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星の少年と炎の少女~国を救おうとしたら神様拾いました~  作者: みつまめ つぼみ


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52.ウェルバット王国の躍進

 ノヴァとアイリーン、テスティアは、テディの守りの力を強化してウェルバット王国軍二万に付与する大魔法術式を展開していた――さすがに人数が多いため、三人が力を合わせる必要があった。

 アイリーンがテディの力を引き出して強化し、ノヴァとテスティアがそれを二万人に分け与える術式だ。


 リストリットは久しぶりに長剣を振るい、活き活きと剣士の姿を見せつけていた――よし、思ったよりは鈍っていない!

 命懸けとは言い難い戦いだが、剣を振るうごとに鋭さを増す己の剣閃に、満足感を覚えていた。


 ブルームスは傭兵部隊を指揮し、部隊の先頭で敵を切り捨てていく。

 傭兵達に王への忠誠などはない。報酬さえもらえれば、その分だけ仕事をする。それだけだ。

 だがノヴァたちを恐怖する心はある。それをブルームスが都度、精神魔法術式で落ち着かせ、統率していた。


 ノヴァが約束した通り、ウェルバットの兵士を傷つけられる者は居なかった。

 ミドロアル王国軍はいくつもの罠を試みたが、すべて効果がないとわかっただけだった。

 無人の荒野を行くが如くウェルバット王国軍は進み、一兵卒も欠けることなく、ミドロアル王国の王都に辿り着いていた。


 ミドロアル王国は王都の前に一万の兵士を布陣し、待ち構えた。

 ここまでの戦いで、全く勝ち目が見えない事を悟り、士気は壊滅的だった。軍の形を維持できているだけ、立派と言えた。

 そんなミドロアル王国軍に対して、リストリットが拡声魔法で語りかける。


「私はウェルバット国王、リストリットだ! これから私が直々にミドロアル王国を終焉させても良い! だが、無条件降伏するのであれば、私はそれを飲もう! ミドロアル王国の民に一切の手は出さないと、ここに誓おう! 我がウェルバット王国の軍門に降るか、亡国の道を歩むか、選択するがいい! 降伏したミドロアル王国には、自治を許す! 属国にはなってもらうが、それ以上の事はしない! ミドロアルの地はミドロアルの人間が治めよ! 私はこれ以上、ミドロアルの人間が血を流すのを良しとしない! 王族であろうと、それは変わらない! 降伏すれば、これ以上ミドロアルの人間が命を落とすことはないとここに誓う! さぁ、答えを聞かせてもらおうか! 日が暮れるまでは待とう!」





****


 ――ミドロアル王国軍の陣内。

 ミドロアル国王を中心に重臣たちが集まり、意見を出し合っていた。


「王! あのような言葉、信じる事は出来ません! ウェルバット王国ごときへの無条件降伏と属国化など、屈辱以外の何物でもない!」


「だが奴らに今まで、傷一つでも負わせられたか? 剣も、槍も、弓も通用しない。魔法も一切通用しない。試せるだけの罠も試したが、ろくに足止めにすらならなかった。打つ手はない。士気も壊滅的で、衝突する前に軍が瓦解するのは明らかだ」


「ならばせめて、ミドロアルの誇りをもって死のうではないか! ウェルバットに降る屈辱など飲めぬ!」


「落ち着け。死のうにも、兵が付いては来ないだろう。貴公一人で死ぬことになるだけだ。貴公一人の誇りの為に、ミドロアルの民の命を失わせる気か」


「そのとおりだ。ウェルバット王は、我々が降伏すれば、民はおろか王族すら命を奪わぬと誓った。屈辱さえ飲めば、まだ我々は立て直せる。失った兵は多いが、国を守るだけの余力はまだある」


 重心たちの言葉を全て聞き終え、苦悩していたミドロアル国王が決断を下した。


「――私一人でウェルバット王と交渉してくる。皆はそれを見守れ。奴が約束を破り、私に手を出す様であれば、全軍を以て抗え。私の死後は、息子に任せる。あいつを皆で支えてやって欲しい」





****


 ――一時間後。

 王族の命すら保証すると言い切ったリストリットの前に、ミドロアルの国王が単騎で姿を見せた。


「本当に命は保証するのだな? 自治も許すと、そう言ったな? その言葉に、嘘偽りはないと誓うか?」


 リストリットも単騎で前に出て、それに応じる。


「今、こうして貴君に手をかけていないのがその証だと思って欲しい! 今までの遺恨は全て忘れよう! 属国としての条約は結んでもらうが、それ以上を望みはしない!」


 ミドロアル国王は逡巡し、応える。


「わかった。無条件降伏を飲もう」


 ミドロアル王国を降したウェルバット王国は、条約でウェルバット王国に敵対する行為をすべて封じ、ミドロアルはウェルバットの属国となった。だがそれ以上を望むことはなく、王族の粛清すら行うことなく、ウェルバット王国軍全軍はミドロアル王国から速やかに去っていった――約束通り無条件降伏以後、ミドロアルの人間は唯の一人も命を失うことはなかった。


