。

 しばらく沈黙が続く。

 ドロシーは肩を落としてレオの煙草の箱を手にとった。


「銘柄はこの箱のやつでいいんですか?」

「ああ、わりぃね」


 ごめんごめん、と顔の前で手を合わせて謝るレオを見たドロシーは先行きに不安を募らせた。

 ドロシーが煙草を買いに行ったのを確認したレオは懐から封筒を取り出した。

 封を開けてドロシーのプロフィールに目を通した。


 ドロシー・ジャン・マーガレット。

 魔法都市ソレイルの魔法学院を首席で卒業。

 一般的な多くの魔法を高い水準で発動可能。

 血統についてはごく普通の魔法使いの家系。

 父は魔法図書館の職員、母は専業主婦。


 曾祖父の代まで遡って調査したが特別な血筋はない。

 特異な魔法の習得もない。

 ただし、膨大な魔力量を誇る。


 数値的に見ればその量は明らかに異常値だった。


(本当に何の変哲もないお嬢ちゃんかねぇ……)


 魔力の総量と家庭環境は相関がある。

 魔法図書館の父と専業主婦の魔女の母では異常値の魔力量を持つような少女が生まれることはない。


(ということは、考えられる筋は後天的な修行の成果ってことか)


 一般的な家庭の魔女にはそぐわないスペック。

 それに学校の戦闘訓練の成績も高い。

 学生時代に相当いい師匠に手ほどきをしてもらったというのが妥当な推測だった。


(いったい、どんな化け物師匠なのかねぇ)


 一般家庭の魔女だというのに王宮魔法団のトップクラスにも引けを取らない。


「レオさん、煙草買ってきました!」

「おう、悪いね。煙草がないと落ち着かなくて」

「身体に悪いのに何で吸うんですか?」

「若い時には分からないけど、吸わなきゃやってられないときもあるの」


 そう言ってレオはドロシーから新品の煙草を受け取り早速一本吸い始めた。


「あの、これから秘宝回収に任務に行くんですよね?」

「ああ、そうだった、そうだった。んじゃ、手の甲見せて」

「こうですか?」


 ドロシーが手の甲を見せるとレオは掌を見せた。

 組織の考案した情報共有の魔法が発動しドロシーに任務の詳細が共有された。


「おお! これが研修で言っていた情報共有の魔法なんですね! 凄い! どういう仕組みなんでしょう」

「秘宝の情報じゃなくて、驚くのはそこなのね」

「そうでした。『審判』? 場所が結構遠いですね」

「ああ、場所が遠いだけで情報が多く判明している分結構動きやすい任務だ。現地調査任務が初めてのお嬢ちゃんにも最適ってことだ」

「なるほど」

「ところで、お嬢ちゃん。人を殺したことはある?」


 物騒な質問にドロシーは全力で首を振った。


「ないですよ! 私この前まで学生だったんですよ⁉」


 レオはドロシーの回答に思わずハッとした。


「ハハ、そうだった。わるい、変なこと聞いて」


 年端のいかない少女に聞いていた質問の内容に気づき反省した。

 この組織にいると感覚が狂っていることに気付けない。

 生育環境も時代も違うのに時折自分と同じに考えてしまうのがレオの悪い癖だった。


「もしかして、現地調査って人を殺すこともあるんですか?」


 恐る恐る聞くドロシーの顔には不安がにじみ出ていた。

 レオは笑いながらドロシーの肩を叩いた。


「不安にして悪かったな。組織にいる奴のほとんどは殺したことないから気にしなくていい。それに、そういうのはそういう専門がいるからお嬢ちゃんは気にすんな」

「もう、驚かさないでくださいよ!」


 からかい甲斐のある新人だと思いレオはいっそう笑った。


「冗談だよ、こんなの真に受けてるとこの組織じゃやっていけないぞ。それより、なんでこんなおかしな組織に入ったんだ? ソレイルの魔法学院を主席卒業なんて国の官僚コースだろ」


 レオの質問にドロシーが気まずそうな顔をした。

 またしても地雷を踏みぬいたかとレオは内心焦った。


「お父さんとお母さんは官僚になることを進めてきたんですけど、私的には国の官僚になってもきっとつまらないと思ったんです。知らない世界があると思ったらそんなつまらない進路じゃなくてもっと自分の知らない世界に行きたくて」


 ただの真面目ちゃんかと思っていた所に予想外の回答が着てレオは面食らった。

 この組織の魔法使いのほとんどは頭のおかしい者、頭のネジが外れた者、狂気に呑まれている者ばかり。

 この片鱗がドロシーにも見えた気がした。


「じゃあ、お嬢ちゃんはその知らない世界で何が見たくてこの組織に入った」

「自分の知らない魔法。自分の今までの魔法人生がけちょんけちょんにされるくらいの凄い魔法が見たいです」


 目をキラキラと輝かせ語るドロシー。

 その目の奥には底の見えない飽くなき魔法探求への狂気が伺えた。


(ああ、こいつはこいつで別ベクトルにネジが外れてやがる)


