53.終章
――早朝、ウェルバット王国、国王の私室。
リストリットは窓に臨む王都の街並みを見下ろしていた。
その顔には王の貫禄を示すかのように髭を生やし、肌には歳月が刻まれている。頭は白髪交じりだ。
その傍らには、昔と変わらずニアが寄り添っていた。ニアもまた、歳月をその身に刻み込んでいる。
毎日眺めているこの光景も、改めて記憶にある、かつての姿と比べると新鮮なものに感じていた。
「この国も立派になったよなぁ」
しみじみとしたリストリットの呟きに、ニアが応える。
ニアもまた、同じ思いを共有していた。
「ここまで大きくなるとは思いませんでしたね」
王都は大きく拡大し、以前の数倍の広さを誇っている。
街道沿いにも街並みが続き、視界の遠くまで建物が立ち並んでいた。
人口は三十万人にも及び、かつての周辺強国と比べても遜色がない。
軍事力でも周辺国家を凌ぎ、立派な強国と言えた。
この領土で望める、最大限だろう。
これ以上は領土を拡大する必要があるが、リストリットはそこまでする気はない。
リストリットはソファに振り向いて尋ねる。
「どうだ? 約束は果たしたぞ?」
ソファには、若い青年が腰かけている。その髪は黒く、瞳は眩い金色だ。
青年が口を開く。
『そうだな。これなら充分果たしたと言えよう。リストリット、お前はよくやった』
青年の横には、若い女性が寄り添っていた。その髪も瞳も金色だ。
『在位中に間に合ったわね。三十年――長いようで短かったわね』
リストリットは苦笑で返す。
「俺ももう五十五だ。そろそろ、退位する時期を考えて良い年齢だな――ノヴァも嬢ちゃんも、あれからほとんど変わらねーな」
青年――ノヴァが応える。
『俺たちはもう、これ以上変化できないからな』
女性――アイリーンが頷く。
『衰えないのは嬉しいけれど、これはこれで、年を取れるニアさんが羨ましい気持ちはあるのよね。伴侶と過ごした歳月を、思い出と共に身体に刻み込めるのって、やっぱり素敵よ』
ニアが苦笑して返す。
「ないものねだり、よね。あなたたちはこれからどうするの?」
ノヴァが微笑んで応える。
『リストリットは約束を果たした。この国はもう俺たちの姿がなくとも容易に攻め込める国ではなくなった。この三十年で、神が人を管理する社会でもなくなった――ならば、この国を出て旅にでも出よう。アイリーンと二人で、のんびりと地上を歩いてみることにしよう。未だ神の管理に依存する者を見かけたら、自立を促そう。かつてのように、長い年月をかけて見守っていこう』
アイリーンも変わらぬ柔らかい笑顔で続く。
『リストリットさんとニアさんに会えるのはこれが最後かもしれないけれど、二人とも元気でね! 二人に会えてよかった!』
リストリットも笑顔で笑い返す。
「俺もお前らと出会えたことで、この国を救うことができた。感謝してるよ――嬢ちゃん、元気でな」
アイリーンは幸せそうな笑顔で応え、ノヴァと共に部屋から姿を消していった。
二人を見送った姿のまま、リストリットぽつりと呟く。
「あいつらに出会うことがなかったら、俺はどうなっていたんだろうなぁ」
傍に寄り添うニアが微笑みながら静かに応える。
「甲斐性無しの第二王子のまま、隣国にこの国が攻め滅ぼされて、命を落としていたでしょうね」
「……そうかもな。本当に、得難い出会いだった。失ったものもあったが、楽しい三十年だったよ」
「ノヴァくんとアイリーンちゃん、これからどうなるんでしょうね」
「嬢ちゃんが生きるのに疲れ果てるまで、この大陸を歩き続けるんじゃないか? そうやって俺みたいに不甲斐ない奴を見かけては、お節介を焼くんだろうさ――もしかしたら、テディに会いにさっさと星幽界に戻っちまうかもしれんがな」
「そうなったら、祈りを捧げれば二人に届くようになるのかしら……でもアイリーンちゃんが生きるのに疲れ果てる姿なんて、想像つかないわね」
「違いない……結局、人と分かり合える心を持っていると言っても、神の思し召しを推し量るのは人間の分を超えてる。あいつら神様の考える事は、人間が考えるべきじゃないんだろう。俺たちは変わらず、毎日を送るだけさ」
「そうね……」
「さて! それじゃあ今日も政務に精を出すか!」
初のハイファンタジー連載で色々勝手がつかめなかったりしましたがひとまず話をまとめました。
プロットの最終エピソードが気に入らなくて7話くらいカットされましたが、まぁこっちのがマシかなぁ。3万文字分くらい捨てました。
基本的にプロットというか草稿というか全体脱稿してから推敲しつつ投稿するスタイルなので終わらないということはないんですが、ノヴァとアイリーンの話はトータルで20万文字くらい書き直してますかね。
1話あたりの長さも2000文字~を目安にしてみたりもしましたが、普段の5000文字前後の方が読みやすいのだろうかと悩むところです。
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