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第99話 下町ファッションショー

他連載作品『二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす』308話にて、当作品とのエイプリルフールセルフコラボを掲載しました。

 危うく遭難しかけた私達だったけれど、親切なお爺さんのお陰でなんとか北都までやってくる事が出来た。

 そして門を抜けて町の中に入った瞬間、周囲の温度が変わったのだ。


「えっ?」


 まるで暖房の効いた店内に入ったかのような暖かさにびっくりする。

 これはどういうこと!?


「ははは、驚いたか? これは都の結界だ」


「結界ですか?」


 ゲームとかでよくあるバリヤーみたいなヤツ? そう言えばさっき町を見た時、壁の上に半球状のフタみたいなのがついてたけど、アレの事かな?


「北都の町は魔物避けの結界が張られているが、それにはさらに寒さ除けの効果もあるんだ。だから町の中はこれだけ暖かいのさ」


「へぇー、結界って凄いんですね」


 これ、結界さえあれば防寒具も要らないんじゃないのかな?


「その分維持費は大変でな、町の税は決して安くはない。だがそれだけの金を払ってでもこの町に住みたい者は多い。僅かな薪で身を寄せ合って暮らしても尚凍死するよりは、生活に困窮しても生きる方がマシだからな」


 どうやら北都は北都で問題があるみたいだね。

 そういえば北海道ってマジで暖房が無いと詰むって何かで聞いた事あったなぁ。

 そう考えるとこの結界も生きる為に必死で考えた技術って事なのかな?


「さて、町に入った事だし、ここでお別れだな」


 おっと、そうだった。マーロックさんは善意で町まで案内してくれただけだもんね。

 町に到着したらお別れするのは当然だ。


「マーロックさん、本当にありがとうございました」


「助かったのニャ」


 改めて私達はマーロックさんにお礼を告げる。

 本当にマーロックさんに助けて貰わなかったら、間違いなくあそこで死んでいたからね。


「気にするな。たまたま見つけたから助けただけだ」


 けれどマーロックさんはその事を恩に着せるでもなく、当たり前の事だと返す。


「えっと、お礼と言ってはなんですけど、よかったらこれをどうぞ。南都で獲れた魚と調味料です」


 私は旅の途中でマーロックさんが特に気に入っていた干し魚とついでに調味料を差し出す。


「良いのか? 大事な売り物なのだろう?」


「在庫はまだまだあるから大丈夫です」


 それに町の中は結界で暖かいから、干し魚といえどあんまり持ち続けていたら腐っちゃうしね。


「そうか、ならありがたく貰っておこう。今晩はこいつを肴にして酒を飲むとしよう」


 マーロックさんはニヤリと笑うと、干し魚と調味料を受け取ってくれた。


「俺は吹雪の暖炉亭という宿を贔屓にしている。何かあったらそこを訪ねろ」


「ありがとうございます」


 最後まで面倒見の良さを見せてくれたマーロックさんと別れた私達は、まず商人ギルドを……ブルり。


「その前に服屋さんだね」


 うん、暖かいとはいえ、ここは北国。東都に比べてこの町の気温はちょっと低めだ。

 あんまり温度を上げると結界の維持費が高くなるからなのかな?


「とりあえず商人ギルドを探しながら服屋さんも探す感じで行こう」


「分かったニャ」


 服屋さんは割とすぐに見つかった。

 というか町の入り口のすぐそばにあったよ。


「いらっしゃーい」


 出迎えてくれたのは恰幅の良いオバちゃんだった。


「あらまぁ随分と薄着だねぇ。町の中は結界で暖かいからって、油断してると風邪ひくよ」


 私の姿を見たオバちゃんは手招きして暖房の下へと誘う。


「えっと、厚めの服と防寒着を買いたいんですけど」


「はいはい。防寒着もかい?」


「ええ、町に到着する前にダメにしちゃったんで」


 そもそも買ってないんだけど、それを言うとコイツ正気かって思われるのは目に見えているので誤魔化しておこう。


「あらまぁそりゃよく無事だったね! ホントだ、冷え冷えじゃないか! もっと温まりな! ほら、コイツを飲みな。温まるよ!」


 私の手を握って驚いたオバちゃんは、急いで小さなストーブのような物の上に置いてあったヤカンの中身をカップに注いで私に差し出してくる。


「ありがとうございます」


「服は私が見繕ってあげるから、アンタはそこで温まってな!」


 そう言うや否や、オバちゃんは見た目に似合わぬ風のような動きで店内を縦横無尽に動き回って服を見繕ってゆく。うわ、めっちゃ早い。


「……ほわぁ、温かい」


 オバちゃんが出してくれた飲み物は、ちょっぴりピリリとしてジンジャーティーのような味わいだった。


「はいよ、これでどうだい?」


 私がお茶を飲み終わった頃に、オバちゃんは何着もの服を持って戻ってきた。

 っていうか多すぎませんか?


「色合いや組み合わせもあるからね。色々試してみな!」


 ああ、成る程、ここから選ぶんですね。


「試着室はそこだよ!」


 あっ、試着して良いんだ。


「ちゃんと洗ってあるから安心おし!」


「洗う?」


 え? 新品じゃないの?


