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星の少年と炎の少女~国を救おうとしたら神様拾いました~  作者: みつまめ つぼみ


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24.言語教師

 翌日、リストリットが手配した王宮の言語教師が、ノヴァたちの前に姿を現した。

 背筋を伸ばし、髪を詰め、意志の強い眼差しをした老年の女性だ。


「私があなたたちの言語教師を務めるジャクリーヌよ。ジャクリーヌ。覚えてね」


 アイリーンとノヴァがそれに応える。


「ジャクリーヌ」

「ジャクリーヌ」


「まぁ。すぐに名前を覚えられるのは優秀ね。頼もしいわ」


 侍女たちと違い、ジャクリーヌは言語を扱えない子供の前でも、特に態度を変えている様子がない。部屋に入ってきてから、周囲に控える侍女たちに対する態度と、ノヴァたちに対する態度に差がないのだ。


『この方は、とても誠実な方ね。それに言語を知らない子供への接し方を心得ているみたい』


『教師として優秀、ということだろう』


 子供は敵意に敏感だ。自分を侮る態度は言語がわからなくても伝わりやすい。そんなことをして信頼関係に亀裂が入るのを嫌っているのだ。なにより彼女の性格がそのような対応を嫌うのだろう。言語が分からなくとも、一人の生徒として変わらず接するよう努めているのが伝わってくる。そうした誠意もまた、子供は敏感に感じ取るのだ。ノヴァやアイリーンはそこまで幼い訳ではないが、彼女の普段の姿勢を崩さない信念が、その程度で揺らぐことはないようだった。


 初歩的な文字と発声の習得から始まり、会話や読み書きの授業が開始された。

 翻訳魔法と解読魔法を併用する二人は、瞬く間にウェルバット語を習得していき、三日目にはウェルバット語で簡単な日常会話をこなせるまでになっていた。

 ジャクリーヌは大いに驚き、感想を述べる。


「あなた方、本当に教養のない孤児なのかしら。とても聡明ね」


 アイリーンが笑顔で応える。


「ありがとうございます、ジャクリーヌさん。おかげでここまで会話をすることができるようになったわ。でも……」


 問題が一つだけあった。

 ノヴァがアイリーンに続いて微笑んで応える。


「僕も、ここまで会話することができるようになりました。ジャクリーヌはとても良い教師ですね」


 ジャクリーヌが笑顔で「どういたしまして」と応えた。

 だがアイリーンは、そんなノヴァの様子を気味悪がっている。


「ねぇノヴァ、どうしてそんな言葉遣いなの……」


「ジャクリーヌが、そういう言葉遣いを僕に教えるからですよ」


 ジャクリーヌが不思議に思い、二人に尋ねた。


「あら、不満があるの? 歳相応の男の子として、問題のない言葉遣いだと思うのだけれど」


 十四歳の男子としては、かなり丁寧な方だろう。生真面目な男子の言葉遣いだ。

 おそらく、真面目なジャクリーヌの趣味が多分に入っている。だが確かに、丁寧でも問題はない。

 言語を習得する中で、ニュアンス感覚も習得しているアイリーンには、その生真面目なノヴァの空気がどうにも馴染めなかった。

 だがこれで不気味がっていても、ジャクリーヌには意味が解らないだろう。

 アイリーンが慌ててジャクリーヌに応える。


「いえ! 問題はありません!」


「ええ、何も問題はありませんよ、ジャクリーヌ」


 そのまま授業は進められ、一週間後には日常会話であれば問題ない水準まで言語を習得していた。

 ジャクリーヌが授業の終わりに感想を述べる。


「もうこれで教師は不要ね。とても優秀な生徒でした。これほど早く言語を習得できる子供は珍しいわ」


 アイリーンが笑顔で応える。


「ジャクリーヌさんの授業はとてもわかりやすかったわ。そのせいよ」


 ジャクリーヌが微笑みながら応える。


「殿下とは日常会話ができるまで、というお約束でした。もう少しあなた方との授業を続けて行きたい所ですが、私も他の子の予定があります。教本を置いて行きますから、あとは自習して語彙を増やしてください。短い間でしたが、私も楽しく授業をさせて頂きました。では失礼するわ」


 そう言い残し、ジャクリーヌは部屋を後にした。


『本当に優秀な教師だったわ。最初から最後まで態度が変わらなかったもの。とても良い人ね』


『リストリットが手配した教師だ。それなりに人を選んだのだろう』


 ジャクリーヌと入れ替わりにニアが姿を現す。

 政務で忙しいリストリットに代わって、ニアがこの第二離宮でノヴァたちの面倒を見るように指示されていた。ニアの手に負えない時には、改めてリストリットが判断する事になっている。

