第190話 流され流されずどっか消えた
「天罰じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
ミズダ子に案内されて元凶の下へと向かった私達は、近くにある都市へとやって来た……んだけど。
町は大変なことになっていた。
というのも町の中が水浸しになっていたからだ。
そして町の何カ所かが水に押し流されたのか、建物が流され更地となっていた。
「でもなんか変な感じだね」
それもその筈、普通水に流されるとしたら、水の流れた場所は全部丸ごと流される筈だ。
だというのに町は水浸しにはなっているものの大半の建物が無事だった。
そして家と家の間にあった建物だけが綺麗になくなっていたりと、明らかに異様な流され方をしていたのだ。
「この世の終わりじゃあぁぁぁぁぁぁ!」
そんな異常な状況だからこそ、町の人達は何か人ならざる者による攻撃だと怯え恐慌状態となっていた。
「精霊達の仕業ね」
そう語ったのはミズダ子。
「私の力で後押しされた精霊達が元凶を怒りのままにぶっとばしちゃったみたい」
「えっと、それって流された建物に犯人が居たって事?」
「そうなるんじゃないかしら?」
そう言われて町を高台から見れば、町の各所で洗い流された空き地が目立つ。
「話を聞いてきたニャ。被害の遭った場所はスラムや胡散臭い連中のたまり場になっていた場所が多いそうニャ」
「分かりやすく悪党の根城ってことかぁ」
「そうでもないニャ。中にはこの町の領主が管理する施設も流されてたらしいのニャ」
領主の管理する施設もって事は……
「それって……」
「ニャ、当然領主の館もぶっ飛ばされたのニャ」
「領主が真っ黒って事じゃん!」
犯人を暴く前に犯人をぶっ飛ばしちゃったの!?
「そ、それで領主はどうなったの?」
領主が犯人なら今頃滅茶苦茶怒ってるんじゃないの? もしかしたら誰がこんな事をしたって激怒してるはず。
「この町の人間達は領主を見てニャいって言ってたニャ。それもあって騎士団も混乱してパニックを鎮める事ができニャーみたいニャ」
「混乱って、領主の捜索隊とか出さないの?」
「それがニャー、騎士団の上層部も丸ごと居なくなってるみたいニャ。残ってるのは下っ端連中ばかりで居ても隊長レベル程度みたいニャ」
統制が取れないから組織立った活動も出来ないって事かぁ。
それでも誰も指揮を出せないとかどんだけ真っ黒だったのこの町!?
「ねぇミズダ子、領主達はどこまで流されたの?」
「さぁ」
「え? さぁってどういう事? 精霊達が流したんでしょ?」
「私はこの土地の精霊達に力を貸して全部洗い流しただけだから犯人達がどうなったかはこの土地の精霊達しか知らないわ。まぁでも、居なくなったというのなら、きっと碌な所じゃないわよ」
「精霊を怒らせた連中の末路なんて神話の時代からろくでもないと相場が決まってるのニャ。アイツ等は人間とは価値観が違うのニャ。今頃精霊達にしか出入りできない場所に連れ込まれて、永遠の苦しみを味あわされてる頃なのニャ」
「何それ怖い」
って事はミズダ子も怒らせるとヤバいって事なんじゃ……
「あら、カコは大丈夫よ。だってあなたは私が見込んだ巫女なんだもの。それに……」
「それに?」
何か私の知らない重要な理由が……?
「カコは美味しい力あるものを出してくれるもの。こんな素敵な子をどうにかする訳ないじゃない!」
「あ、はい。そう言う事ね」
女神様―――っ! 合成スキルをくれてありがとうございますーーーーーーー!
―どういたしましてー、うふふ―
何か返事が聞こえた気がしたけど気のせいだと思う。
「ともあれ、これじゃあ犯人を捜すどころじゃないねぇ」
「町もパニックになって危ニャーのニャ。悪党が全員居ニャくニャった訳じゃニャいから、宿でも取って大人しくしておくに限るニャ」
「そうだね。情報を集めるにしても皆が落ち着くまで待とうか」
といっても、パニックになった町で宿を探すのは中々に大変だったりした。
◆
なんとか見つけた宿で一晩を明かした翌日、私達は町を散策していた。
流された建物、そして領主についての話を聞く為だ。
でも直接それについて聞くと関係者と疑われるので、建物がおかしな流され方をしている事を話題の足掛かりにして聞くことにした。
「あー、流された建物な。なんであんな風に一軒だけ流されたのかは俺達にも分かんねぇよ。まぁ胡散臭い連中が出入りしてたから逆になくなって安心だけどな」
「そこの建物? 確か領主様の命令で働いてる人達の職場だって話よ。何の仕事か? さぁ、誰も知らないみたいよ」
「領主様がどんな人だったかって? うーん、偉い貴族様ってくらいしか俺達は知らねぇなぁ。ただ取引してる商人とかは怪しい噂もある連中だったから、建物が流されたのも何か悪い事をしてたんじゃないかってもっぱらの噂だぜ」
と、わかったのは胡散臭い連中が出入りしていたことと、何の仕事をしていたのか分かんないって事だけだった。
最初にニャットが集めて来た事以上の情報は手に入らなかった訳だ。
そして二日目になると町の人達の様子が変わって来た。
「もしかしたらあの水は町を救う為に神様が何かしてくれたんじゃないか?」
とか言い出す人が現れたのだ。
「町に充満してた変な匂いがしなくなった」
「それに水も綺麗になってきてる」
「「「神様が町を救ってくれたに違いない!」」」
どうやらこの町でも汚染水の影響は大きかったらしく、町の人達は口々に騒動の後で町の空気と水が綺麗になった事を神様のお陰だと喜び始めた。
実際には精霊のお陰なんだけどね。
そして三日目。
町はお祭り騒ぎになっていた。
いや実際にお祭りになっていた。
町のいたるところで皆が踊り、飲み、食べ、歌い、町が綺麗になった事を喜ぶ。
人の力では到底起こせないだろう不思議な現象によって救われた事を、喜び、感謝の声が町のあちこちからあがる。
「皆さん、町が救われた日を水の祝日としましょう!」
「「「おおーっ!」」」
そして町で唯一残っていた司祭様の宣言を受けて、精霊達に建物が流された日が祝日に認定されたのだった。
「うーん、もう滅茶苦茶」