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 リグロトル公爵の許可が下りた事もあり、出来ればパーティーは台無しにしたくないものの、最悪な事になった場合もご容赦いただける事がわかった為、少しだけ軽い気持ちになって、ライアン様と共にパーティー会場に戻った。

 話が長くなってしまったせいか、パーティー開始時刻ギリギリになっていて、心配してくれていたラングと合流してからは、ライアン様が他の貴族と話をしている間はラングが、ラングが話をしている間はライアン様がという形で、必ず私を1人にしないようにしてくれた。


 リグロトル公爵は最初の挨拶の際に「今日はちょっとした余興があるから楽しんでほしい」と伝えてくださったので、シェールと何かあっても、余興として受け止められる可能性があるような…?

 って、都合の良い考えかしら?

 でも、リトログル公爵の仰っている余興は、シェールと私達の話の事なのは確かだった。


 しばらくは和やかに過ごしていたけれど、シェールが私に気が付かないはずもなく、突然、シェールの叫ぶ声が聞こえた。


「お姉様! お姉様! 私はここにいます! 助けに来て下さっ」


 叫ぶシェールの口をロブス様が後ろから手を回しておさえた後、驚いている周りに謝罪する。


「申し訳ございません。どうやら緊張してしまっているようです。皆さんの視線が熱かったからでしょうか」

「ねえ、見て! お姉様がいるわ! 今日は着飾っているからか、いつも以上に素敵!」


 自分の口をおさえていたロブス様の手をはなさせて、シェールは私を指差して叫ぶ。


 さっきまではシェールの可愛さを自分のパートナーそっちのけで褒めたたたえていた男性陣は、様子のおかしいシェールに気が付いたのか、少しずつ離れ始めていく。


 すると、ロブス様がシェールを叱る。


「大人しくしていろと言っただろう! もう君はフェイロン家の人間なんだ!」

「違うわ! 私はお姉様のものよ!」

 

 シェールは叫ぶと、私を見て手を振る。


「お姉様! 助けに来てくれたんですね! 嬉しい! ……というか、どうしてラングがお姉様と一緒にいるの!?」


 私の隣に立つラングを見つけたシェールは可愛らしい顔を一変させて、恐ろしい形相になった。


 シェールはラングにライバル意識を燃やしていて、私と彼が2人で話すのを嫌がった。

 昔は私とラングが一緒にいる事の方が多かったのに、それをすっかり忘れているみたい。


 というか、都合の良い事しか覚えてもいないし、見えてもいないんでしょうね。


「ミュア姉様をお願いします」


 ラングはライアン様にいつもよりも低い声でお願いすると、ライアン様は無言で頷き、シェールから私を隠す様に立ってくれた。


「ちょっと、お姉様! どういう事なの!? ラング! あなたが私からお姉様を奪ったのね!? 信じられない! 最低だわ! 家族に捨てられたと聞いたけれど、全部あなたの仕業なんでしょう!?」


 騒がしい会場内だというのに、シェールの声は甲高いからか耳に響く。

 ライアン様に隠してもらいながらも、やはり気になって顔だけ出してシェール達の方を見ると、ラングがシェールとロブス様の前に立ったところだった。


「ちょっと、ラング! 聞いてるの!?」

「聞いていますし、聞こえていますよ、シェール姉様。少し落ち着いて下さい」

「落ち着かなくさせたのはどこの誰なの! 私とお姉様が仲が良いからって嫉妬して! 私を家に帰してよ!」

「僕は帰ってきてもらわなくても良いんですけどね。姉はこう言っているのですが、どういう事でしょうか、フェイロン侯爵令息。それとも、お義兄(にい)さんと呼んだ方が良いですか?」


 そう言われてみればそうよね。

 シェールがロブス様と結婚すれば、ラングにとってはロブス様が義理の兄になるのよね。

 そして、私の義理の弟にもなるわけだけど、基本は関わらないだろうし、あまり考えないようにしましょう。


「そ、それはまぁ、そうだな。彼女が家に帰りたがらなくてだな」

「そんな事ないわ! あなたが私は家族に捨てられたと言ったんじゃないの!」

「そんな事を言った覚えはない! 君が僕の妻になりたいと言ったんだ!」

「なんですって!? 私があなたの妻になりたいだなんて、いつ言ったのよ! この嘘つき!」


 シェールは叫ぶと、近くのテーブルに置いてあったグラスを手に取ると、中に入っていた赤い液体をロブス様の顔にかけた。


「何をするんだ! このスーツ、いくらしたと思っているんだ!? 弁償しろ!」

「人を軟禁しておいてよく言うわ! あなたこそ、私に慰謝料を払いなさいよ! それから、私は今日は実家に帰らせてもらうからね!」

「そんな事をさせるわけがないだろう! もう君と僕は婚約関係にあるんだぞ!」

「婚約者だからって一緒に住まないといけない決まりはないわ! それにあなたと結婚したって私は一緒には住まない! 実家でお姉様と一緒に暮らすのよ!」


 人目を気にせずに叫び合っているシェールとロブス様に向かって、ラングが大きなため息を吐いた。

 すると、2人はやっと周りに人がいる事を思い出したのか、慌てて口を閉じた。


 近くにいたボーイがロブス様に白いハンカチを差し出すと、ロブス様は濡れた髪や顔を拭きながら、ラングに話しかける。


「君の姉はとんだじゃじゃ馬だな」

「その事については否定致しません」

「ちょっと、ラング!?」


 シェールが怒りの声を上げると、ラングは冷たい声で言う。


「シェール姉様、実家に帰ってきてもミュア姉様はいません。実家に帰れば僕がいますよ? 僕の顔なんて見たくないでしょう? 大人しくフェイロン家でお世話になって、そこで幸せを探して下さい」

「ど、どうして? どうしてお姉様が実家にいないの…?」


 困惑しているシェールを見て、ラングがこちらに顔を向けた。

 すると、ライアン様が聞いてくる。


「彼女は俺達の婚約を知らないようだ。伝えてもいいか?」

「もちろんです」


 私が頷くと、ライアン様は私の手を引いて、シェール達に近付いていき、少し距離を取って立ち止まると笑顔で言った。


「はじめまして、シェール嬢。俺はライアン・ミグスター。いずれ、君の義理の兄になる」

「……義理の兄…? ……え? 一体、どういう事なの?」


 シェールが震えながら、私を見て呟いた。


 

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