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星の少年と炎の少女~国を救おうとしたら神様拾いました~  作者: みつまめ つぼみ


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42.邪神の最期

 ノヴァの言葉に、テスティアが必死に思い留まる様、語りかける。


『ノヴァ様、危険すぎます! そのような事ならば私が――』


『お前の権能では無理だ。それは自分がよくわかっているだろう? 逆に吸収されるのが落ちだろうよ』


『その危険は今のノヴァ様も変わらないではありませんか!』


『なに、古き神を相手にした経験など、俺にしかあるまい。あのような人格すら持たぬ力の塊程度、なんとかしてやる。だがウェルトを捕縛している魔法術式を維持する余力はない。お前が引き継げ』


 リストリットが、未だノヴァがウェルトの魂を手に持っている事に気が付き、問いかける――それは魂の残滓、既に魂とも呼べないものだ。


「なぁノヴァ、何故兄上の魂を未だ捕縛しているんだ? もう敵の位置はわかったんだ。お前には用済みだろう?」


 ノヴァが獰猛な笑みを浮かべる。


『これから滅する相手にお前の兄の魂を渡すなど、業腹というものだ。違うか? あれを滅すれば、少なくともお前の兄の魂は、取り込まれることなく消滅することができる』


「お前、たったそれだけの為に、そんな消耗の大きい術式を維持してくれていたのか……?」


 再び回復薬を飲み干したノヴァを、リストリットは呆然と見ていた。

 ここに来るまでに、異常な頻度でノヴァは回復薬を服用している。一度の服用でノヴァの全魔力が回復することはないと言っても、一本で一日分の魔力消費を賄えるはずだ。それをこの短時間で五本以上飲み干していた。

 万全な神であるテスティアが対処に困る程の難敵を前に、そんな余裕などないはずなのだ。

 アイリーンが柔らかい笑顔で、戸惑うリストリットに笑いかける。


『ノヴァは優しいもの。お兄さんの魂を救えなかったことに、腹を立ててるのよ。この上、更にただの力としてあんなものに取り込まれるだなんて、魂が迎える最後として許せないのよ』


 テスティアもまた、ノヴァの意志を正しく理解した。


『……御心、承知いたしました。捕縛術式の主導権を引き継ぎます』


 テスティアが渋々、ノヴァからウェルトの魂の残滓を受け取った。

 ノヴァは満足そうに笑う。


『それでよい。お前はアイリーンを守っていろ』


 そう言い残し、ノヴァは異形の神に向かって駆け出した。

 テスティアは命じられるまま、アイリーンの傍に付く。だがその位置から、可能な限りノヴァに向けられる魔力嵐を防ぎ続けた。

 異形の神に近づくにつれ、ノヴァは魔力嵐に身を曝し始めた。アイリーンの傍からでは防ぎきれないほど、ノヴァと異形の神の距離が詰まっていく。

 ノヴァは防護魔法結界を多重並列展開しつつ、少しずつ距離を詰めていく。だが異形の神まであと数歩という所で、ノヴァの足が止まった。


 ――やはり、ヴォルディモートの魔導知識だけでは中に入り切れぬか。


 魔力嵐に耐え切れず、防護魔法結界に綻びが生じ始める。

 このまま足を止めていれば、間もなくノヴァ自身も魔力嵐に吹き飛ばされるだろう。

 そう周囲が思っていた状況が、突如として変化した。

 異形の神がノヴァに向かって、大きな波のように身体を変化させ襲い掛かった。

 テスティアが声を張り上げる。


『ノヴァ様! お逃げ下さい!』


 だがノヴァは状況が変化し、魔力嵐が弱まった事を利用して、更に異形の神に向かって距離を詰めた。

 そのまま異形の神はノヴァを飲み込み、周囲の人間からノヴァの姿を見ることができなくなった。だが神であるテスティアには、依然としてノヴァの様子が見えている。厳しい目つきでノヴァを見守っていた。

 アイリーンも堪らず叫んだ。


『ノヴァ! 逃げて!』


 ノヴァは異形の神の内部で、新たに防護魔法結界を多重並列展開しつつ、分解吸収魔法術式も加え始めた。

 二つの存在が、互いに相手の力を取り込もうとしのぎを削っていた。

 ノヴァは少しずつ周囲の古き神の力を分解し、取り込み始めるが、異形の神もノヴァの防護魔法結界を破壊し続けている。破壊された防護魔法結界を、ノヴァは即座に再構築する。

