青薔薇は隣で笑う
「アラン・ガルセンティア王太子、入場!」
その後、ガルフォードはアランこそが正式な第一王子であることを民衆に公表した。それと同時にアランを王太子とした。
民は動揺したが、もともと人望もありその人格を認められていたアランならばと、当初の予想よりも大きな問題なく受け入れられたのだった。
そして、
「サリア・ギルバートをアラン・ガルセンティアの近衛騎士に任命する!」
「……慎んで、拝命致します」
甲冑に身を包んだサリアにマントを羽織ったアランが剣を渡す。
サリアはそれを跪いて受け取る。
サリアが受け取った剣を腰に差すと、アランは甲冑を身につけたサリアをひょいと抱き上げた。
「ひゃっ!」
「そして、サリア・ギルバートをアラン・ガルセンティアの婚約者とする」
驚いた顔のサリアにアランは優しくそう告げた。
「異論はあるか?」
いたずらに微笑むアランに、
「あるわけないじゃない」
サリアは満面の笑みを返した。
そして大歓声のなか、二人の唇はゆっくりと重なりあったのだった。
「父上。お加減はどうですか?」
「まだ完調ではないが、悪くはない」
その後、帝国は大きく再編することとなった。
皇帝の回復を待つ間、一時的にガルセンティア公国のガルフォード公爵が帝国の管理も行い、ロレンス皇太子とともに帝国を再建した。
その間に軍を上げようとした国もあったが、神の奇跡を目の当たりにしたこともあり、アランやガルフォードが説得に行くとすんなりと大人しくなったのだとか。
「いっそもう、このまま引退してしまおうか」
ガルフォードとロレンスの活躍を見ていた皇帝が呟く。
「何を言っているのですか。きちんと復職して、もう一度帝国を立て直して和平へと導く。それこそがソルド兄さんという悲劇を生んでしまった父上と俺の責任ですよ」
「……そうか、そうだな」
寂しそうに言うロレンスに皇帝もこくりと頷いた。
「それに、ガルフォード公爵が許してくれませんよ。戻ってきたら死ぬほどこき使ってやるって言ってましたから」
「……やれやれ。先が思いやられるな」
「それでも、やるしかありません。
我々にはもう、神の奇跡はないのですから」
「……そうだな」
ガルセンティア公国。
屋敷の庭園をアランとサリアが手を繋いで歩く。
帝国全土を包んだ神の奇跡はその後、アランの中から完全に消え去った。
アランには理解できた。
神は、もう自分たちに神の奇跡は必要ないと判断したのだと。
これからは自分たちの力で何とかしろ。
神は、そう言っているのだと。
「……神は、存外ストイックだからな」
「え? なあに?」
「……いや」
庭園には色とりどりの花が咲いていた。
だが、その一角にかつて咲いていた花は、今はもうない。
「……青薔薇。枯れちゃったわね」
「奇跡は、自分たちで起こせってことなんだろうな」
青薔薇の花言葉は奇跡。
その役目を終えた青薔薇もまた、この世界から姿を消したのだろう。
「なんかもう、今ならどんな奇跡でも起こせる気がするわ」
サリアはそう言って笑う。
まるで花が咲いたように。
「……ああ。そうだな」
青薔薇は消えたが、アランにとっての奇跡の花はすぐ隣に咲いているのだった。
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