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第183話 腐敗した国(物理)

 私達は森を汚染した人間達が来たと言う方角に向かってひた進んでいた。

 それは獣道ですらなく、明らかに真っ当な人間が使うルートじゃない。

 ただ、これまでに何度も汚染物質を運んできたからだろう、踏み固められた跡がわずかに道らしさを見せる……らしい。

 ぶっちゃけ私にはこれが道とか全然分かんない。

 ニャットが個々に道があるっていうからそうなんだーってなってるだけで。


「国境を見張る兵に見られないようにこんな道を選んだんだニャ」


 なるほど、つまり後ろめたい事をしてる人達って事だね。

 そんな道なき道を、私達はミズダ子が生み出した水の塊に乗って移動する。


「町が見えて来たのニャ」


 町が見えて来た事で、私達は水の塊から降りて徒歩で移動する事にする。


「妙だニャ」


「何が妙なの?」


 街道に沿って歩いていると、ニャットが怪訝そうな声を出す。


「街道を歩く人間がいニャいのニャ」


 言われてみれば周囲には私達の姿しかない。

 これまでの旅なら多少は人の姿があったものなのに。


「でもたまたまそうってだけなんじゃないの? タイミング的に」


「それなら良かったんだけどニャ。町を見るのニャ」


 言われて町を見るけどなにもおかしな感じはしない。


「町がどうしたの?」


「町から誰も出てくる気配が無いのニャ。普通、これだけ町に近づけば町から出てくる人間を見るものだニャ。夜が近い頃に町を出るのを避けるのニャら分かるけど、まだ太陽が完全に登り切ってない朝に旅人が町を出ないのは明らかに異常なのニャ」


 ほわー、流石ニャット。そんな事まで気にして見てたんだ。


「あの町、何か起きているのニャ」


 あの、まだ町に到着してないのに脅かすの止めてくれませんか?」


 ◆


「うわぁ、何これ」


 町の中は酷い有り様だった。

 一見普通の町なんだけど、町の人達は皆項垂れて、ゴホゴホ責をしたり近くの建物などによりかかりながら歩いていたからだ。


「何これ」


 そして何より異常だったのは、町に近づくにつれて漂ってきた刺激臭だ。

 正直かなりキツい。

 何ならニャットは今にもここから逃げ出したそうな顔をしているくらいだし。


「ホント何これ」


 もうその言葉しか出てこない。

 なんてこの人達は町がこんなになってるのに出て行かないの?

