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3.第一王子ウェルト

 第一離宮の書斎、そこに第一王子ウェルトは居た。

 陰気な顔で書物を読み漁り、軍事技術を何とか向上できないかと模索を続けている。

 だが、若い頃は秀才と持て囃された彼も、成年すると共に結果を残せなくなっていった。

 人望がなく、結果も残せない男――それが第一王子ウェルトの評価だった。


 今日も政務を放置し、成果の見込みがない勉強に打ち込んでいた。

 傍仕えすら周りに居ない――当たり散らすウェルトが、人が傍に居る事を嫌い、追い払ってしまうのだ。

 書斎の周囲は無人で、静寂に包まれている。


 リストリットは溜息を吐いてから、書斎の扉を叩いた。


「兄上! お話があります! 兄上!」


 しばらくすると中から気配がして、書斎の扉が開かれた。

 わずかに開いた扉から、陰気なウェルトの顔がのぞく。


「兄上、陛下が不在の折に、私も外出しなければならなくなりました。王都の政務を、よろしくお願いします」


 ウェルトはリストリットの顔を胡乱気にまじまじと見つめた後、一言告げる。


「わかった。お前はとっとと行け」


 言い終わると、ウェルトは書斎の扉を閉め、椅子に腰かけ勉強を続け始めた。

 その気配を部屋の外から察知していたリストリットは、大きく溜息を吐いてその場を後にした。


 リストリットは宰相に会い、「不在の間はよろしく頼む。なるだけ早く戻る」と伝え、一旦、自分の執務室に戻っていった。





****


 執務室に戻ると、わずかに明るいニアの表情に気が付いた。


「どうしたニア、何か思いついたのか?」


「やってみなければ分かりませんが、ある程度の効果は見込めるはずです。道中でピークスに立ち寄る必要があります。それと、大量の魔力回復薬も必要です」


 わずかに眉をしかめたリストリットが尋ねた。


「大量の? あれは大量に服用する薬じゃないぞ?」


「魔法を維持しながら山を踏破する必要があります。回復薬がなければできない事です。副作用は飲み慣れていますから、何とかなります」


 リストリットは顎に手を当て考え始めた。


「……その魔法は何人まで対象とできる?」


「私と、もう一人が限界でしょう」


 リストリットは再び思案し、結論を出す。


「魔力回復薬は持って行こう。その魔法の準備はする。だが先に他の人手を募ろう。クランの腕利きに声をかける」


 ”竜殺しのリスナー”が設立した冒険者クラン”金の翼”は、王都でも有数の強豪クランだ。

 ”リスナー”に憧れて多数の腕自慢が在籍していた。彼が声をかければ、それなりに人手が集まるだろう。

 彼らの助力が得られれば、ニアに魔力回復薬を多量に服用させる無茶は、させずに済むはずだ。


 リストリットの考えを即座に理解したニアが頷いた。


「では先にクランに赴いて手配をしてきます。殿下は出立準備が済み次第、クランにいらっしゃってください」


 そう言い残し、ニアは足早にその場を去っていった。

 彼女もまた、”魔導士アンジェーリカ”という名前でクランに在籍する魔導士の一人だった。

 ニアを見送った後、リストリットは魔力回復薬を集めるよう指示を出し、”竜殺しのリスナー”になる準備を始めた。


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