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星の少年と炎の少女~国を救おうとしたら神様拾いました~  作者: みつまめ つぼみ


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21.検問

 ニアがノヴァに提案する。


「ねぇ、ここで再調整をしたら少し日程に余裕が出るわよ?」


 ノヴァがアイリーンに顔を向けて尋ねる。


『アイリーンはここで再調整ができると思うか?』


 アイリーンが部屋を見渡す――窓の外には向かいの建物の窓が見えている。カーテンを閉めれば良いとは言え、お世辞にも全裸になりやすい場所ではない。


『うーん……ここではやりたくないけど、それでリストリットさんとノヴァが助かるなら我慢するわ。でもできるだけ夜になってから、部屋を暗くして欲しいかな……』


 アイリーンの望み通り、その日の晩、明かりを最小限にしてアイリーンの再調整が行われた。

 やはりアイリーンは顔を羞恥で真っ赤にして、涙目でベッドで横になっている――いくら伴侶と認め合ったとはいえ、まだ恥ずかしさを克服するには時間が足りなかった。

 リストリットを部屋の外に追い出し、ノヴァが小さな照明魔法で再調整を進めて行く。


『目覚めてから四日でこの歪みか。補佐魔法の精度を可能な限り上げておくか。これでしばらく様子見だな』


 その晩は無事に再調整を終え、四人は眠りに就いた。





 リストリットたち一行は翌朝、ピークスを出発した。


 ピークスから二日目の静かな夜、道から外れた林の中で、焚火を囲んで寝ている四人の姿があった。


 リストリットが横になったまま、身じろぎせずに小さく声をかける。


「――”アンジェ”、起きているか」


「……囲まれてるわね。夜盗かしら」


『なんだ、お前たちも起きたのか。人間の大人が五人。木陰に潜んでいるな』


『あら、みんな起きたのね。リストリットさん、どうするの?』


「こういうときはいつも、俺が適当に片付けている。だがお前らも起きるとは思わなかったな」


 身じろぎ一つせず、小さな声で言葉を交わす。

 熟練の冒険者であるリストリットとニアは、こういったことに慣れ、敵意に敏感に反応して目覚めていた。

 ノヴァとアイリーンはホムンクルスの鋭敏な知覚が、人の気配を知らせて眠りから起こしていた。


『ならばアイリーン以外が適当に片付けるとしよう。アイリーンはこの場所で、怪我をしないようにしておれば良い』


『あら、私だけ仲間外れなのね』


『お前の身体はまだ、再調整が必要だ。無理をする必要はない』


『はーい』


 横になったまま、ニアとノヴァが捕縛魔法術式を展開していく。

 捕縛魔法はたちまち木陰に潜む者たちを捕らえ、周囲から悲鳴のように驚く声が聞こえた。

 それを契機に、リストリットが手元にあった長剣を手に持ち、気配のあった場所へ駆け出した。

 リストリットが一人目を切り捨てていると、背後で炎が炸裂する音が聞こえた。

 振り向いたリストリットの目に、ノヴァが夜盗の一人を燃やしている姿が入ってくる。


「おいおい、林の中だぞ?! 周りに燃え移らせるなよ?!」


 ノヴァに伝えながらも、リストリットは手近な気配へ向かい、再び夜盗を切り捨てる。

 ニアもまた、一人の夜盗に魔力の矢を浴びせて仕留めていた。

 最後の一人はノヴァが破裂魔法で周囲に臓腑を飛び散らせて終わらせた。


 平然と血塗れになった自分に浄化魔法をかけているノヴァの元へ、リストリットとニアが集まってくる。


『なんだ? なぜそのような顔をしているんだ? 燃え移る事のないように対処したつもりだが』


