第189話 やってきました水源の地
「やっと着いたー!」
あれから幾つもの町を巡り、遂に私達は水源のある土地へとたどり着いた。
ミズダ子のお墨付きも貰えたのでこの辺りに水源があるのは間違いなしだ。
「けど、なんか物々しいねぇ」
目的地に来たのは良いんだけど、なんかすっごい巡回の兵隊の数が多いんだよね。
街道の警備だけじゃなくあらゆる場所に現れるのだ。
「水源に近づくに連れて遭遇する数が多くなっていってるニャ」
「まじかー」
ちなみに兵隊達とは直接遭遇してはいない。
ニャットとミズダ子が察知しだい隠れたり迂回していたからだ。
見つかったら絡まれそうだしね。
「明らかに何かを隠してるわねぇ」
そしてミズダ子は凄く機嫌が悪そう。
笑顔なんだけど雰囲気が笑ってない。
「ほら、合成したご飯」
「わーい!」
なので定期的に最高品質の合成ご飯を上げる事でミズダ子の機嫌を取るのが私の仕事になっていたりする。
「あそこね。あの中に水源があるわ」
そしてたどり着いたのは中から水がザーザーと流れてくる川と一体になった洞窟だった。
丁度洞窟が川の横に空いていて、水路と歩道がセットになったみたいな感じ。
「でも、水が……」
うん、流れてくる水は色も匂いも明らかに普通じゃない。
「水源の水がこれじゃどう考えてもここが原因だよ」
「見張りの練度も高いニャ」
ニャットの言う通り、洞窟の入り口にはガッチガチに武装した騎士達の姿があった。
もう何かあるのを隠す気がないレベルで。入り口には天井まで伸びる柵が設置されていて、隙を見て中に入り込むのも無理そう。
「流石に強引に入ろうとしたら速攻で仲間を呼ばれるよね」
そうなれば重武装の騎士達に囲まれておしまいだ。
「あら、私が全部流しちゃえばいいと思うわ。中身ごと」
うん、おしまいなのは騎士達の方だね。
「いやでも中がどうなってるのか原因を調べないと。悪い事をしてるならその証拠を見つけて捕まえないと南都の時みたいに逃げられちゃうかもしれないよ」
まぁあの時の犯人は空から降りて来た名状しがたい魔物っぽい何かに連れて行かれちゃったんだけど。
いやホント何だったんだろうねアレ。
「そうね、ならこうすれば良いわ」
そうミズダ子が言うと、騎士達の横を流れていた川の水がまるで水の大蛇のように持ち上がり……
「「ガボッ!?」」
騎士達を飲み込んだ。
騎士達は慌てて水の大蛇から逃げようとするものの、大蛇は騎士達を飲み込んだまま体を空中に持ち上げ逃げ場を無くしあっという間に彼等を溺れさせてしまった。
「肺に水を流し込んで呼吸できなくしてみました」
「う、うわぁ……」
「これなら音も出せないから助けを呼べないでしょ」
「ウン、ソウダネ……」
水の大精霊やっばいわぁ。
更に水の大蛇は柵をバキバキと破壊すると、溺れた騎士達と共に川へと消えていったのだった。
「あの騎士達、助かるといいけど……」
いや、金属鎧だし無理かなぁ……
「さっ、いきましょ」
「あ、うん」
そんな感じで私達はあっさり洞窟の中へと侵入する。
「ヴェェェェ、ここは地獄ニャァァッァ」
汚染水の匂いがキツく、ニャットが今にも死にそうな声を上げる。
正直私もキツい。
「空気を綺麗にするマジックアイテムとかあればなぁ」
というかこんな場所で悪さなんて出来るの?
悪党も悶絶して悪事どころじゃないんじゃない?
「水源だから解毒ポーションも意味ないしなぁ」
水源の水の勢いは強く、解毒ポーションをかけてもすぐに流れて行ってしまうだろう。
「ニャットは外で待機してた方がいいんじゃない?」
「バカ言うニャ。ニャーはカコの護衛ニャ」
くっ、こんな時でも真面目な奴め。流石プロの傭兵、いや冒険者?
