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 結局、シェールはロブス様を連れて、どこかへ行ってしまった。

 自分の家でもない上に、ロブス様は自分の婚約者でもないのにだ。


 ロブス様も文句を言いながらもシェールに付いていったのだから、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。


 シェールはとても可愛いから、最初は彼女を嫌っていた男性もいつしか彼女の虜になる。


 きっと、彼もそうなるんでしょうね。


 ただ、そうなった時、私はどうなるのかしら。

 何としてでもシェールを実家に置いてくるべきだったのに、それが出来なかった私は本当に馬鹿だわ。


 くよくよしていてもしょうがない。


 ロブス様はシェールと一緒に部屋を出ていく際に、メイド達のいる場所を教えてくれた。

 そこに行って何をしたら良いのか聞いてみましょう。

 

 どうせ何も出来ないお嬢様だと思われているのでしょうから、それはそれで腹が立つ。

 このままでは結婚してもしなくても、この家に閉じ込められて、ロブス様にいいように扱われ、シェールと一緒にこの家で暮らす事になるだけ。

 そんなの絶対に嫌。

 シェールの呪縛から何とか抜け出してみせるわ。


 私には私の人生があるんだから。


 それに、結婚前から私をこんな風に扱う人となんて結婚したくない。


 フェイロン家の役に立てるだけ役に立って、私がここを出ていってから後悔してくれればいい。


 弱い自分にさよならしないと…。

 

 私は自分の頬を両手で叩いて気合を入れた後、急いで動きやすい服に着替えると、ロブス様が教えてくれたメイド達がいる場所に向かった。


 この屋敷に残っていたメイド達は、給料が未払いでも文句を言えない様な大人しいタイプや事情のある人間しか残っていなかった。


 次の日にはメイド達と雑談を交わす様になっていた私は、ロブス様の部屋のベッドメイキングを教えてもらいながら、話の合間に尋ねてみた。


「仕事を放り出して新しい所へ勤めたりしないの? このままだと、給料は支払ってもらえなさそうよ?」

「そうしたいんですが、今、私達の家族が住んでいる家はフェイロン家の土地なんです」

「という事はあなたが無言で辞めたりしたら、報復処置として住む家がなくなる可能性があるのね?」

「そうなります」


 私がこの家に嫁ぐかもしれないという事もあり、メイド達は全員、私に対しても丁寧な口調で話をする。


 良い子達が多いから、この家に埋もれさせてしまうのは可哀想だと思うけれど、私がどうこうできるものでもないので、甘い考えは口にしないでおく。


 給料が出せない様では、結婚しても私にお小遣いなんてないのでしょうね…。

 そうなると、家を出ていく資金が貯まらない。

 上手い事を言って、外に働きに出るしかないわ。

 出来れば、結婚前にそう出来たら良いんだけど…。


 その日の夜は、フェイロン侯爵夫妻とロブス様、そして、シェールと一緒に夕食を取る事になった。


 シェールは居候だというのに、遠慮した様子もないし、いつの間にか、フェイロン侯爵夫妻に気に入られていた。


「はい、お姉様。あーんして下さい」


 私の横に座ったシェールは、野菜のスープをスプーンですくうと、私の口元に持ってくる。


「やめて。自分で食べれるから、あなたも自分で食べなさい」

「そんなに照れないでください」

「照れているとかいう問題じゃないわ!」


 今までならここで、両親が私にシェールの言う通りする様に命令してきた。


 両親がいないから今日は大丈夫かと思ったら、そうではなかった。


「ちょっと、ミュアさん。シェールさんが可哀想でしょう。一口くらい食べてあげたらどう?」

「そうだ。君は居候なんだから」

「居候…?」


 フェイロン侯爵の言葉に対して聞き返すと、ロブス様が笑いながら言う。


「父上、僕の婚約者はミュアですよ。シェールじゃない」

「そ、そうだったか…。いや、今からでも婚約者を交換したらどうだ?」

「ちょっとあなた、本人の前でそんな事を言っては可哀想よ」

 

 フェイロン侯爵家は家族揃って笑い始めた。

 

 最悪だわ。

 婚約者が交換できるならそうしてほしい。

 シェールと結婚してくれればいい。


 だけど、今は駄目よ。

 今、追い出されてしまったら行くあてはないんだから…。


 フェイロン家を見ていると、実家の事を思い出した。

  

 弟のラングは大丈夫かしら。

 あの子も大きくなったから、父に暴力をふるわれそうになっても、力で止められる様になったし、両親から変ないじめを受けたりする事はないと思うけれど、1人であの両親の相手をするのは大変でしょうね。


「ほら、早くお姉様、食べて下さい。冷めてしまいますよ」


 シェールは笑顔でスプーンを差し出してくる。

 私はそんな彼女を無視して、自分の前に置かれたスプーンを手に取ると、静かに食事を開始した。


「そんな…! ひどいわ、お姉様…」

「ちょっと、ミュアさん! シェールさんが可哀想じゃないの!」

「申し訳ございません。私達はもう大人なんです」

「それはそうかもしれないけれど、シェールさんが泣きそうになっているじゃない…」


 フェイロン侯爵夫人から注意されたけれど、私は気にせずに食事を続けた。

 すると、シェールが呟いた。


「お姉様が変わってしまったわ…。早くこの家からお姉様を助け出さないと…」

 

 この時のシェールの決心が波乱を呼ぶだなんて、この時の私は想像もしていなかった。

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