 げんなりとした顔でその様子を見ていたリストリットが応える。


「……やり方がエグイんだよ。辺りが血塗れ肉塗れじゃねーか。ここまで酷い殺し方はそうないぞ?」


 ニアが少し異なる角度からリストリットに同意した。


「そうよね。人間の身体を破裂させると、後始末が大変だもの。普通はやろうとしないわね」


「視点が違うな?! なんだおい、魔導士ってのは人の心がないのか?! もっと穏便に殺してやれないのか?!」


『命を奪う行為に、穏便もなにもあるまい。尊厳を踏みにじるような殺し方ではないと思うが、問題があったか? 奴は痛みどころか、恐怖を感じる暇もなく死んだぞ?』


「……苦しまずに死んだなら、仕方ねーか。だが家族が居たら、死体くらい残してやった方がいい。あまりこういう殺し方はするな」


『家族は居ないようだったから、何の問題もないな。死体の有無も、感傷に過ぎん。俺たちを襲う罪人に情を与える必要は感じぬな』


「お前、古竜の時とは偉い温度差だな……まぁいい、片付いたんだ。寝直すぞ」


 三人は焚火の周りに戻り、再び朝まで眠りに就いた。



 その後もまた一度、夜盗に襲われたが、ノヴァは巨大な魔力の槍で夜盗の胸を刺し貫いて対処していた。


『こちらの方が恐怖も痛みも感じるが、リストリットが望んだように”穏便”に対処しておいたぞ』


「……まぁ、仕方ないか。死体が残っているんだ。仲間が弔ってやれる余地がある」





 こうして途中の悪天候も潜り抜け、再調整を行ったピークスから十日目の朝には王都エルントールに到着していた。

 近日中に再調整すればアイリーンに問題は出ない。王都に入れば、回復薬の在庫も、再調整の場所で困ることもないだろう。ノヴァを含め、四人とも胸を撫で下ろしていた。特にアイリーンは、野外の全裸を回避できた事で涙目になる程安堵していた。


 王都の入り口では検問が行われており、四人は今、その待機行列に並んでいた。王都はそれなりに人の出入りがある。商人たちや旅人、冒険者たちが、暇を持て余して連れ合いと雑残に興じていた。


 リストリットが頭を掻いて悩んでいる。


「検問かー。近いうちに誰か来るのかね。早速、素性の問題が出て来たな。”アンジェ”、どうする?」


「どうしようかしら。ピークスで保護した異国の子供、ということにしておく? それとも貧民街で保護した孤児、でもいいと思うけど」


「んー異国だと後で知られたら面倒だし、孤児という事にしておこうか」


 ノヴァがそれに応える。


『なんだ、俺たちの存在を知られたくないのか? ならば魔法で隠れればよいではないか』


 ニアがそれに応える。


「王都の検問はそんな甘いものじゃないわ。魔法で隠れていても、それを検知する魔法結界が張られているのよ。あなたたちなら、見ればわかるでしょう?」


『その魔法結界の程度の低さを見てから言っている。この程度の結界を誤魔化すくらいなら、俺とアイリーンには簡単な事だ』


 アイリーンも頷いて応える。


『私たちの存在を物質界から隠すわ。それでこの魔法結界は検知できなくなるはずよ。隠れている私たちを検知する為には、物質界を超えた検知範囲を持った魔法結界が必要になるわ』


 リストリットが頷いた。


「わかった、じゃあお前たちはそうやって隠れていてくれ。俺たちはお前たちを信じて、居ないものとして振舞う。それでいいか?」


 ノヴァが応える。


『任せておけ。では、これからしばらくお前たちも俺たちを認識する事はできなくなる。振り落とすなよ?』


 その言葉と共に、ノヴァとアイリーンが隠れて魔法術式を発動させ、すぐに二人の姿が馬上からかき消えた。幸い、周囲の人間は雑談に夢中でノヴァたちを意識していなかったらしく、騒ぎにもなっていない。

