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 宿の相場というものをわかっていなかった私は、ロブス様から渡された慰謝料の一部を取り出して、馭者に紹介してもらった宿屋のフロントに行って値段を聞いてみる事にした


 女性1人だという事でセキュリティのしっかりした宿屋にした方が良いと馭者から助言された為、この宿にしたのだけれど、値段を聞いて驚いた。


 ロブス様からもらった慰謝料では、この宿に5日間ほど宿泊出来れば良いところだった。

 馬車はすでに帰ってしまっているし、もう夜も遅いので、この時間に辻馬車は走っていない。

 宿に頼めば馬車を出してもらえるかもしれないけれど、深夜料金という事も加算されて、かなりの値段になりそうだった。


 とにかく、今晩はここで泊まって、明日の朝から実家に移動する事にした。

 怒涛の1日だったという事もあり、明日からの事を考えないといけなかったにも関わらず、ベッドに横になると、知らない間に眠ってしまっていた。


 そして次の日の朝、目を覚ました時には、いつも目を覚ます時間だった。

 毎日、この時間に起きるようにしていたから、体が勝手に覚えているみたい。


 今いる宿屋から私の実家までは馬車で半日で着く。

 シェールはいつも遅い時間に目を覚ますから、まだ私がいなくなった事には気が付いていないはず。

 私がいなくなったと知ったら、私を追ってすぐに実家に帰ろうとするだろうけれど、ロブス様がシェールを逃さない事を祈るしかない。


 そして、実家が私を受け入れてくれるかどうかもわからないから、受け入れてくれなかった時の事も考えないといけない。

 両親は私が嫁にいったものだと思っているから、実家の私の部屋なんて、私が出て行った日に片付けたに決まっているだろうから。


 シェールがいたから、私を可愛がってくれていたけれど、シェールがいなかったら、私もラングと同じように邪魔者扱いだろうし…。

 

 ラングの場合は後継ぎだから捨てられる事はないだろうけれど、私の場合はそうではない。


 受け入れてくれなかった時にどうするか、結局、考えつかないまま、実家に戻る事になった。


 実家に辿り着いたのは昼過ぎで、通された応接間でロブス様から婚約破棄をされた事を話すと、お父様は顔を真っ赤にして怒り始めた。


「お前だけ帰ってきただと!? シェールはどうしたんだ!?」


 まだフェイロン家の方から連絡がいってないみたいで、シェールとロブス様が婚約するという話を知らないようだった。

 だから、その事を話すと、お父様は頭を抱え、お父様の隣に座っていたお母様は両手で顔を覆って泣き始めた。


「だから、シェールを家から出す事を反対したんだ! それをお前が許可するから!」

「だって…! 可愛いシェールのお願いを拒むわけにはいかなかったでしょう!? 大体、あなただって最終的に許可されたではないですか! 私だけを責めるなんて酷い、酷いわ…。ああ、私の天使がもう家に帰ってこないなんて…!」


 困った両親だと思った。

 2人にとって自分の子供はシェールだけらしい。


 ただ、この様子だと、このまま実家に戻ってくる事を許してもらえるのかと思っていたら違った。


「お前を見るとシェールの事を思い出して悲しくなるし、腹が立つ! 顔も見たくない! ここから出て行け!」

「そうだわ! あなたがちゃんとロブス様に好かれる様にしていないから、こんな事になるのよ!」


 好かれる様にしていないから、と言われたらそうだった。

 

 でも、あの家に行って2日目に放り出されたのだから、好かれる努力も何もない様な気がする。


 それに、シェールが私と誰かとの結婚を認めるはずがない。


 日にちが伸びるだけで、結果は結局は同じだと思った。


「申し訳ございませんでした」


 言い返してもこの家の当主はお父様だ。

 出て行けと言われたら出ていくしかない。


 縋り付けば何とかなるのかもしれないけど、そんな事は絶対にしたくなかった。


「謝罪なんていらん! 出ていけ!」

「わかりました…」

「お前の様な奴は二度とこの屋敷に立ち入らせんからな!」


 お父様は顔を真っ赤にしたまま、テーブルに置かれていたカップを手に取り、中に入っていたお茶をかけてこようとしたので、慌てて避けて逃げる様にして部屋を出た。


 ここまで態度が豹変するとは思っていなかったわ。


 トランクケースを持ち、玄関に向かっていると、使用人の誰かが伝えてくれたのか、弟のラングが駆け寄ってきた。


 今のラングは私の頭一つ分くらい背が高くなっていて、お父様に対抗する為に鍛えた事もあり、精悍な体つきになっていた。

 顔立ちはまだ幼さを残していて、シェールと同じく可愛らしい顔立ちのラングは、悲しそうな顔で私の名を呼んだ。


「ミュア姉様」

「ラング…、私、とうとう追い出されてしまったわ」

「という事は、また一緒に暮らせるんですか?」


 悲しげな表情が嬉しげなものに変わったけれど、私が首を横に振ると、今度は不思議そうな顔になった。


「何か…、あったんですか?」

「実はね、この家も追い出されてしまったの。ここで話していると怒られそうだから、外で話をしてもいいかしら?」

「かまいませんが、では、僕の部屋で…」

「いいのよ。私に肩入れしているのがバレたら、あなたはこの家で余計に居心地が悪くなるでしょう」

「別にかまいません。最終的には僕の家になるんです。その時は遠慮なく両親は追い出すつもりですよ」

「ちょっと、ラング!」


 慌てて、彼の腕をつかんで歩き出す。


「聞かれたらどうするの」

「別にいいんですよ。僕には心強い友人がいますから」

「あら、そうなの?」

「ええ。剣術学校で知り合った、3つ上の人なんですが、その方は公爵令息なんです。あまりにも酷い態度を取るようなら名前を使っても良いと言われているので、彼の名前を出すつもりです」

「あまり厚意に甘えすぎないようにね」


 微笑んで言うと、ラングは首を縦に振って満面の笑みを浮かべる。


「そうだ。友人は婚約者がいないんです! ミュア姉様はどうかと聞いてみますよ!」


 ラングは名案とばかりに言ってくれたけれど、ラングの3つ上という事は18歳。

 それで、婚約者がいないという事は、問題がある人じゃないの…?


 って、私も人の事は言えないわね。


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