 飽くなき魔法への探求心。

 その夢は魔法使いならばかつて一度は見た夢。

 魔法を心行くまで探求する旅。

 レオは気だるそうにベンチから立ち上がった。


「なるほどね、じゃあ、早速行きますか。お嬢ちゃんの魔法人生がぶっ潰される秘宝回収に」

「はい!」


 ――魔法西暦1346年 晩春――


 組織の本部から遥か南の大陸。

 まだ人の手が加わっていない未開拓の地。

 レオとドロシーは何もない所に突然姿を現した。


 マクスウェルが残した手記に秘宝『審判』の情報と共にとある場所が詳細に記されていた。

 かつて大規模な魔法都市メリンがあったとされる場所。

 メリンは古い文献の一文にしか出てこないような幻の魔法都市として今も考古学者たちが血眼で探している。

 その情報が手記に載っていた。


「秘宝『枝』は話に聞いてたんですけど、こんな一瞬なんですね!」

「ああ、まあ厄介なのは特定のポイントだけにしか行けないことだがな」

「どういう仕組みなんですかね!」

「知りたかったらもっと実績を積むんだな。そしたら開示される文書も増える」

「おお! 頑張ったら読めるんですね! 俄然やる気が出てきました」


(メリンねぇ、前に読んだ文献にちょろっとあったが……)


 メリンは魔法都市としてはかなり魔法のレベルが高く、都市機能のほとんどを魔法に置き換えていた。

 それが今では幻の都市になっている。

 滅んだ理由まではマクスウェルの手記に記されていなかった。


「さて、着いたはいいがここからどうやって探すかねぇ、お嬢ちゃん広範囲の探知魔法とか使えたりは」


 レオは冗談半分で聞いた。

 ドロシーは何食わぬ顔で持ち前の長い杖を手に召喚した。


「できますよ、範囲どれくらいにしますか? 半径15キロまでなら地形も微細な魔力も探知できます」

「まーじか、おじさんびっくり」

「一旦、半径10キロで発動しますね」

「おう、よろしく」


 広範囲の探知魔法は膨大な魔力の持ち主だからできる芸当だ。

 あまり魔力を無駄に使えないレオには到底発動できない少し憧れの魔法だった。

 ドロシーが探知魔法を発動すると魔力の波が立った。

 探知魔法は魔力操作の複雑で有名な高難度の魔法だがドロシーは難なく発動してみせた。


 更にドロシーの探知魔法には感知も備わっているのが凄い所だ。

(と言っても広範囲探知魔法は放った魔力の波が返ってくるまで時間がかかるのが難点なんだよなぁ)

 しばらく動けないと思ったレオはポケットから煙草を取り出した。


「行きましょう、だいたい地形がわかりました」

「え、もう?」

「はい、魔力の放出力にも自信があるので結果が返ってくるのも早くて」

「な、なるほどね。こりゃすげーや」


 あまりの規格外さにレオは咥えていた煙草を落としてしまった。

 もはや立つ瀬もない。


「この辺りは何もないですから、もう少し歩いてからまた探知魔法使いますね」

「これは頼もしいお嬢ちゃんだ」

「私これでも主席なので!」


 ドロシーは得意げに胸を張って見せた。

 使う魔法の練度は顔負けだが性格の方はまだお嬢ちゃんと言わざるを得なかった。


「じゃあ主席のお嬢ちゃん、案内よろしく」

「任せてください!」


 ドロシーはドンっと胸を叩きレオを先導した。


 ――夕刻――


 ドロシー広範囲の探知魔法を三回発動して、ようやくそれらしい場所を見つけた。

 連続で探知魔法を発動したにも関わらずドロシーの総魔力量が減っている様子はない。

 そんな彼女の様子を見たレオは最早呆れることを忘れた。


「いやぁ、お嬢ちゃんのおかげでこんなにも早くここが見つかるとは」

「大きな遺跡ですね」

「そりゃそうだろう。なんせあの古代都市のメリンなんだから」

「メリン?」

「なんだ、お嬢ちゃん魔法史は苦手か?」

「メリンなんて魔法都市は歴史上にありませんよ? 学校の教科書にも出てきませんし、学校の図書館の本にもそんな魔法都市は出てきません」


 妙に話がかみ合わずレオは不思議に思った。

 主席のドロシーが歴史に疎いとは考えにくい。

 そこから考えられるのは。


(ソレイルも誰かの意思が絡んでるってことか)


