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星の少年と炎の少女~国を救おうとしたら神様拾いました~  作者: みつまめ つぼみ


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28.アルトゲイル皇国

 その日、リストリットは、不在のウェルバット国王ビディコンスの代理で、アルトゲイル皇国の女皇テスティアを迎えていた。

 テスティア女皇は白銀の長い髪を纏った痩身の美女だ。髪に合わせた白銀色のドレスを身に纏い、全身が眩く輝いている。その瞳もまた、白銀だ。

 長い歴史を持つ大国アルトゲイル皇国の格は、ウェルバット王国とは比べ物にならない。リストリットは密かに緊張しながら相対していた。


「ようこそいらっしゃいました。国王ビディコンスの代理を務める、第二王子リストリットです。王は今、急な折衝で国外に出ておりますが、近日中には戻ると聞いています」


「こちらこそ、本日は夜会へお招き預かり光栄ですわ。リストリット王子。お初にお目にかかるわね。滞在中はよろしく頼みます」


 歓迎夜会会場には、ノヴァとアイリーンの姿もあった。

 さすがに賓客を迎える夜会に平民の服は許されず、それなりに正装を要求されていた。


 黒が基調の正装を着たノヴァが不満げに漏らす。


「なんだか肩がこる服ですね」


 赤が基調の正装を着たアイリーンも顔をしかめている。


「私もお腹が苦しいわ。何故こんなに締め付けるのかしら。靴も歩きづらいわ」


 二人の子供は着なれない服に戸惑い、会場の隅で大人しく口に料理を運んでいる。

 そこにリストリットがテスティア女皇を連れてやってきた。


「お前ら、食べてばっかりなのか?」


「そんなことを言われても、僕らには話をしに会いに行く知り合いが居ません。食事以外に何をしろと言うのですか? 何故僕らがここに居るのか、その理由すら分かりませんよ」


 テスティア女皇が愉しそうに笑いながら二人を眺めている。


「子供には、少し退屈だったかしら? 私が新薬を開発した子供に会いたいと言ったのですよ――二人とも、不思議な瞳の色をしているのね。まるで竜の瞳の様」


 ノヴァが警戒を露にした目でテスティア女皇を見る。


「そうですか? 珍しいとは言われますね」


 テスティア女皇が頷きながら応える。


「ええ、とても珍しいと思うわ」


 アイリーンが小さな声でノヴァに語りかける。


『ねぇノヴァ、どういうこと? 私たちの瞳の色は、認識阻害魔法で気に留まらないようにしているはずよ?』


『……どうやっているのかわからんが、阻害魔法を突破して認識されたな』


 ノヴァたちは認識阻害魔法で彼らの瞳の色が気にならないよう、意識を逸らすように常に術式を張っていた。瞳の色を注視しないようにしているのだ。例え魔法が使えない場でも、琥珀色に類する色だ。ウェシュゲットがそうだったように、そこまで気にする人間は多くない。

 だが今はノヴァが認識阻害魔法を行使している最中だ。テスティア女皇はノヴァの魔法を突破して、ノヴァたちの瞳の色を注視し認識したのだ。不完全とはいえ、神の力で使う魔法だ。人間が突破できるとは思っていなかった。


 そんな二人の先史文明言語での会話に、テスティア女皇が加わった。


『随分と懐かしい言語を扱われるのですね。この言語は既に失われているはず。どこで覚えたのですか?』


 ノヴァの警戒が更に強まる。


『……貴様が阻害魔法を突破して見せたのをうっかり忘れていた。ならば、俺たちの言語を認識する事もできるな。どうやって突破した? 貴様こそ、何故この言語を知っている?』


 テスティア女皇は微笑みながら応える。


『私にはこの程度の魔法術式を破る事など造作もないこと。それよりも、あなたにはとても懐かしい気配を感じます。あなたは私の気配に覚えはありますか?』


 ノヴァが思案して俯いた。


 ――俺の魔法を造作もなく突破する魔力、先史文明の言語を懐かしいと言った事、なにより俺の気配を懐かしいと言った。ならば、こいつは人間ではあるまい。現に、凝視しても心を読むことが全くできぬ。


