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星の少年と炎の少女~国を救おうとしたら神様拾いました~  作者: みつまめ つぼみ


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37.国王説得会議

 馬車が離宮に付いてすぐ、ニアはテスティアを呼びに馬を走らせた。彼女の滞在先は、王宮の傍にある中央審査会支部だ。

 ノヴァとアイリーンはニアと分かれ、リストリットの執務室のそのまま真っ直ぐ向かった。

 執務室では、ぐったりとしたリストリットが椅子で頭を抱えていた。


 ノヴァがリストリットに声をかける。


「かなり疲れていますね。国王の説得に失敗しましたか」


 リストリットは顔を上げ、力なく頷いた。


「ああ。”こんなことをすれば、逆に支援を得られなくなる”と何度も言ったんだが、頑なでな。ご理解頂けなかった」


「では、この続きはテスティアが来てからするとしましょう。すぐに来るでしょう」


 間もなく、ニアとテスティアが執務室に姿を現した。

 テスティアの顔は不機嫌そのものだ。


「どうしました? テスティア。いつも冷静なあなたらしくないですね」


「やはり、人間というものは信用ができません」


「まぁそう怒らないでください。それで、何を要求されたんですか?」


「経済援助と軍事支援です。経済援助は無期限無利子で、という話でしたがこちらは飲みました」


「それで、軍事支援は?」


「一個師団の駐屯と、軍事技術の供与を要求されました。これを飲む訳には参りません。ノヴァ様、この国を見捨て、我が国に来てください」


 ノヴァがニヤリと笑った。


「予想通りですね。確かに、軍の駐屯だけならまだしも、技術供与は飲めないでしょう。大方、アルトゲイル皇国は先史文明に近い技術水準を維持させているのでしょう?」


 テスティアが頷いた。


「その通りです。古代遺物を確保して暴走した国家が現れても、力でねじ伏せる必要があります。ある程度の軍事力が必要だと判断しました」


「そんな国家が現れたら、あなた自ら手を下せば良いじゃないですか。そうは思わなかったんですか?」


「その手も考えましたが、選択肢の一つ、最後の手段としております。人間たちに分かりやすい抑止力は必要だと判断しました」


「なるほど、抑止力ですか。では仕方ありませんね」


 リストリットがノヴァに尋ねる。


「それで、この問題をどうしたらいい? お前らも突然皇族扱いされて、困惑しただろう」


 ノヴァがリストリットに振り向き、逆に尋ねる。


「リストリット、あなたはどうするべきだと思いますか? あなたの中にある選択肢を言ってみてください」


「……ひとつは、テスティア女皇の言う通り、お前らがアルトゲイル皇国に行くことだ。それが一番確実だ。だが嬢ちゃんの新生活が始まったばかりで、俺には決断が難しい」


「もうひとつは? 本当はそれで悩んでいるのでしょう?」


「……陛下に退位して頂く。ああも目が曇り、なりふり構わなくなった陛下を、もう見たくない。だがこれは俺に王位を譲ってもらわねばならない。王がそれに頷くかはわからない。それに、ニアが王妃になる。ニアにかかる負担が王子妃の比較にならない」


「国王とは一度会いましたが、ここまで強引な手を打つ人間には見えませんでした。何か新しい情報があったのではないですか? 急を要する事情が」


「……おそらく、ミドロアル王国が動いている。陛下の元に、ミドロアル王国の軍部が動いている情報が入ったのだろう。ならば近いうちに、国境沿いに部隊を配置される」


「なるほど。では取り急ぎ、一個師団とはいかなくても、アルトゲイルから軍を派遣させてください。それで少しは時間が稼げるでしょう。技術供与だけは、飲ませる訳に行きませんね。今のこの国に、アルトゲイルの技術を扱うだけの素養はありません。暴走させて終わるだけでしょう」