「いや、わるいわるい。そうだよな、メリンは学校で教わる範疇じゃないもんな」

「?」


 ドロシーは首をかしげて不思議そうな顔をした。


「お嬢ちゃん、ここから先は学校じゃ教えてくれない歴史だぜ」

「それが、メリンなんですか?」

「ああ、ここがどういう都市だったのか無知なお嬢ちゃんに教えてやろう」


 レオはドロシーにメリンについてと学校で教わった歴史が誰かの意思で隠されていることを伝えた。


「じゃあ、学校で覚えたことって間違ってたんですか⁉」

「まあ、間違ってるっていうか。例えば学校の授業の範囲外はテストに出ない。テストだけをやろうと思えばテスト以外の所は勉強しないよな」

「あ、なるほど。でも、図書館の本にも出てないのは」

「ソレイルはかなり厳重に情報統制がされてる国だからな。お嬢ちゃんが知らない国や古代の魔法都市があっても不思議じゃないだろ?」


 実際にソレイルが建国された直後の時代ではソレイルの外に国はないとされていた。

 そこにマクスウェルとジョゼフが現れソレイルの外に国があると証明した。

 国一つの常識を破るのには相当の邪魔が入ったはずだ。

 世界踏破を成し遂げた上で国の常識を破ったマクスウェルが大魔法使い呼ばれるのは妥当だった。


 しかし、彼と一緒に世界地図の父であるジョゼフの存在があったからこそできた偉業ということを忘れてはならない。


「そういう文書も組織で実績上げれば見れるんですか⁉」

「その通りだ! だから、お嬢ちゃんも早く一人前になろうな」

「はい!」


 レオは徐々にドロシーの扱いを理解し始めた。


「さて、メリン内にある秘宝だが。この距離となるとお嬢ちゃんの探知魔法は使えないな」

「なんでですか? 感知魔法や探知魔法を使えば秘宝の場所がわかるのでは?」

「まあな、お嬢ちゃんの探知魔法なら間違いなく探知できるだろうさ。だが、もし秘宝が魔力に反応して動くタイプの秘宝だったらどうなる?」

「どうなるんですか?」


 レオは口の端を釣り上げて笑い、告げた。


「お嬢ちゃんか俺が死ぬ、それか二人とも死ぬ」


 レオの言葉にドロシーの体が強張った。

 彼女は自分の死が日常よりも身近なことを再認識した。


「いいか、ここからは魔力の放出は禁止。次に眼を魔力で保護しろ」

「眼を魔力で保護するのはなぜです?」


 レオはここまで行動を共にしてドロシーの欠点を見つけた。

 彼女の教育係としてこれ以上質問に対して答えないと決めた。


「お嬢ちゃん、この先も知らない世界を見たかったら、なぜそれを行うか、その回答をまず自分で考えてみろ」

「うーん?」


 学校では教えてくれない世界の生き方。

 恐らく学校で習ったことはこの組織であまり活かせない。

 しかし、それを選んだのはドロシー本人だ。


「ヒントだ。例えば基本の攻撃魔法を防ぐときお嬢ちゃんはどう守る?」

「魔力での防御壁を作るか、相殺します」

「そういうことだ」

「もしかして、見た瞬間に発動するタイプの秘宝があるんですか?」

「流石、いい答えだ」

「秘宝って色々あるんですね」

「どれも一歩間違えれば簡単にこの世界を狂わせることができるものばかりだよ」


 そう語るレオの表情は寂しげだった。

 その表情を見落とすほどドロシーの目は節穴ではなかった。

 寂しげなレオの表情に何かつらい過去があったというのは言葉にされずとも察することができた。

 その日はそのまま野営をして夜が更けた。


 ――魔法西暦1346年 晩春――


「いやぁ、お嬢ちゃんは便利だなぁ。まさか虫よけの魔法まで習得してるとは。一組織に(いち)お嬢ちゃんだな」


 野営をすると虫、獣の対策を強いられる。

 そもそも野営をせずに一日で秘宝を発見回収するというのも手だが命の危険が高くなる。

 獣対策は野営の範囲内で魔力を広げて獣をけん制する一方、虫はどうにもならない。

 虫が本能的に危険を察知することにあまり長けていないからだ。

 一方で昨夜寝る前にドロシーが虫よけと獣除けの魔法を使えることが判明し快適な野営ができた。


「そんなに褒めてもなにも出ませんよ~」


 ドロシーは照れた表情で頭をかいた。


「それで、秘宝ってどうやって探すんですか?」

「ああ、それなんだが。今日は別々で行動しよう。んで、何かあったらすぐに手の甲の刻印魔法を発動しろ」

「え、別々なんですか?」

「秘宝回収は基本二人だが、場合によっては単独行動する場合もある。そういう時のために一人で行動できるようになっておけ」

「わ、わかりました」

「それに、秘宝かどうかはド素人のお嬢ちゃんでもすぐにわかるさ」


 そう言ってレオは遺跡の北側へ歩いて行った。

 自然とドロシーはレオとは反対の方向へ歩き出した。


 ―― Side Dorothy・Jan・Margaret――


 初めての単独行動。

 初めての古代遺跡。

 全てが初めての経験。


 同時に怖さもあった。

 学校の中では感じることがなかった緊張感。

 古代都市独特の静寂。

 滅びた都市の不気味さ。


 ドロシーの内心はレオの想像よりも複雑だった。


「こういう時は師匠の言ったことと、レオさんのいいつけを両立」


 ドロシーは魔力を自分の体表から二十センチ広げる。

 眼は魔力で厳重に保護。

 更に体内の魔力で感覚と身体を強化。

 ドロシーの有り余る魔力量だからできる芸当だった。


「サバイバルで生き抜くコツは敵をすぐに察知すること、そして迷わないこと」


 杖を召喚しいつでも攻撃できるように構える。

 冷たい風がドロシーの頬を撫でる。

 砂ぼこりが舞い違和感に気付いた。


「えっ……」


 振り返るとそこにはさっきまでいなかったはずの存在がいた。

 騎士?