 町を守る門番もだるそうに「ああ旅人か。あんまり長居しない方がいいぞ」って言うだけで終わっちゃったし。


「町、出るニャ……」


 もう限界とニャットが町を出る事を求めてくる


「そうだね。外に出ようか」



 そんな訳で私達は情報収集を諦めて町を出たのだった。


 ◆


「酷い目にあったのニャ」


 ニャットはポロポロと涙を流し、鼻水を垂らしている。

 よっぽどきつかったらしい。


「ミズダ子、水を出してニャットを洗ってあげて」


「しょーが無いわねぇ」


 といいつつミズダ子は水の塊を出してくれる。


「えーい!」


 そして思いっきりニャットにぶちまけた。


「ブニャーッ!」


 大きな水の塊をブチまけられてニャットが悲鳴を上げる。


「ニャにをするのニャーッ!」


「何よー、洗ってあげたんでしょ」


「今のは洗ったとは言わんのニャ!」


 悲鳴を上げるニャットだったけど、良くないものはちゃんと洗い流せたみたいで、体をブルブルと震わせて水を吹き飛ばす。


「ありゃ駄目ニャ。言っても碌な事にならんのニャ」


 酷い目に遭ったニャットはもうあの町に行く気はないみたいで、完全にノータッチを決め込んでいる。

 どうしたもんかなぁ。私もあそこに行って長時間情報収集するのは遠慮したいし。

 などと思って町を見ていたら、町から何人もの人が出てくるのが見えた。

 更に出てくる人はどんどん増えてゆく。


「あれは旅人……じゃない?」


 最初は旅人が一斉に町を出たのかのと思ったけど、彼等の服が旅人や冒険者のそれじゃなく、極々普通の服だった事に気付く。

 それに彼等は誰も馬車に乗っていなかった。

 もしあれが旅人や商人なら馬車に乗っている筈だから。


「んー、町から離れた場所に座り込んで何かお喋りしてる? 何かあったのかな?」


 でも町で何か事件が起きて逃げてきた割には落ち着いているし。


「考えてもしょうがないか。せっかく町から出てきてくれたんだから話を聞きに行こう! すみませーん!」


 私は町の人達に近づくと彼等に話しかける」


「あら、見ない子ね。よその町から来たの?」


「はい。そしたら皆さんが町から出て来たので一体何があったのかなって」


 やっぱり見た感じじゃなにか事件が起きたようには見えない。

 でもこの世界には魔物がいるから、いくらたくさん人がいるからって自分から町を出るとは思えないんだよね。


「しばらく前から町の空気が凄く悪くなってね。それで時折こうやって皆で町の外に出て綺麗な空気を吸ってるのよ」


 そう言われて周囲を見回すと、確かに大きく体を反らせて深呼吸をする人たちの姿が確認できる。


「空気が悪いですか? 何か原因があるんでしょうか?」

 というか普通に考えれば原因があるとしか思えない。


「それがね、井戸から変な空気が漏れてくるようになったのよ」


「井戸からですか?」


 井戸って事は井戸水に何か問題があったのかな?」


「その井戸を今も使ってるんですか? 埋め立てて新しい井戸を掘ったりは?」


「したわよ、でも他の場所に空けた井戸も同じでねぇ。それで仕方なく遠く離れた川から水を汲んで、それを沸かして生活してるのよ」


 うわー、めっちゃ大変そう。


「でも流石にきつくて町を捨てる人達も出たんだけど、暫くしたら戻って来たのよ」


「え? 何でですか?」


「それがねぇ、他の町も同じだったんですって」


「ええ!? 他の町も!?」


 もしかして街道に旅人が居なかったのってそれが関係してたりするの!?


「町を捨てて別の場所に町を作ろうって話もあったんだけど、その話を聞いて無しになったのよ。それでもあきらめきれない人達が新しい町の候補地だった場所に行って井戸を掘ったらしいんだけど、出て来た水はとても飲めたものじゃなかったらしいわ」


 ひえ、人の住んでない土地の地下水もあんな匂いをまき散らしたの!?

 この付近だけじゃなく、他の町でもそうとか、絶対異常事態じゃん!


「ミズダ子、あの町の井戸ってどうなってるの?」


 水の事は水の精霊に聞くに限る。

 私がそう尋ねると、ミズダ子は不機嫌そうな顔を見せてこう言った。


「酷いわね。地下水脈が汚染されてるわ。多分源流の辺りから汚染されてるんだと思う。あれじゃどこを掘ってもまともな水は出てこないわ」


 源流からって、それじゃ下流は全部こうなってるって事!?


「しかも地下水脈がやられてるから土壌も汚染されてるわ。まだ深いところの土しか汚染されてないけど、暫くしたら地上の土まで汚染されてあの空気がそこらじゅうに漂うようになるわよ。例えば大雨が降って源流付近の水が近隣に溢れでもしたら……」


 ヤバいじゃん!


「ミズダ子、どうにかならないの?」


 どうにかするにしても源流の汚染源をなんとかしないと無理ね。


「源流の方角ってわかる?」


「そりゃ分かるわよ。なんたって私は水の精霊王に最も近い大精霊なんだもん!」


 おお、頼りになる。まさかこんなに早くミズダ子に世海魚の雫を上げた効果が出るなんてね。


「よし、源流に行って汚染源をなんとかしよう!」


「そうね! 汚いものは全部洗い流しちゃいましょう!」


 ……いや、それだと人間も何もかも洗い流しちゃいそうだからもう少し穏便にお願いします。

 けど、この国の貴族達は何で自分達の住んでいる土地が酷いことになってるのになにもしないんだろう。

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