1.序章
ハイファンタジー短編のテイストで連載してみたらどうなるだろうなぁという実験作です。
暗い室内に、壮年を迎えたばかりの男の姿があった。
筋骨隆々、熟練の剣士の風格を漂わせた男は、魔法の明かりで照らし出された容器を見つめていた。
その容器は天井までそびえ立つ硝子の筒で出来ており、中に満たされた液体の中に浮かぶ、全裸の少年の姿があった。
短く黒い髪、病的に白い肌、目を瞑り、彼は眠るように浮かんでいた。年齢は十四歳ぐらいだろう。
男は横に居る女性に声をかける。
「なぁ、これが目当ての古代遺物だと思うか?」
紫紺の長衣を纏った魔導士の女性は、それに頷いた。
「ええ、古代の魔法で保護された容器よ。中の少年も、人間に見えるけど人間ではないわ」
魔法で容器と少年を精査していた女性が結果を告げた。
男は女性に確認を取る。
「魔法で保護されてるのか……この容器、破壊できると思うか?」
「古代の高度な防御魔法が幾重にも付与されてる。けれど、長い年月でその力の大半を失っているみたい。これなら、あなたの力で破壊する事も可能だと思うわ」
男は溜息を吐いて応える。
「”古代の高度な防御魔法”、か。少し厄介だが、やるしかないな――下がっていろ」
男は容器から助走距離を取り、腰から長剣を抜き放つと、ゆっくり横に構えた。
続いて身体強化魔法と武器強化魔法を全力で付与する。
男の魔力が全身を駆け巡り、満ち足りた直後、男は床を蹴り、鋭い横薙ぎを筒に向かって放った。
百年を生きた古竜の鱗すら寸断することができる、男自慢の必殺の一撃だ。
だが容器はそんな男の一撃すら受け止め、室内に甲高い鋼の音が響き渡った。
魔法で錬成され、鋼より頑丈に作られた長剣でなかったら、これで折れていただろう。
男は呆然と呟く。
「うっそだろ……俺の必殺の一撃が通用しない?」
だが魔導士の女性がそれを否定する。
「……いいえ、防御魔法に損傷があるわ。何度か繰り返せば破壊できると思う」
男は溜息を吐いてそれに応える。
「自慢の一撃を何度か、ね。自信を失いそうだ」
男は懐から魔力回復薬を取り出し、飲み干した。
男の全魔力を使用するこの一撃は、放つたびに補給が必要だった。
再び助走距離を取った男が、長剣を構え、気合の声を上げる。
「いっくぞぁ!」
話は数日ほど遡っていく。