 機械仕掛けの甲冑を身にまとった騎士が三体立っていた。


(何かおかしい……)


 手の甲の魔法刻印を発動しようとした時、騎士が剣帯から剣を抜いた。


『許可されていない魔法の発動を検知しました』


 敵意を感じたドロシーは反射的に魔法で攻撃した。

 杖の先端に魔力を集め圧縮して放つドロシーの基本攻撃魔法の威力は学内一だった。

 校内に用意されている最硬度の魔道具の的は大抵この一撃で破壊できた。


 土煙と共に甲冑の一部が壊れた騎士が出てきた。

 中身を見てすぐにドロシーはその場を離れた。

 後ろを振り返ると騎士の姿はなかった。

 飛行魔法で空に逃げドロシーは手の甲の刻印魔法を発動した。


(あれは、人間だった……)


 損傷した甲冑から見えたのは明らかに人間だった。

 体表は枯れ木のような色と見た目をしていたが紛れもない人間だった。


「なんなんでしょう……」


 ――Side Leo・Da・Heart――


 メリンに入ってからレオは誰かに見られているように感じていた。

 それも妙な感じだった。

 感知魔法に疎いレオはその違和感の原因がドロシーなのか別の何かが原因なのかわからなかった。

 だから一度単独行動をした。


 結果的にその違和感の正体はドロシーではなく別の何かだった。


(鬱陶しい違和感だ。ただ見られてるって感じじゃねぇ)


 長年の勘からこの違和感の正体は何となく察していた。

 その正体を突き止めても良かったが場所が場所だけに思い切ったことはできなかった。


「どうしようかねぇ」


 煙草を咥えて火をつけようとした時、ドロシーの歩いて行った方向から大きな音が聞こえた。

 音からして戦闘だと判断した。

 恐らくこの違和感に気付いていなかった彼女がこの街の何かに引っかかったのだ。


「大丈夫かねぇ」


 レオは助けに行くか迷った。

 ここで助けに行けば困った時は助けてもらえると判断してしまう。

 この先もドロシーがこの組織で生きていくなら逃げる、試行錯誤する機会が必要だ。

 経験を積ませるためにも助けにはいけなかった。


「まあ、何かあった時は刻印魔法が発動するだろうさ」


 そう思った矢先に掌の刻印が発光した。


「おっ、きたきた」


 その時だ。

 さっきまで目の前にいなかったはずの存在が現れた。

 レオはすぐに反応し後ろに飛びのいた。


「おっと、なんだ?」

『使用が許可されていない魔法の発動を検知しました』


 機械仕掛けの甲冑を装備した三体の騎士。

 危険だというのは初見でわかった。


「魔装具の騎士ね」


 魔装具。魔道具の一種。

 魔法を付与された武器、防具の類。

(こりゃお嬢ちゃん一人じゃ対処できんな)


 今のドロシーが単独で対処できるような相手じゃないことをレオは見抜いた。

 それと同時に秘宝の情報とこの都市の関連性が明確になった。


(あの警告。そうかい、この都市全体が秘宝の効果対象範囲ってことか)


 余計な抵抗をせずにレオはその場を離れた。


(予想通りなら追ってはこないはず)


 魔装具の騎士を視界に入れたまま、ゆっくりと後ろに下がる。

 案の定騎士たちはそこから微動だにせずレオが去っていくのを見ていた。


「オーケー、なるほどな。お嬢ちゃんはパニックで抵抗した感じか」


 刻印魔法の発動はできない。

 レオの推測ではこの都市では使用していい魔法が定められている。

 定められていない魔法を使用した場合はあの騎士が取り締まりに来る。


「『審判』ってのはそういうことかい?」


 レオはこの高度な魔法都市が滅びた理由の一端を垣間見たような気がした。


 掌の刻印魔法はレオの意思とは関係なく発動することがある。

 それは、救援の意思を伝えるための信号を送る際に起きる。

 つまり、今の状況がまさにそうだった。


(お嬢ちゃんが救援のためにこれを発動したらまずいな)