 リストリットとニアにも、二人の体重すら感じる事が出来ない。おそらく馬も、彼らの体重を感じていないはずだ。


「すげぇな……物質界から隠すって、どういうことなんだ?」


 ニアが応える。


「私にもさっぱりわからないわ。でも間違いないのは、二人が変わらず私たちの馬に乗っている、ということね。振り落とさないよう、注意しましょう」


 そのままリストリットとニアは検問を通り、いつも通りウェルバット王国の冒険者登録証を見せて”冒険者リスナー”と”魔導士アンジェーリカ”として通過していく。

 門番たちも、冒険者姿に偽装している二人を特に意識することなく、隠れているノヴァたちに気づく様子もない。

 リストリットたちはそのまま馬をクランの館に向け、その馬屋へ入っていった。


 リストリットが付近の気配を探り、声をかける。


「……辺りに人は居ないな。もう出て来ても大丈夫だぞ」


 その声と共に、ノヴァとアイリーンの姿が馬上に戻ってくる。

 アイリーンが胸を撫で下ろした。


『ふぅ、リストリットさんたら、私のことを忘れて馬を操っていなかった? 何度か落ちそうになったわ』


「すまん、まったく存在が分からないから、勝手がつかめないんだ。それより、ここがクランだ。館の中に入ろう。中に入ったらしばらくは黙っていてくれ」


 ノヴァとアイリーンを馬上から降ろし、馬を繋いだ後、四人はクランの館の裏口から中に入っていった。

 そのままリストリットはクランで割り当てられている自分の部屋にノヴァたちを案内し、周りに見つからないように中に招いた。


「……どうだ? 誰かに見られなかったか?」


 ニア、ノヴァ、アイリーンが頷いた。

 アイリーンが応える。


『人影はなかったし、検知もされてないわね。ここは魔法結界が張られていないのね』


「強豪冒険者クランに忍び込もうなんて命知らずは、そうそう居ないからな。金目の物は多いが、腕に覚えのある連中がゴロゴロしてるんだ。夜盗だって忍び込む先は選ぶさ――”アンジェ”、お前はここで嬢ちゃんたちの世話をしてくれ。くれぐれも他の連中に気取られないようにな。口の固い連中だとは思うが、知られないに越したことはない。俺はアルスラーを呼んでくる」


 そう言ってリストリットは静かに部屋を出ていった。

 ニアが大き目のテーブルにノヴァとアイリーンを座らせ、その向かいに腰を下ろして二人に尋ねる。


「ねぇ、さっきの隠遁魔法、どういう魔導理論なの? 興味あるわ」


 アイリーンが応える。


『私たちの存在を、物質界から他の隣接する世界――私は精霊界ね。そっちに半分だけ移したのよ。隣接する世界との境界に私たちは居たの。私たちを検知する為には、物質界を超えた検知範囲を持った魔法術式が必要になるのよ。検問で張られていた魔法術式は、物質界の中を対象とした魔法術式だから、それでは不充分ということよ』


「そんな簡単に隣の世界に移動することができるの?!」


『完全に移動することは難しいわ。でも、境界に身を潜めるくらいなら、それほど難しい術式でもないの。完全に移動するには、とても大きな魔力が必要になるわ。それこそ、魔導士を百人くらい集めてようやく一人を送り込める。そのくらいの魔力が求められるの。だから実際に往復できた人は居なかったわ。自由に行き来できるのは、神様くらいじゃないかしら』


「あら、じゃあノヴァくんなら、自由に往来が可能ということ?」


 ノヴァが思案しながら応える。


『そうだな。テディを星幽界に送り届けられた様に、魔力に関しては問題あるまい。術式も、ヴォルディモートの魔導知識にある。だがアイリーンが言うように前例がない。別世界に行った俺が、本当に物質界に戻ってこれる保証がない。記憶が戻らない限り、やらないほうがよかろう』


「記憶がないと、制約が多いのねぇ。ともかく、お疲れ様。お茶でも飲む?」


 ニアが振舞う紅茶を飲みながら、三人はリストリットの帰りを待った。


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