 テスティアが驚いてノヴァを見る。


「その御意志でよろしいのですか?! ノヴァ様は、たとえ人間がどういう結末を選択しようと、それを見守ると仰ったではありませんか!」


「それではテスティア、あなたが納得しないでしょう。それに、アルトゲイルの人間も納得しません。あなたの意志に従わず、アルトゲイルの人間がこの国に攻め込むでしょう。そうなれば泥沼です。仕方ありませんね。しばらくはあなたの言う通り、神の管理社会を続けるしかないでしょう。変化する時間が必要です」


 リストリットが唖然としてノヴァに尋ねる。


「いいのか? あれほど怒りを露にする程、管理社会を嫌っていたお前がそれで」


「僕も納得した訳ではないですが、未だアイリーンの身体は再調整が済んでいません。戦渦に巻き込まれれば命を落としかねない。今、この国を戦乱の泥沼に巻き込む訳にもいきません――工房の手配はどうなっていますか?」


「あ、ああ。用地の選定は終わった。離宮の傍に在る林を崩して、そこに建てる。工房でやる事も、持ち込む技術も、この国の人間に知られる訳にはいかない。王宮の敷地内の方が都合がいいだろう」


「わかりました、それで良いでしょう――テスティア、工房の工期はどれくらいですか?」


「はい、既に技師と資材の準備は進めております。間もなくこの国に到着しますので、それから一か月あれば構築してご覧に入れます」


 ニアが驚いて尋ねる。


「高度な魔導工房を一か月で構築するの?! 嘘でしょう?! 普通、魔導工房なんて最低でも半年はかかるわよ?!」


 テスティアが自慢げに語りだす。


「需要の多い、普遍的な構造の工房であれば、短期間で構築できるようになっているのです。さすがに特注の工房は同じように数か月を要しますが、今回の要件なら特注品は不要です」


 アイリーンが頷いき、ニアに説明する。


「要するに、既に完成済みの部品として工房を作り貯めておくのよ。在庫があれば、あとは組み合わせるだけで済むの。私の時代にもあった手法ね」


 ニアが納得するように頷いた。


「なるほど。構造物そのものを部品とする手法……そんな考え方もあるのね。でも、その構造物を運搬するだけの力が求められるわ。馬車では力不足よ」


 テスティアが頷く。


「ええ、ですから、そこは転移魔法を使います。転移魔法で構築現場に部品を運び込み、浮遊魔法で位置を調整して組み合わせます。現地の座標を知っている術者が必要ですが、今回は私が居ますので問題ありません」


 リストリットが感心していた。


「へぇ、転移魔法か。便利そうだな――なぁノヴァ、竜峰山から帰るときに、その魔法を使う訳にはいかなかったのか?」


「テスティアが言ったでしょう? あれは術者が転移元と転移先の座標を知っている必要があります。僕はあの時、ピークスも王都も座標を知りませんでしたからね。今ならば、転移魔法で竜峰山と往復する事も可能ですよ」


「じゃあ、テスティア女皇がお前たちを連れて、アルトゲイルに戻る事も可能なんだな?」


「そういうことです――どうしました? いざとなったら、僕たちをアルトゲイルに強制送還させたいのですか? 僕はアイリーンがここに居たいと言う限り、アルトゲイルに行く気はありませんよ?」


「嬢ちゃん、自分の命が掛かってるんだ、あまり我儘言うな――それが可能と分かっただけで一安心だ。戦争が始まっちまったら、お前らはアルトゲイルに逃げ込め」


 アイリーンがそれを聞いて悲しい顔になった。


「でも、それではリストリットさんとニアさんが死んでしまうわ。まだ婚姻も済んでいないのに。私、そんなの嫌よ?」


 ノヴァが優しくアイリーンの頭を撫でる。


「心配いりません。そうはならないように動きます――リストリット、テスティアと共に、国王を説得してください。今すぐ軍は派遣しますが、技術は渡せない、とね。テスティアは軍の編成を急がせてください」


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