 レオは掌の刻印魔法を見た。

 それは、突如。

 彼の意思とは関係なく光りだした。


「マズイ!」

『二度目の使用が許可されていない魔法の発動を検知しました』

「恨むぜ、お嬢ちゃん」


 二体の魔装具の騎士が再び現れた。

 さっきとは違い既に剣を抜いて臨戦態勢に入っていた。


「こりゃ許しちゃくれなさそうだ」


 戦闘を余儀なくされたレオは魔力を自身の腹部に刻印された魔法印に流した。


 魔法使いには魔力を流すための回路がある。

 それは十人十色の特性を持つ。

 魔力を流しやすい回路。

 流れにくい回路。

 魔力を多く流せる回路等々。


 良し悪しはあれど、そこにはそれぞれ特徴がある。

 そして、それは修行等で後天的に矯正が可能である。


 レオは師匠から刻印魔法を教わった。

 その魔法を使うために回路を矯正した。

 結果、レオは基本攻撃魔法や一般的な魔法のほとんどの使用ができなくなった。


 代わりに手に入れた魔法は古典的な戦闘魔法だった。

 その魔法の歴史は古く、今やその魔法を使って戦う者は世界中を探しても見つけるのが難しい。

 しかし、世界一カッコイイ戦闘魔法だ。


「冥途の土産によく見とけ」


 レオの体にはいくつか刻印魔法の魔法印が刻まれている。

 そして、回路はその魔法印にだけ流れるように矯正されている。

 更にいくつかの回路は特定の条件を満たさなければ魔力が流れないように遮断されている。


 腹部の魔法印は一定量の魔力を流すと発動し、魔装具を展開する。

 レオの腰にホルスターが巻き付き、二丁の回転式拳銃が収まる。

 黒鉄の回転式拳銃と白金の回転式拳銃。

 そして、それが展開されると同時にレオの遮断されている回路が解放される。


 レオは常に体内の魔力が詰まっている感覚に襲われ気だるさを感じている。

 この回路が解放される瞬間は何にも代えがたい快感だった。

 そして、回路が解放されるとレオの背中と両手の甲に普段は隠れている魔法印が浮き上がる。


「きたきた! 最高の感覚だ」


 ホルスターから黒鉄の銃を抜き回転式のシリンダーを横に振りだした。

 腰のバッグから専用の銃弾を2つ取り出し黒鉄の銃のシリンダーに装填した。


「弾込めまで待ってくれるなんて優しいんだな、でも、待つべきじゃなかったな」

『攻撃の意思を確認。排除へ移行』


 レオは狙いを定める。

 撃鉄を起こし、引き金を引く。

 同時に二発分の銃声が響いた。

 距離を詰めてこようとしていた二体の魔装具の騎士は沈黙した。

 ドロシーの攻撃でも傷がつかなかった魔装具を貫通していた。


「自前の弾なら貫通可能か……。?」


 レオは倒した魔装具の騎士を見て違和感を覚えた。

 その違和感の正体を確かめるために頭の魔装具を外した。

(マジか……、そういうことかよ)


 魔装具を外した中身は枯れ木のような皮膚をした人間だった。


「ここまでの効力を持てる魔法が行使できんのは、流石に秘宝だよな」


 本人の意思と関係なく人間の限界を越えさせる。

 そんな神業じみた芸当ができるのは秘宝くらいだ。

 審判という名からある程度魔法の種類は推測できた。

 実際に審判と同じような魔法を使用していたものが過去に組織にいた。


 遥か東方の国出身で片刃の剣を携えた魔法使い。

(確か裁定の魔法だったか)

