第78話 人魚の包帯
魔王「出張でご報告なのじゃー!」
メイア「なんと『元魔王様の南国スローライフ~部下に裏切られたので、モフモフ達と楽しくスローライフするのじゃ~』の書籍化が決定いたしました!」
魔王「わらわのセリフーッ!!」
毛玉スライム「続報が入ったらまた説明するねー」
魔王「またセリフ取られたのじゃーっ!?」
ガル「また本作の更新ペースを毎日から週一に変更する事になった。楽しみにしてくれていた皆には申し訳ないがご理解頂きたい」
魔王「セリフ、わらわのセリフ……」
メイア「(ニッコリ)」
レイカッツ様と共に海軍の船に乗った私達は、人魚達との合流地点へと向かう事になった。
まぁ人魚と一触即発の状況で郷の場所が海軍にバレるのも不味いもんね。
暫く船が進むと、マストの上に設置された見張り台から、人魚達を確認したという報告が聞こえて来る。
そして船員達がロープを降ろして何か作業を始めたと思ったら、そのロープに掴まってロアンさんが姿を現した。
「久しぶり……というほど久しぶりでもないなカコ」
「ロアンさん! お久しぶりです!」
私はロアンさんと久しぶりの再会を喜ぶと、メイテナお義姉様に紹介する。
「メイテナお義姉様、こちらが私の命の恩人のロアンさんです」
「初めまして。メイテナ=クシャクといいます。私の義妹を助けてくれた事。深く感謝します」
メイテナお義姉様はロアンさんに感謝の言葉を告げると、深々と頭を下げた。
「いや、我々のミスで巻き込んだのだ。礼を言われる事はしていない。顔を上げてくれ」
ロアンさんに言われてメイテナお義姉様が顔を上げると、二人はニッと笑ってガッシリと握手を交わした。
今ので何か分かり合えたんだろうか……?
「脳筋同士通じるところがあったんだろうさ」
イザックさん、流石にその言い方は後で怒られると思うよ。
そんな話をしていたら、船員さんが何やら大きなものを運んできた。
見ればそれは真っ二つに割られた樽の様な形をしていて、不安定な部分には椅子の様な足が付けられていて、お風呂のようにも見える。
「何ですかコレ?」
この奇妙な道具を何に使うのかと近くにいたレイカッツ様に尋ねる。
「ああ、ロアン殿に入って貰うんだよ」
ロアンさんをこれに? 一体どういう事?
船員さん達は本当にロアンさんを樽に入れると、中に水を注いでゆく。
何? まさか本当にお風呂なの?
「カコちゃん、アレは海水だよ」
首を傾げている私に教えてくれたのはマーツさんだった。
「海水? 何で海水を入れるんですか?」
「ほら、彼は人魚だから、陸に上がっても体が乾かないようにという気遣いなんじゃないかな」
「あっ、成る程」
そっか、ロアンさんは人魚だもんね。
ずっと船の上に居たら乾いちゃう!
成程、そこまで考えてアレを用意したんだ。やるなぁレイカッツ様。
「ふむ、ちと狭いがこれなら海に居るのと同じだな」
ロアンさんも樽を気に入ったのか、うんうんと頷いてくつろぎだした。
この人、割とおおらかだな。
「ではロアン殿も問題ないようなので研究所へ向け出発だ!」
「アイアイサー!」
ロアンさんとの合流が一段落した事で、止まっていた船が動き始める。
遂に事件の元凶である研究所に向かうんだね!
◆
「って言っても暇~」
そう、研究所のある島にたどり着くまではする事が無いので暇なのだ。
船員さん達もいつもの船旅ならご飯の品数を増やす為に釣りをしているらしいんだけど、今は海が汚染されているから迂闊に魚を食べる訳にはいかない。
メイテナお義姉様も船の上で剣の訓練をするのは危険だから自重している。
まぁ暇つぶしにレイカッツ様と訓練を始めようとしたところをパルフィさんから、
「今回は侯爵家の使者としてきたんですよ」
の一言を受けてそっと剣を鞘に戻したんだけど。
ついでに言えばレイカッツ様も一瞬やべって顔してから何食わぬ顔で抜きかけていた剣を鞘に戻していた。
結果、皆する事が無くてお喋りに興じていた。
「じゃあトルク達は元気にしてるんですね」
「ああ、ティアとラッツも元気だぞ。症状の重かった者達もオババが作ってくれた薬でかなり良くなった。これも全部カコのお陰だ」
「いやいや、そんな大したことはしていませんよ」
うう、そんなにはっきりと褒められると照れちゃうよ。
皆も生暖かい目でこっちを見てくるし。
ティーアだけティアの名前を聞いて「あれ? 今、私のこと呼ばれました?」って顔になってたけど。
とはいえ、共通点である人魚の郷の事以外となると話題を選ばないといけなくなる。
何せ迂闊に海の話をしたら、危うく汚染された魚や海草の話になってレイカッツ様達が気まずさ全開になる所だったからね。
他に話題と言えば……
「あれ?」
と、そこで私はロアンさんのヒレに不思議なものが付いているのを見つけた。
ロアンさん達人魚には、しっぽの先の大きなヒレの他に、腰にも小さなヒレが付いているのだ。
その腰ヒレの片方と、尻尾のヒレの一部に、革製のカバーの様なものがされていたのである。
「ロアンさん、そのヒレに付けたものって何ですか?」
ナイフを収納する革の鞘みたいなものにも見えるけど、人魚のオシャレかな?
「ああ、これは破れたヒレの保護具だ」
「破れたヒレの保護具!?」
え!? 何!? ロアンさんってもしかして結構な怪我をしてたの!?
「はははっ、そんな大したものじゃないさ。魔物と戦っているとヒレを怪我する事もザラにあるんだ。そういう時は暫くすれば破れた部分がまた生えて来るんだがそれまでは動きにくくてな。これは新しいヒレが生えてくるまでのヒレの代わりを兼ねた保護具なんだよ」
な、成る程、水泳用の足ヒレと猫とかの治療に使うエリザベスカラーを合体させたような品物なんだね。
それにしても人魚のヒレって人間の爪みたいに何度も生えるんだね。
うーん、オシャレですか? とか聞かなくて良かったー!
「けど人魚の人達も結構大変なんですね」
「そうだな。他の部分は防具を身に付ければいいが、ヒレに余計なものをつけると動きを阻害してしまうからな」
「分かるニャ。ニャーもヒゲにカバーとか付けたら絶対変な感じになるのニャ」
「分かります。僕も耳にそんな事したらムズムズしてしまいますからね」
「「「ははははっ」」」」
どうやら異種族あるあるだったみたいで、ロアンさんとニャットとマーツさんが和やかに笑う。
うーん、正直全然分からん。
研究所のある島にたどり着くまでの間、そんな雑談に興じる私達なのだった。