「そろそろ最奥ね」
水の流れを感じ取ったミズダ子が行き止まりが近いと告げてくる。
そしてすぐに彼女が言った通り洞窟の終点が見えてきた。
「何者だ貴様等!?」
しかもそこには何人もの重武装の騎士達の姿があり、こちらを見つけて臨戦態勢に入る。
「うるさい」
しかし静かな怒りを湛えたミズダ子によって全員吹っ飛ばされてしまった。
「「「「ぐわぁぁぁっ!!」」」」
「わー、一撃じゃん」
水を流し込まれて溺れなかっただけ温情かなぁ。
ともあれようやく目的地に到着したので私達は手分けして洞窟の中を探索することにする。
「なんか色々あるなぁ」
洞窟の最奥は何かしらの実験機材や書類が設置されていて、マジックアイテムらしき大きな機械から伸びた装置が水源の奥へと伸びていってるのが見える。
「んー、これが原因?」
あまりにも堂々と設置してあるし、どう見ても原因だわ。
問題はこれが何の為の道具かって事だよね。
だって普通に考えたら水が湧き出る水源に水を汚染する装置を設置するのはおかしいもん。
自分達も使う水なんだから、設置するにしてもある程度下流にする筈。
誰かが領主に秘密でやってた悪事の可能性もあったけど、沢山の兵士や騎士が巡回して守ってる事からもそれはなくなった。
「ここにある書類に書いてあるかな?」
以前南都で出会った連中は、ロストポーションを作る為の実験で出来た汚染水をばらまいていたけど、これは明らかに違うよね。
書類の束を手に情報を漁ると、そこには奇妙な事が書かれていた。
『水源の浄化計画』
「浄化!? え? どういう事? 何か作る為に汚染水を垂れ流してたんじゃないの!?」
もしかして思った以上に大事だったりする!?
「よーし、それじゃあ全部押し流すわよー!」
「え?」
刹那、洞窟内がまるで吹雪の中のような寒さに包まれる。
「ッ!! カコッッッ!!」
そして今まで聞いた事の無いようなニャットの焦った声と共に全身がフワフワの毛に包まれ、さらに次の瞬間には猛烈なGに押しつぶされる。
「な!?」
異変はそれだけでは終わらず、ゴゴン、ボゴン、バゴン、ゴゴゴゴッと凄い音がフワフワの向こうから聞こえてくる。
「このバカ水! カコを巻き込むつもりニャ!?」
「あら~、大丈夫よ~、水の中に巻き込んでもカコだけはちゃ~んと助けるから~」
アカン、妙にノンビリとしたミズダ子の声が逆に何か背筋がゾワゾワするものを感じさせる。
あれ絶対怒ってるよね。
「汚いものはぜーんぶ纏めて洗い流しちゃいましょう。それを作り出した者達の下へ」
え!? ミズダ子犯人が分かるの?
しかしフワフワに包まれた私の口から出るのはモゴモゴという事のみ。
「カコ、くすぐったいから黙ってるのニャ!」
解せぬ。
そうして、凄いフワフワの向こうから聞こえてくる轟音が消えると、ようやく私は解放された。
「うっわぁ……」
洞窟の中は凄い有様だった。
もう中にあったものは全て洗い流され、天井までびしょびしょだ。
それどころか洞窟が広くなってるような?
「凄まじい水の奔流で洞窟が削られたのニャ」
マジかー。
「あーすっきりした! やっぱり汚いものがある時は全部洗い流すに限るわね」」
洗い流すってレベルじゃないんですよこれは……
「って、ああー! 資料が!!」
あかーん! ここにあった資料まで洗い流されてるじゃん!
唯一残っていたのは手に持っていた書類だけ。
「漸く真相が明らかになると思ったのに」
逆に謎が増えただけじゃん!
「あら、それなら知ってる人に聞きに行けばいいんじゃない?」
「え?」
そう言えばさっき、誰かの所に汚染水を送るって言ってたような。
「もしかしてミズダ子、犯人の事知ってるの?」
「私じゃないわ。この土地の水の精霊達が知ってるの。だってそうでしょ、水は至る所にあるのだから。それに、精霊王に最も近い私が頼めば、大抵の精霊達は力を貸してくれるわ」
ニヤリと凄絶な笑みを浮かべるミズダ子。
ええと、それってもしかして脅迫とかだったりしませんよね?