第182話 水の大精霊、大パワーアップ?
謎の悪党達が暗躍している国が精霊達の報復で滅亡の淵に立たされている事を知ってしまった私達は、急遽その国を偵察しに行くことにした。
いやホントね、国が主導して犯罪を起こしてるとかなら滅亡も仕方なしだけど、それでも一般市民に罪はないからね。
あと何らかの犯罪組織が原因だった場合、国の偉い人に逃げるなり犯罪組織を壊滅させるべく動いてもらわないと諸共に滅ぼされてしまう。
「あー、こういう時は貴族の肩書きや巫女の肩書が役に立ちそうで妙な気分だわ」
本当なら捨てた家の地位や不本意な巫女の肩書なんかに頼りたくはないけど、人の命がかかってるんじゃ仕方ないよね。
てなわけで私達は最速で向かう事にしたんだけど……
「そもそも悪党が何処にいるのか分かんないんだよね」
おおよその方向は森の主である巨大魔物から教えて貰ったけど、詳しい居場所までは分かんないんだよね。
「ミズダ子、水を汚染する人間達が何処にいるのかって現地の精霊達に聞ける?」
「出来るけど丸ごと土地を洗い流した方が早くない?」
「早くないです!」
アカン、完全に雑に洗い流す気だ!
「ええと、他の国で悪だくみしてる連中もいるかもでしょ。だから敵のアジトを突き止めて仲間を一網打尽にしないとまた別のところでやらかすと思うんだよね」
「なるほど確かに」
良かった、分かってくれたらしい。
「じゃあこの大陸を丸ごと海に沈めちゃいましょう!」
「沈めるなー!!」
解決案が更に雑になってどうするーっ!
「でもその方が楽よ?」
「楽でも無関係の人を巻き込むのはやめてー!」
「面倒ねぇ」
その後もあれやこれやとトンデモアイデアが出ては止めるといったやり取りが繰り返され、なんとか丸ごと洗い流すという手段は保留して貰えることになったのだった。
「でも皆を説得するのが面倒なのよね」
と、ミズダ子は他の精霊達を納得させるのに手間がかかると面倒くさそうに言う。
「難しいの?」
「数十年くらいかければ理解してくれると思うけど、皆もうさっさと洗い流す気だったから説得してる間に他の子達が集まって洗い流しちゃうと思うわ」
「説得のタイムスケールが大きすぎる!」
くっ、これだから長寿種族は!
こうなると説得も難しいのかぁ。
「あっ、でもカコがアレをくれたら説得も楽になるわよ」
「アレ?」
アレとはなんじゃろ?
「昨日作った世海魚の雫よ、アレを私に頂戴」
「世海魚の雫を?」
世海魚の雫と言えば、先日現象合成を試してうっかり作っちゃった真龍の火を消す為に作った水だ。
水繋がりの精霊だけに欲しいのかな?
「んー、まぁ欲しいのならあげるけど」
私は合成を使って世海魚の雫を作ると、それをミズダ子に渡す。
「はい」
「きゃー! ありがとー! ゴクン」
「って飲んだー!?」
世海魚の雫を受け取ったミズダ子は即座にそれを飲み込んだのだった。
って何してんの!? 他の精霊達への交渉材料に使うんじゃないの!?
「んんー、キタキタ!」
その時だった。突然ミズダ子の体を構成する液体の色が変わりだしたのだ。
見慣れた水の色がまるで宝石の様に艶を帯びてゆく。
「パワーアーップ!」
丸めた体をバーンと伸ばしたミズダ子の姿はとてもキラキラとしていた。
「すっごいわー! もう体中に力が満ち溢れてる! これなら王の座まであとちょっとだわ!」
「王? 何の話?」
私が尋ねると、ミズダ子はニッコニコでキラキラ輝く腕で私を抱え上げる。
「カコのくれた雫のおかげで、わたしそろそろ精霊王になれそうなの!」
へー精霊王かー。なんか凄そうだねー……って、
「王―――っ!?」
どどどどういうこと!?
「原始の神秘を取り込んだ事で、私の精霊としての格が上がったのよ! ギリギリでまだ王にはなれないけど、あと数千年か数万年はかかった時間があと数十年くらいに短縮されたわ! なんならきっかけさえあればすぐになれちゃうかも!」
「そ、そうなんだ……」
「これだけ王に近づけば、他の精霊達もノーとは言えないわ。安心してね!」
成程、ものすごいパワーで説得するんですね。説得(物理)ですね分かりました。