 晩年の彼の記録の内容を思い出した。


 裁定の魔法。

 罪人の裁定を行い罪に応じて制裁を加える。

 その制裁の種類は多種多様。

 記録に残っていた制裁の種類は以下のようなもの。


 一時的な魔法使用の制限。

 一時的な魔力消失。

 記憶の消去。

 絶命。

 意識改変。


 制裁の内容が一魔法使いの範疇を越えていることがわかる。

 それに加えて一度の制裁で軍勢を壊滅させたという記録もあった。

 正直与太話だと思っていた。

 だが、この魔装具の騎士にかけられた魔法は記録の内容よりもはるかにレベルの高い魔法だ。


「考えても仕方ねえか」


 その場を離れようとしたレオに魔装具の騎士が口の形だけで感謝を述べた。

 恐らく既に声帯や内臓等の人間の機能は失っている。

 魔装具が生命維持装置のような働きをし、かろうじて意識が残っている程度だったのだ。


「胸糞悪い秘宝だ、早めにお嬢ちゃんと合流しないとな」


 レオは魔装具を置いて、ドロシーと合流するためにその場を去った。


 ――同日 夕刻――


 レオはドロシーとなんとか合流しメリンから離れた。

 離れた理由はレオが立てた仮説の検証も含まれていた。

 合流した後レオはドロシーに魔装具の騎士のことを伝えた。 


「裁定の魔法はそんなことまでできるんですか?」

「秘宝だからできるってのと、恐らく効果範囲を固定化して魔法の効果を底上げしてるだろうな」


 魔法に『罰』と『制約』をつけることにより魔法の効果が上がることは割と有名だった。

 昔のおとぎ話のような魔法のほとんどは罰と制約を設定していることが多い。


「それ、授業で習いました。でも、先生は危険だからそういうことはしないようにって」

「ああ、そりゃ間違った使い方をすれば自分の命に関わるからな。ちなみに、他に魔法効果の底上げの仕方が知ってるか?」

「はい! 『対価』ですよね」

「本当によく勉強してるな」


 レオは感心した。

 『対価』。

 身体の一部、または命、または『対価』になりえる物を対価としてそれに相当する魔法効果を上昇させる。

 大抵は命が使われる。


「さて、今回の秘宝はその『罰』と『制約』を使ってる可能性が高い」

「なんでわかるんですか?」

「そうだな、仮説を一つ検証しよう。お嬢ちゃん、手の甲の刻印魔法を発動してみろ」


 ドロシーは言われるままに手の甲の魔法印に魔力を流した。

 レオの掌が光りだす。

 メリンにいた時とは違う。

 何も起きない。


 あの警告の声も聞こえない。


「メリンから離れたのもこれを確認したかったんだ、恐らくあの都市に効果範囲を限定して裁定の魔法を発動してるとみた」

「でも、それでも『制約』にしては結構広いですよ?」

「お嬢ちゃん、この世界がどれだけ広いかわかってるか? 例えば全ての魔法を地元だけでしか使えない『制約』にしたらどうだ?」

「すごく不便だと思います!」

「だろ?」


(といっても、都市機能として組み込むとするなら大した『制約』じゃないってのは確かだ。これほど巧妙な『制約』と『罰』は初めてだな)


 『制約』が判明したところで『罰』の内容までは推測できない。

 『制約』を逆手に取って『罰』を誘発させるのは常套手段だ。

 だが相手が人ではないならそれは使えない。


「とまぁ、今回はそれを逆手に取ることもできそうにない。そして、もう一つの問題があの魔装具の騎士だ」

「人なんですよね?」

「ああ、恐らくはメリンの住人だ」


 ドロシーは申し訳なさそうに手を上げた。

 レオは学校の先生のようにドロシーを指名した。


「はい、お嬢ちゃん」

「あの魔装具私の攻撃では傷もつかなくて」

「となると、戦闘は俺担当だな」

「面目ないです」


 落ち込むドロシーにレオは励ますように肩を叩いた。


「今の時代に魔法の戦闘をするやつの方が少ないからな、時代が違うんだ。そう落ち込むな。それに、お嬢ちゃんはついこの間まで学生だったんだ。よくできてる方だ」

「レオさ~ん」

「おお、よしよし。これから強くなろうなぁ」


(なぁんで、俺こんな子どものお守りしてんだろ~)


 もはやレオは自分の役目が分からなくなっていた。

 つい最近まで最前線で秘宝回収をやっていたはずだった。

 それなのにこの難易度の秘宝回収の任務につけられ、自分の娘程の少女のお守り役までしている。


「そういえば、お嬢ちゃん。ひとつ聞いてもいいか?」

「なんですか?」

「お嬢ちゃんの師匠についてだ。お嬢ちゃんの家族構成や血統を考えると怪物は生まれない。となると、後天的に怪物になったと考えられる。膨大な総魔力量に加えて高水準の魔法。お嬢ちゃんの師匠はどんな魔法使いだったんだ?」

「なんというか……、その笑いませんか?」


 話しづらそうな雰囲気を醸し出すドロシーにレオは静かに頷いた。


「魔力量を増やす鍛錬も便利な魔法も。夢の中の師匠に教えてもらいました。」

「夢の中……」


 類似した話を聞いたことがある。

 しかし、それは……。


「やっぱり、信じられないですよね」

「いや、聞いたことがない話じゃない。この組織にいると今の時代には教えてくれないことをたくさん耳にするからな」


 人の夢はいわば精神世界。

 しかし、夢というかなり曖昧な精神世界に侵入できる魔法使いはいない。

 ただし、魔法を使うのは必ずしも人間だけではない。

 推測できるのは悪魔の一種の夢魔。

 かなり上位種の悪魔は人の夢を介してこっち側に干渉できる。


「ちなみに、どれくらいの頻度でその師匠は手ほどきしてくれたんだ?」

「私が学校を卒業するまでほぼ毎日です」

「そうか、ほぼ毎日か」


 ほぼ毎日も人の夢に干渉できる悪魔ともなれば上位種どころではない。

 最上位種の悪魔の可能性もある。

 そして、同時に不可解だった。

(上位の悪魔が人間に協力だぁ?)


 悪魔はがめつい存在だ。

 タダでは何かを教えたりはしない。

 何かを与えるにはそれに対して等価となる対価を求める。

 ただ、人が悪魔に与えられるものは多くない。


 一方悪魔が人に与えられる知識や力は桁違い。

 対価を差し出す人間側はそれなりのものを持っていかれる。

 家族、体の一部、寿命、大切な者、心。


「でも、もう夢には出てくれないんですよね。卒業したあの日にお別れをして以来」

「随分となんというか、その不思議な師匠なんだな」


 ドロシーが何かを持っていかれた様子はない。

(となると……)