「お貴族様が買うような新品の服じゃないけど、ウチは買い取った時のままで流したりしないよ! 優良店舗だからね!」


 後でニャットに聞いて知ったんだけど、この世界の服は基本的に中古らしい。

 理由は布自体が貴重だからなんだって。

 新品が欲しい人は服職人にオーダーメイドで作って貰うからその分高くつくんだとか。


「さぁさぁ、体が冷える前に着替えな!」


 と言う訳で私のファッションショーが始まります。

 おかしいな、このノリ、東都でも経験したぞ。


「うんうん、どれも良いじゃないか! 似合ってるよ!」


「あらまぁ、ほんに可愛いねぇ」


「この組み合わせも似合うんじゃないかい?」


 気が付いたらオバちゃんの茶飲み友達のご近所のオバさん達まで加わっていた。

 いやいつの間に来たの!?


「うーん、これはお嬢ちゃんには色合いが合わないねぇ」


「やっぱこれがいいんじゃないの? お嬢様っぽいよ」


「でもあんまりお金持ちに見えると人攫いが怖いわ。こっちの方が平民らしくて可愛いわよ」


 今しれっと怖い会話があったんですけど……


「って言うか、随分とハデな色が多いですね」


 なんというかオバちゃん達が持ってくる服はどれも目立つ色が多いんだよね。


「目立たないと吹雪で遭難した時に見つけて貰えなくて困るだろ?」


 ああ成る程、遭難した時の為にハデなのか……って理由が怖い!!


「ならこっちの方が元気な感じがして良くない?」


 その後もオバちゃん達が新たに見繕ってきた服で、ファッションショーは混沌を極めてゆく。

 ニャット、ヘルプーッ!!


「スピニャ~」


 って、寝るなーっ!!

 くっ、ニャットは役に立たない! こうなったら一刻も早く自分で決めるしか!!


「ええと……これ! これにします!」


 私は周囲に散乱していたファッションショーの残骸から服をチョイスすると、それを組み合わせて服を選ぶ。


「あら、良いじゃない」


 私が選んだのは、長いレモン色のスカートとクリーム色のブラウス、それに深い青のカーディガンだ。

 スカートには二本の太さの違うラインがワンポイントに入っていて、ブラウスは胸元にリボンが縫い付けられていて少しお上品なイメージ。

 それだけだと肌寒いし、色が明る過ぎるから、青のカーディガンで色を引き締める。


 更に町から出る際に着る防寒着は、一見地味だけど、オレンジの模様が目立つコートを選んだ。これなら遭難しても模様が目立って見つけてもらえるんじゃないかな?

 

「でもちょっと大人しすぎない? もっと冒険しても良いのよ?」


 いや、貴方達の冒険は私の冒険とは方向性が真逆なので……


「えっと、私は旅の途中なので、あまり動きにくい服は旅の邪魔になるんです」


「あらまぁ、そうだったの。それじゃあ仕方ないわね」


「うちの孫と違って似合うから残念だわぁ」


「そもそもアンタの孫は男の子でしょうが」


「そうなのよぅ!」


「「「「アハハハハッ!」」」」


 男の子でよかったね、孫君……いや待て、似合わないってまさか、着せたのか!? 男の子に!? 強く生きろ、少年!


「毎度ありー」


 何とか服を購入した私は、服屋を後にして商人ギルドに向かう。

 はー、しっちゃかめっちゃかになったけど、親切な人達ではあったかなぁ。

 おまけにって手袋をサービスしてくれたし。

 まぁ。あの勢いはめっちゃ疲れたけど。


「あっ、あった」


 商人ギルドは町の真ん中近くにあった。


「すみませーん、商売の許可をお願いしたいんですけど」



 ギルドの建物に入った私は、受付で市場の使用許可を申請する。

 生物を早く処分したいのと、旅費を稼がないとね。


「は~い。ギルドカードは持ってる、お嬢ちゃん?」


「あっ、は……いえ、ないです!」


 危ない危ない。うっかりギルドカードを出すところだったけど、よく考えたら私のカードは侯爵家のコネで最上位のゴールドカードになってたんだった。

 うっかりこれを出した日にゃ、侯爵家が私を探した時にすぐにバレちゃう!


 なので私はカードを持っていないフリをする。


「入会費用は金貨1枚になるけど大丈夫かしら?」


「ええ!? 銀貨50枚じゃないんですか!?」


 金貨1枚って二倍じゃん!? どういう事!?


「あら、他の都の金額を知ってるのね。だったら話は早いわ。北都は暖房の結界が張られているから、その分税がかかるのよ。当然、町を行き来する商人も結界の恩恵を受ける訳だから、他の都と比べて入会費用が高くなるの」


「そうだったんですか……」


 成程、暖房の結界の恩恵を受けたいなら他所より高い入会金を払えって事かぁ。

 旅の商人はこの町の住人じゃないし、当然と言えば当然なのかも。


「東部や南部で申請した方が安いけど、旅の費用を考えると結局は高くなるわよ」


 だよねぇ。でも足の速い商品はさっさと売り払いたいから、高くなっても入会した方が良いか。


「分かりました。入会します」


「はいはい、まいど~」


 どうでもいいけどこの人空気がフンワリしてるなぁ。

 東都の受付の人はキリッとしてたのに。土地柄なのかな?

 

 ちょっと出費は大きかったけど、金貨一枚を支払って白色商人として登録が完了した。

 うう、最高級薬草のお金とか前の口座に入れっぱなしだったのは惜しかったなぁ。

 早く商品を売ってお金を稼がないと。


「よーし、心機一転頑張るぞー!」


「頑張ってね~」

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