 ノヴァが力を取り込む速度よりも、力を消耗する速度が速い。明らかに分が悪い。テスティアの表情に焦りが見えるようになる。このままでは先にノヴァが取り込まれるだろう。

 だがノヴァは主の勘で、ある存在が傍に潜んでいることに途中から気づいていた。誰かに突き付けるように、その手を伸ばした。


『ブルームスベイルゲイルよ。いい加減、姿を現し力を貸せ。いつまで俺を見極めようとしている気だ。我が敵を滅ぼすことが貴様の存在意義だろう』


 テスティアがその言葉に驚き、周囲を見渡す。だが彼女には、ブルームスベイルゲイルの気配を感じ取る事などできなかった。

 アイリーンやリストリット、ニアも、その言葉に戸惑い、見えないノヴァをただ見守っている。


 ノヴァの防護魔法結界を再構築する速度が、ついに破壊する速度に負けた。

 ノヴァが異形の神に取り込まれ始める。差し出していたホムンクルスの腕が、どろりと溶けた。

 それでもノヴァは余裕の笑みを浮かべて叫んだ。


『――来い! ブルームスベイルゲイル! わが権能、我が敵のすべてを破壊する力よ! 今、貴様の力を振るわず、いつ振るうというのだ!』


 その言葉に応じるように、異形の神が二つに切り裂かれた。その中からノヴァが姿を現す。

 ノヴァの傍らには、いつの間にか壮年の男が立っていた。

 そのままノヴァを抱きかかえ、異形の神から距離を取り、ノヴァを下ろす。

 ノヴァが変わらぬ余裕の笑みを異形の神に向けたまま、その男に語りかける。


『何を迷っていたか知らんが、貴様らしくない遅参だったな。おかげで腕が溶けた。治すのに手間がかかる』


 男がノヴァに跪き、口を開く。


『申し訳ありません』


『そう思うなら、さっさとあの見苦しい力の塊を滅して来い。それが貴様の存在意義だ』


『御意』


 壮年の男は短く応え、異形の神に向かって疾走していく。

 その手には黒い長剣が握られており、それが振るわれる度に異形の神が切り裂かれ、削られていく。

 周囲が呆然と見守る中、瞬く間に異形の神がその力を失っていき、最後の一振りで核が両断され、消滅していった。


 長剣を納めた男が再びノヴァに近づき、目の前で跪く。ノヴァは笑みを壮年の男に向け、その顔を見つめていた。

 テスティアはハッと我に返り、ノヴァに駆け寄った。アイリーンたちも、それに続いていく。

 アイリーンが走りながら叫ぶ。


『ノヴァ! 腕は大丈夫?!』


『問題ない。工房が完成すれば治せるだろう』


 テスティアがノヴァの前に辿り着き、男と同じように跪いた。

 そして横に並ぶ男に言葉をかける。


『ブルームスベイルゲイル、久しぶりですね』


 男――ブルームスベイルゲイルがその言葉に応じる。


『テスティアルトゲイル、貴様もな』


 そんな二人を上から見下ろしているノヴァは、どろどろに溶けた左腕の周囲に魔法術式を展開した。

 そのまま溶けた腕を光に変え、身体に吸収する。ノヴァは肩口から左腕を失い、見るも痛ましい姿になっていた。

 それを見るアイリーンの顔が泣きだしかけたのを横目で見たノヴァが、溜息を吐いて口を開く。


『テスティアルトゲイル、ブルームスベイルゲイル、力を貸せ。見せかけの左腕を作り上げる。このままでは我が伴侶が心を痛める』


『御心のままに』

『御意』


 二人が力の一部をノヴァに渡し、ノヴァはその力を左腕の形に再構築していった。

 魔力で左腕を形作ったあと、それを普通の腕に見えるよう擬態の魔法術式を展開し付与する。

 魔法術式によって、ノヴァは見た目では元通りの姿に戻っていた。

 ノヴァの元に辿り着いたアイリーンが、涙を流しながら尋ねる。


『ノヴァ! 左腕はもう大丈夫なの?!』


 ノヴァは優しい笑みで応える。


『見れば分かるだろう? 問題はない。今は見せかけだが、工房が完成すれば、すぐに治せる』


 アイリーンがノヴァの左腕を入念に確認しているのに構わず、ノヴァがブルームスベイルゲイルに尋ねる。


『ブルームスベイルゲイル。貴様、今まで何をしていた。このような古き神が人間を食い物にするのを防ぐのも貴様の役目だろう。何故傍観していた』


『はい。この神が新しき神を滅する度に、ノヴァ様の元に力が向かうのを偶然知り、ノヴァ様を探すのに利用しておりました。何度も力を追跡しましたが、毎回、星幽界の途中で見失い、ついに新しき神々はこの場に居る我々だけになってしまいました。それについて、申し開きもありません』


 ノヴァが口角を上げて笑った。


『あれほど俺に反抗してばかりだった貴様が、俺を探していたか。何故だ?』


 ブルームスベイルゲイルは頭を下げたまま応える。


『私はテスティアルトゲイルと意見を違えました。ノヴァ様が不在でも、人間は見守るべきだと私は主張しましたが、それに賛同する新しき神は居ませんでした。人間を管理しようとする彼らを止めるには、ノヴァ様御自身が彼らを説き伏せる必要があると痛感し、ノヴァ様を追い求めました』


 ノヴァが愉しそうに笑う。


『俺に最も反抗的だった貴様が、俺の意志を最も理解していた、ということか。皮肉だな。それで、何故俺の左腕が失われるまで傍観していた? 貴様は最初からこの場に潜んでいただろうに』


『ノヴァ様の御力が余りにも弱く、またその身体がホムンクルスのものだった為、ノヴァ様御本人であるという確信が得られませんでした。ですが、あのような危機的状況でも余裕の笑みを浮かべられる御姿を見て、ようやく御本人であると確信が持てました』


『ふん……まぁ良い。古き神は滅した。細かいことは不問に付そう。俺は疲れた。今日はもう住処に戻る。貴様も付いてくるが良い』


『御意』


 ノヴァがリストリットに振り向き、声を張り上げる。


『リストリット! 王宮に戻るぞ!』


 リストリットは戸惑いながら頷き、異教徒を捕縛した部隊を指揮し、王宮へ戻っていった。


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