 考えられるのは第三者が代わりに契約をしてドロシーに魔法の手ほどきをするようにした。


「はい、いい師匠でした! 時折何言ってるか分からないときもありましたけど」


 ドロシーは楽しそうに話す。

 同時にレオは自分の師匠を思い出していた。

 魔法学校を卒業して有頂天になっていた頃。

 彼の天狗の鼻をへし折った男。


 苛烈で厳格。

 信条を重んじ、頑固。

 ロマンを追い求めることを忘れられない夢見がちな男。


 レオが出会った魔法使いの中で最もかっこよく。

 その強さは他の追随を許さない。


「レオさんの師匠はどんな方だったんですか?」

「あ、ああ。もう忘れちまったよ。見習いの頃なんて昔のことだからな」

「ええ、師匠のこと忘れるなんて酷いですよ」

「そうかもなあ」


 忘れることはできない。

 レオは体に刻まれた魔法印を見るたびに思い出す。

 あの苛烈で頑固な男を。



 ――魔法西暦1346年 晩春――


 訪れて数日。

 メリルに再度訪れた二人は魔法を使用せずに都市内にあるはずの秘宝を探した。

 都市内はかなり荒れ果てていたがそれはただひっそりと建っていた。


 荒れ果てた都市内にぽつんと建造されたその建物は異様の一言に尽きた。

 周りの崩壊した建物とは明らかに違う造り。

 石材中心の建物ばかりの中でそれは滑らかな素材で造られていた。


「なんですかこれ……」

「さぁな、でもお嬢ちゃんでもわかるだろ」

「これが、秘宝『審判』なんですね」


 現代の建築技術ではないそれが秘宝『審判』なのはすぐにわかった。

 建物は大きく、建物の端から端まではぎりぎり肉眼で確認できる。

 入口らしきものはなく、建物の形をした異質な塊だった。


「これ、どこが入り口なんでしょう?」

「わからねえ、まず入れるのか? とりあえず、無暗に触れるな……」

「え」

「は?」

 レオが注意を言い切る前にドロシーは既に建物の外壁に触れてしまっていた。

 途端に建物全体が発光した。


 思わず目をつむった二人が再び目を開くと景色が一変していた。

 荒れ果てた都市にいたはずの二人が立っていたのは法廷だった。

 証言台に立たされた二人の前には人の頭程の光球が浮いていた。


「なんですかここ?」

「わからねぇ」


 光球は前触れもなく告げた。


『罪状と罰を告げる。罪「許可されていない魔法の使用」・罰「死罪及び永久の兵役」』


 突如告げられた罪状と罰に二人は理解するのに少し時間を要した。


「ど、どういうことですか?」

「ぶっ壊れてれてやがる」


 レオは顔をしかめた。

 次の瞬間には再び景色が一転していた。

 無観客の闘技場と二人の周りを取り囲む魔装具の騎士たち。

 レオはざっと敵を数えた。


「おおよそ300体か、魔力の範囲内だな」

「あの騎士がこんなに⁉」

「お嬢ちゃん、俺の傍から離れるなよ」

「はい」


 レオは腹部の魔法印に魔力を流した。

 魔法印は魔力に反応して魔装具を展開した。

 黒鉄の回転式拳銃と白金の回転式拳銃がレオの手におさまる。

 同時に手の甲と背中の魔法印に通じる回路が開放された。


「さーて、気分がよくなってきた」


 前の時のように魔装具の騎士は待ってくれそうにない。

 今にも襲い掛かってきそうな勢いだった。

 レオは両手の甲に刻まれた魔法印に魔力を流した。


 レオの魔力に反応した魔法印が光ると一瞬で二丁の回転式拳銃に弾が装填された。

 両手の甲の魔法印は流した魔力量に応じて弾を瞬時に生成し装填する魔法印。

 リロードの時間を短縮するための魔法印だ。

 しかし欠点がある。


 流した魔力量が少なければ弾は6発の弾は生成されず。

 流した魔力量が多すぎると多すぎた分の魔力は無駄になる。

 常に微細な魔力配分が必要になる。

 戦闘中ともなれば常に微細な魔力配分ができるとは限らない。


 微妙に多くなってしまったり、微妙に少なくなってしまったりする。

 レオの現在の課題はこの魔法刻印を調整することだった。


 一定量以上の魔力が流れた場合は切り捨て身体に再分配。

 一定量以下の場合は適量に補填する。


 今回は戦闘開始時ということもあり正しく12発装填された。

 撃鉄を起こし引き金を引く。

 打ち出された弾は騎士の魔装具を貫通して後ろにいた騎士をも貫いた。


「すごい、あの硬い魔装具を貫いた」


 ドロシーは驚くと同時に初めて自分の実力不足を実感した。

 学校ではそんな経験はなかった。

 魔法も知識も全て学校が求める水準以上を保っていた。

 力不足を感じたことはなかった。


 しかし、目の前の魔法使いは自分には倒せなかったことをやってのけた。

 自分の攻撃では傷もつけられなかった敵をたった一発で屠った。


 撃鉄を起こす。

 引き金を引く。

 撃鉄を起こす。

 引き金を引く。


 それを繰り返すこと6回。

 レオは背中にある4つの魔法印のうちの一つに魔力を流した。


 背中には4つ魔法印がある。

 腰のあたりに2つ。

 肩甲骨の辺りに2つ。


 肩甲骨付近の魔法印は雷と炎の魔法印。