 ノヴァが顔を上げて応える。


『……そうだな、確かに、どこか覚えのある気配だ。だが、俺には記憶の大半がない。だから貴様が何者なのか、今は思い出すことはできん』


 テスティア女皇が悲しい瞳でノヴァを見つめた。


『その身体に魂を降ろしたときに、記憶と力の大半を失ったのですね。新薬申請書のノヴァ、という名前を見てもしかしたらと思っていました。今の世界では珍しい名前です。その名前とその気配。あなたはノヴァ様ご本人なのでしょうか』


 ノヴァはそれには即答する。


『俺はノヴァだ。俺が唯一、確かに覚えているものがその名だ。そしておそらく、星の神テスケウシスではあろうよ。これについては推測だがな。俺の気配を知る貴様は、何者だ?』


 テスティア女皇が逡巡し、口を開く。


『ノヴァ様の右腕、従属神です。我が名を思い出せたのならば、ノヴァ様本人と認めましょう』


 ノヴァが思案を続ける。


『アルトゲイル皇国、そしてテスティアか。貴様……テスティア……テスティアルトゲイル、という名ではないか? ぼんやりとだが、そんな名の神が居た気がする。アルトゲイルとは、随分と安直な名を国に付けたな』


 テスティア女皇の顔が微笑みに代わった。


『いいでしょう。その名を思い出せたのであれば、ノヴァ様ご本人、或いはその分霊と認めます――ここでは人目があります。一旦、別室に移動しましょう』


『よかろう――おいリストリット、別室へ案内しろ』


「え?! あ、ああわかった」


 呆然とノヴァとテスティアの会話を見守っていたリストリットが、二人を奥の控室へ案内する。アイリーンはノヴァに肩を抱かれ、ニアもまた、リストリットに付き従い共に移動していった。





****


 控室の扉が閉まると、テスティア女皇がノヴァの前に跪いた。


『ノヴァ様、お久しぶりでございます。お記憶がないとのことですが、ノヴァ様の右腕、テスティアルトゲイル、ここに見え参りましてございます』


 ノヴァは胡乱な目付きでテスティア女皇を見ている。


『……確かに記憶はない。だが、貴様は相変わらずだな、という思いがある。別室を用意した理由はなんだ?』


『二千五百年振りにお目に出来た我が王、我が主なのです。人間の目を気にすることなく、言葉を交わしたいと思いました――そこのウェルバットの第二王子は、事情を知っている、ということでよろしいですね?』


 ノヴァは頷いた。


『ああ、こいつらが俺を目覚めさせた。恩義のある、いわば俺の友だ。貴様が俺の配下であったのならば、無礼のないように接しろ』


 テスティアの目がアイリーンに注がれた。


『そこの、人間の魂を持つホムンクルスについては?』


 ノヴァが険のある表情でテスティアを見る。


『アイリーンは俺の伴侶だ。次にホムンクルスなどと呼べば、貴様の首はないものと思え――と、言いたいところだが、今の俺にお前をどうこうする力はない。今は貴様の方が圧倒的強者だからな』


 テスティアが畏まって応える。


『いえ、アイリーン様がノヴァ様の伴侶であること、確かに認識いたしました。以後、その様に対応いたします。御無礼をお許しください』


 リストリットが戸惑いながらノヴァに尋ねた。


「テスティア女皇が、神であるノヴァの配下ってどういうことだ?


 ノヴァは再び胡乱な目となり、その視線を打ち返した。


『俺が知るか。テスティアに聞け――説明しろ』


 テスティアが畏まり、説明を開始する。


『はっ! 私は人間の中で神として人間の国を治め、その力で人間社会を管理してきました。今のエウセリア大陸は、神が管理する人間の社会です』


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