 こうしてミドロアル王国を降した様子は全て、瞬く間に周辺国家に知れ渡っていった。





****


 ウェルバット王国はそのまま立て続けにエウルゲーク王国に攻め入り、あっさりと無条件降伏を引き出していた。

 まだ天災の傷跡を引きずるエウルゲークは、傷一つつけられない無敵の軍と戦う意思を持てなかった。

 また、無条件降伏を飲めば王族すら命を保証してもらえるとわかり、相対した部隊の将校たちは率先して降伏していった。

 投降した兵たちは速やかに武装解除されたが、その場で解放された。街への移動手段として、糧食や馬も残された。唯一武装だけは、一人の少年の魔法で消滅させられた。


 大きな人的被害を出すこともなく、エウルゲーク王国は属国としての条約を結ぶのみで終わり、兵士や国民は胸を撫で下ろしていた。

 属国とはいえ、自治は許されているのだ。今までの生活が壊されることはない。

 ウェルバット王国軍が自分たちの領土に居座る事もないとわかっていた。民衆に脅威はないのだ。


 ウェルバット王国軍は速やかに自国へ戻り、残るエグザム帝国との戦いに向け体を休めていた。

 その様子も周辺各国に広く伝えられ、エグザム帝国は皇帝自らウェルバット王国を訪問した。



 ウェルバット王宮の謁見の間で、リストリットはエグザム帝国皇帝ニールスを、壇上の玉座から見下ろしていた。


「ニールス皇帝、何用か」


 ニールス皇帝は静かにリストリットを見上げ、口を開く。


「リストリット王、次は我が国が標的だ、という話は間違いがないか」


 リストリットは僅かに間を置いてから応える。


「――その通りだ。次は貴君の国を降す。抵抗が無意味なのは、先の二国をみれば理解できるだろう」


 ニールス皇帝はリストリットの目を見つめ、思案を巡らせた。

 一切の攻撃が通用しない兵と戦う意味などない。一方的にこちらが蹂躙されて終わる。それはミドロアルが示した。

 兵たちが率先して降伏するのは、エウルゲークが示した。無敵のウェルバット王国軍に相対して、降伏しない兵は帝国にも居ないだろう。その場を生き永らえれば処刑されることもないのだ――少なくともウェルバットからは。

 まだ災害の傷跡が癒えない帝国が、無駄に終わるのが解り切っている戦場を設定するだけ馬鹿らしいというものだろう。国力の無駄遣いだ。その国力を復興に回したい。

 唯々(ただただ)、屈辱を飲むだけで全てが丸く収まるのだ。いつか、ウェルバット王国軍の謎を解明し、この借りを返せばよい。それは今すぐである必要はないのだ。


 心を決めたニールス皇帝が、リストリットを見上げたまま、尋ねる。


「リストリット王よ、結果の解っている戦争を始める意味などない。そうは思わぬか? 後で降伏するのも、先に降伏するのも、結果が変わらぬならば、国力を民の為に使いたい」


 リストリットはニールス皇帝の目を見て、応える。


「そうだな。私も同感だ。貴君は国力をエグザム帝国の為に使うがいい。その為に貴君が言うべき言葉を述べよ」


 リストリットは言外に”今この場での無条件降伏を許す”と言った。降伏した後の処遇も、先の二国と同じだと保証したのだ。つまり、自治を許し、粛清も行わないと誓った。

 屈辱を飲み込み、ニールス皇帝が口を開く。


「……我が帝国は、貴君の国へ降ろう」


 リストリットが頷いた。


「いいだろう。その降伏を飲もう」



 こうしてウェルバット王国を取り巻く強国三国はその軍門に降り、ウェルバット王国から脅威は去った。

 その情勢に合わせ、周辺各国首脳も度々ウェルバット王国を訪れた。なかなか頷かないリストリットに対し粘り強く交渉を続け、ウェルバット王国有利な条件と引き換えに不可侵条約を結んでいった。

 わずか半年余りでウェルバット王国は強国の仲間入りをし、それを見届けたアルトゲイル皇国軍は本国へ引き上げていった。





****


 リストリットは王の居室で、ニアと共に祝杯を挙げていた。

 傍にはノヴァとアイリーン、テスティアとブルームスの姿もある。

 リストリットは祝杯をノヴァに向け、口を開く。


「お前たちのおかげで、この国は窮地を脱した。神業の如き魔法を使う少年少女の噂は周辺各国に轟いちまったが、お前たちの姿がこの国にある限り、この国が攻め込まれることはないだろう。その間に、この国を真の強国に育て上げる。それを約束する」


 ノヴァもまた、祝杯をリストリットに掲げ、応える。


『お前に受けた二つの恩義はこれで返した。だが借りが一つ残っている。ならば、その約束が果たされるまで、お前の傍に居てやろう』


『そうね。私たちの姿が消えた途端に、周辺国が逆らうのは避けられないものね。でもリストリットさんなら、ちゃんと約束を守ってくれると信じてるわ』


 ニアは祝杯を飲みながら、最初の戦いを思い出していた。


「それにしても、ノヴァくんもアイリーンちゃんも派手にやらかしたわよね……王宮のみんな、あなたたちを怖がってない? 大丈夫?」


 アイリーンは笑顔で応える。


『世話係さんたちは怯えてるわね。でも、それは仕方ないわ。神が人に畏れられるのは当然なのよ』


『アイリーンは既に、俺と同等の存在と成っている。畏れ敬われる存在だ。巷では、アイリーンを炎の神と崇める者もいるようではないか』


 ニアが頷いて応える。


「そう言われ始めているのは確かよ。火竜の息吹の印象が強いのでしょうね――アイリーンちゃんは、ノヴァくんの前妻と間違われて、不服に感じない?」


 アイリーンが苦笑でそれに応える。


『星の神であるノヴァの妻が炎の神なのはしょうがないわ。私は新しい炎の神。それでいいわよ』


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