 ニアは人払いをして、ノヴァたちの前に腰を下ろした。


「もう授業が終わったそうね。ジャクリーヌさんも驚いていたわよ?」


 ノヴァとアイリーンは顔を見合わせる。


『ジャクリーヌさんの授業の成果、ニアさんに見てもらいましょうか』


『そうだな。ではここからはなるだけウェルバット語で会話をしよう』


 アイリーンはニアに向き直り、口を開く。


「ジャクリーヌさんはとても優秀な教師だったわ。それより、魔力回復薬の改善を早く何とかしたいわ。そろそろ私たちの身体にも問題が出る頃よ」


 ノヴァがアイリーンに顔を向けて意見を述べる。


「それなら、これからは僕らが口にする前に成分を調整してから口にすれば問題は少なくなるでしょう。ですがそんな手間をかけなくて良いように、改善を急ぎたいですね」


 ニアも、このノヴァの言葉遣いには未だ慣れていない。

 背中が痒くなる思いを堪え、ノヴァに尋ねる。


「ねぇノヴァくん、その言葉遣い、まだ続けるの?」


「突然言葉遣いを変えたら怪しまれますよ。それにジャクリーヌの責任問題となりかねません。このまま生活するしかありませんね」


「ノヴァくんはそれで不満はないの?」


「不満? 特に感じていませんよ。問題ありません――それより、どうやって毎日の回復薬を調達しているんですか? 怪しまれませんか?」


「今はまだ、私が実験に使う名目で離宮の在庫を持ち出してるわ。でもそろそろ怪しまれるから、殿下の冒険者としての予算から密かに調達する事になるかもしれないわね」


 アイリーンが思案しながら提案をする。


「私たちはウェルバット語を覚えたわ。魔法無しでも本を読むことができる。ならば、私たちが新しい薬を開発してもいいんじゃないかしら」


 その提案に、ニアは否定的だ。


「言語を知らなかった孤児が、新薬を開発するの? かなり怪しまれるわよ?」


「私たちが怪しまれる程度なら問題ないわ。たまたま才能があったことにでもすればいいじゃない。それに、魔導に携わる者として、あんな粗悪な品が市場に流通してるのを放置はしていられないわ」


「もうそんな単語まで覚えてるのね……うーん、殿下に相談してみるわね」


 そう言ってニアは一旦リストリットに相談に向かうため、部屋を後にした。

 ニアと入れ替わりに世話係たちが部屋の入り口に立ち、ノヴァたちの行動を観察している。

 ここからは会話の内容的にウェルバット語は使えない。認識阻害させている先史文明の言語で会話しよう、と互いに目で合図する。


『ねぇノヴァ、あなたはどう思う?』


『俺は構わんと思うが、リストリットが渋るのではないか? それに、新薬を作る工房を用意する必要がある』


『それなら、ニアさんの工房を借りられないかしら。魔導士なのだし、自分の工房を持っているはずよ? 今までの回復薬調達の名目だった実験も、新薬開発の為、と言えば怪しまれなくなるし、ニアさんの実験を私たちが見学して、一緒に開発したことにでもしたらどうかしら』


『そうだな。ニアに相談してみるとしよう』


 しばらくして、ニアがリストリットを伴い、部屋に戻ってきた。

 リストリットは困り果てた顔をしている。

 傍仕えたちを人払いして扉を閉めてから、ノヴァたちの向かいに腰を下ろし口を開く。


「お前ら、回復薬の問題はわかるが、さすがにお前らが新薬を作るのは無理があるぞ」


 アイリーンがそれに応える。


『それについては、いつも傍にニアさんが居てくれるじゃない? ニアさんの工房を見学していて、私たちが助言したことにでもすればいんじゃないかって。ニアさん一人で開発したことにしてもいいわ。とにかく早急に回復薬をなんとかしたいの』


「んー、ニアはどう思うんだ?」


「私一人で新薬を開発したとするのは、やはり無理があります。私は魔導薬学にそれほど造詣がある訳ではありませんし。それに他人の手柄を横取りする真似もしたくありません。どちらも怪しまれるというなら、ノヴァとアイリーンが開発した事にして頂けると私も助かります」


「そうか……お前が手ほどきをして、子供たちが独自の視点から新しい薬を開発した、ぐらいが落としどころかもしれないな……よしっ! それでいこう」


 ノヴァがニヤリと笑いながらリストリットに尋ねる。


『それはそうと、リストリットよ。お前とニアは、いつ正式に婚姻を結ぶのだ? 急いだほうがいいと解っているのだろう?』


  リストリットが視線を外しながら頭を掻き、応える。


「あー。準備は進めている。それは安心してくれ。だがすぐに”はい今日から夫婦です”とはいかないんだ。仮にも王子だからな。陛下の承認も貰わないとならん。陛下が戻り次第報告して、その後になる。陛下もそろそろミドロアル王国から戻られる頃だ。陛下が前から賓客も呼んでいるらしいから、どんなに遅くても再来週には戻ってくるはずだ」


 アイリーンが尋ねる。


『あら、賓客ってどなたか偉い方が来るの? それで王都の検問が始まっていたのね』


「ああ。アルトゲイル皇国の女皇を呼んでいる。女皇がこの国を訪問する事になっているんだ。この国の技術水準を確かめたいと言ってな」


『何故、技術水準を確かめたいのかしら?』


 リストリットが肩をすくめて応える。


「さぁな。女皇は定期的にそういう名目で各国を訪問するんだ。あの国はエウセリア中央審査会を牛耳る国だ。そのせいじゃないか?」


 ノヴァが尋ねる。


『なんだ? その中央審査会というのは』


「この大陸の大国で構成される、技術審査機構だよ。大きな戦争につながりかねない、危険な技術の流通を防止するのが目的らしい。新しい技術を開発すると、そこに届け出て承認を貰わないと市場に出せないんだ。各国に支部があって、新薬も同じように審査を受ける必要がある」


 ノヴァがやや不機嫌になりつつ応える。


『何故そう思うかはわからんが、不愉快だな。それでは技術が進歩するのを阻害するようではないか』


 アイリーンも感想を告げる。


『躍進的な技術というのは、悪用すれば簡単に危険なものになるわ。それを全て抑制していれば、当然文明の発達に影響が出る。現在の技術水準が低いのは、その影響なのかもしれないわね』


「そうかもな。だが、エウセリア国際法で決まっている事だ。簡単には変えられん。まぁ今はともかく新薬を作るのが先だ――ニア、あとは任せる。早々に完成するよう手伝ってやってくれ」


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