 腰の魔法印は時と呪いの魔法印。


「ったく、埒が明かねえ」


 一発で3体の騎士を倒してもキリがないと判断したレオは呪いの魔法印に魔力を流した。

 そして、手の甲に魔力を流す。

 二丁の銃に呪いの魔弾が装填された。

 そして、また撃つ。


 弾に当たった騎士は倒れなかった。

 ドロシーの目から見ても明らかに威力が下がっていた。


「レオさん、威力が」

「まあ見てろよ」


 12発の呪いの魔弾を撃ち切る。

 そして、次のリロードで通常の魔弾が再装填された。

 レオは通常の魔弾を一発撃つ。

 その弾が一体の騎士を貫くと同時に周囲の騎士たちが一斉に倒れた。


 呪いの魔弾は被弾者の周囲に呪いを蒔く。

 呪いにかかった者は被弾者が死ぬと呪いが発動して死ぬ。

 この呪いの魔弾は被弾者を撃たなければ呪いが発動しない。

 何よりも生成時にかかる魔力量が他の弾よりも多い。


 戦闘中に呪いの魔弾を生成できるのは最大三回。


 ドロシーは一体何が起きたのか理解ができなかった。

 学校では見れなかった未知の魔法。

 この時点でドロシーは自分の魔法人生がぐちゃぐちゃにされていた。


(何もわからない……)


 レオの背中の後ろに隠れていることしかできない。

 歯が立たないことにストレスが溜まっていた。

 ドロシーは杖を取り出し握りしめた。


(私だって『風の一族』の一員。できることをやる)


 杖の先に大量の魔力を集める。

 そして、それを圧縮。

 そこからさらに圧縮。

 貫通力を上げるために形状を弾丸のように変形。


 大量の魔力の圧縮

 形状を維持したまま。

 そして、撃ち出す。


 ドロシーの打ち出した魔力の弾は騎士を堅牢な魔装具を貫いた。

 威力はレオの魔弾の半分ほどだった。

 それでも一体くらいなら倒せた。


「やるじゃねえか、ドロシー」

「はい」


 一発打ち出すだけでも想像以上の魔力消費。

 しかし、ドロシーの魔力量をもってすればそれも問題はなかった。

 圧縮し、さらに圧縮して、形状を変えて打ち出す。


 ドロシーの加勢もあり騎士を一掃するのに20分もかからなかった。

 闘技場は魔装具の騎士の死体であふれた。

 そしてレオの魔弾が最後の一体を貫いた。


「だぁ! ようやく終わったぁ」


 魔力切れ寸前のレオはその場にしゃがみこんだ。

 ドロシーも別の意味で疲れ切っていた。

 学校では感じることのできなかった命の危機。


「疲れました」

「よくやった、お嬢ちゃん」


 安堵した二人の景色が変わった。

 次の瞬間二人は外にいた。

 異質な建物それは秘宝『審判』

 建物自体が秘宝そのもの。


 一度の裁判で裁けるのは一つの罪のみ。

 二人の許可されていない魔法の使用の裁判は終わった。


「終わったんですか?」

「ああ、恐らくな」

「じゃあ、報告ですね!」

「待て、まずはこの秘宝の効果範囲から出るのが先だ」

「あ、そうでしたね」


 二人はそのままメリンの外へ出た。


 ――魔法西暦1347年 初夏――


 二人は一年前に出会った場所にいた。

 レオはいつも通りに煙草をふかし、気だるそうにベンチに座っていた。

 その横には去年まで新人だったドロシーがいた。

 レオは咥えていた煙草を手に持ち煙を吐き出した。


「お別れだな」

「はい、一年間ありがとうございました」


 賑わう本部の大広場。

 二人の間にだけしんみりとした空気が流れそうだった。


「なんていうと思いましたか‼ あの秘宝の回収調査以降、この一年間ほっとんど基礎鍛錬と調査ばかりで回収任務の一つもいけなかったんですからね! そのせいで組織内の開示レベルも上がらなくて読めない書物ばかり!」

「ったく、うるせえお嬢ちゃんだ。仕方ねえだろ、お前の戦闘能力と現地調査力じゃ担当できる回収任務がなかったんだ。悔しいって思うならもっと強くなれ、眼と直感を鍛えろ」

「またそれです! 目と直感! いっつもそればかりです。でも、それももう今日でおしまいですから、私は今日から一人前として組織に貢献していきますので!」


 ドロシーは勢いよくベンチを立ち上がり歩き出す。

 遠ざかる彼女の背中にレオの声が届いた。


「達者でな! ドロシー」


 ドロシーは気づいていなかったがこれが二度目の名前呼びだった。

 ただ名前を呼ばれただけだった。

 それが何よりも嬉しかった。

 しかし、振り向かない。

 そこにもうレオはいないと思ったからだ。


 彼女は歩き出す。

 彼女は『風の一族』新人現地調査員、ドロシー・ジャン・マーガレット。


 彼は見送る。

 彼は『風の一族』ベテラン現地調査員、レオ・ダ・ハート。


大分前の投稿から時間がががが……空いてしまいました。

四月か三月に書き始めて今六月。

もう半年……。

気長に悠長に書いていくので気が向いた時に覗いてください。

この作品は多分、春先に書き始めてそろそろ新社会人の季節だねって思って書き始めた作品だった気がします。

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