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第119話 希望を喰らう者

 リルクちゃんの病気を治す為、私達はラマトロを狩りに吹雪が吹き荒れる外へとやってきたんだけれど、ラマトロの群れと遭遇した途端、魔物が乱入してきたのだった。


「コイツ、俺達を無視してラマトロを狙ってるぞ!?」


「ええ!? 何で!?」


 魔物なのに私達を狙わずに同じ魔物のラマトロを狙うの!?


「やはり来たのニャ」


 と、さっき意味深な事を言っていたニャットは乱入してきた魔物を見ても慌てる様子もなく警戒態勢を取る。


「何か知ってるの!?」


「知ってたわけじゃニャいニャ。ただ人里に近づかニャい吹雪の中で活動する魔物が現れたという事は、それ相応の理由があると思ったのニャ」


「成る程な。ラマトロはアイツに追われて逃げて来たって訳か」


 ニャットの説明を聞いて、マーロックさんが納得したと頷く。


「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ! 早く倒さないとラマトロが全部喰われちまうよ!!」


 落ち着き払った二人に焦れたロスト君が、武器を構えてラマトロを狙う魔物に飛び込んでゆく。


「横取りするんじゃねぇっ!!」


 ロスト君の剣がラマトロに襲い掛かる魔物を横から切り裂く。

 けれどガキンという音と共に彼の剣は弾かれた。


「うわっ!?」


 全力の一撃をはじかれてたたらを踏むロスト君。


 対する魔物は何事も無かったかのようにラマトロの肉をカブリと噛みちぎると、そのままラマトロの体を地面に叩きつけた。


 そして自分の狩りを邪魔したロスト君を睨みつける。

 その目は、痛くもかゆくもないが食事の邪魔をする奴は許さん、と言っているように見えた。


「くっ! きやがれ!」


 ロスト君は盾を構えて魔物を待ち構える。


 けれど魔物はロスト君の挑発に応じる事なく、ズボッと雪の中に潜る。


「っ!? いや、そんなひっかけに騙されないぜ!」


 予想外の反応に一瞬戸惑うも、すぐに魔物が潜った穴の周りに視線を動かすロスト君。


 そっか、雪に潜っても動いたら雪が盛り上がって動いているのが分かるもんね!

 やるねロスト君。初見の敵が相手でもちゃんと冷静に対応できてる!

 そんなロスト君の背後の雪原から、魔物が飛び出した。

 ……って、え?


「っ!?」


 ど、どういう事!? 違う場所から出て来たのに雪は盛り上がらなかったよ!?

 いやそうじゃない! ロスト君に教えないと!!

 なのに声が出ない。あまりの驚きに体が反応できないでいる間にも、魔物はロスト君に飛びかかる。


「……なっ!?」


 ロスト君が気付いた時にはもう遅かった。魔物の牙は彼の首を噛みちぎる寸前。


「やれやれ、状況を見極めずに動くのは下策だぞ」


 それを、一本の槍が阻止した。


「マーロックさん!?」


 そう、マーロックさんだ。

 彼の槍がロスト君を襲った魔物の横っ腹に命中する。

 その結果、軌道を逸らされた魔物はロスト君から逸れて、その真横を横切っていった。


「っ!?」


「危ない所だったな小僧」


 マーロックさんはロスト君に視線を向けず、魔物を見つめたままで声をかける。


「アイツは雪の中を潜る振りをして、地面を掘ってお前の後ろに現れたんだ」


 そうか! あの魔物は雪の表面じゃなくて、もっと深い所を移動していたのか。

 だから降り積もった雪と土の重みで表面の雪が盛り上がる事はなかったんだね。


「……助かった。礼を言う」


「おう、仲間が居ればこういう時に助け合える。覚えておきな」


 それは、一人で行動するロスト君に、単独での活動にはいつか限界が来ると諭しているようでもあった。


「奴は賢い。魔物相手と思わず、人間かそれ以上に賢い奴と戦っていると思え! 近くにいる奴と背中合わせに声をかけながら戦え!」


「め、命令するんじゃねーよ!」


 素直に言う事を聞くのが照れくさいのか、悪態をつきつつもロスト君は背後についてくれたマーロックさんの背中を守る様に周囲を見回す。

 うん、良い先輩後輩コンビだね。


「お前等、コイツは俺達が相手をする! お前等はラマトロを狩れ!」


「「「「おうっ!!」」」」


 マーロックさんの指示に、荒くれ者達の声が応える。


「……」


「……」


 その間も二人は油断なく魔物を警戒していた。

 けれど魔物も二人を警戒しているのか、雪の中から飛び出す気配が無い。


「……いかんな。これはマズイかもしれんな」


 この状況に何かを感じたのか、マーロックさんが焦りを滲ませた声をあげる。


「マズイって何がだよ?」


「それは……」


 ロスト君の問いかけにマーロックさんが答えようとしたその時だった。


「しまった! ラマトロを喰われた!」


 突然雪の向こうから荒くれ者達の慌てた声が聞こえてきたのである。


「うわっ!? こっちもだ! 突然飛び出してラマトロを横取りされた!!」


 あちこちから魔物にラマトロを横取りされたという報告が上がって来る。

 って、ええ!? 何でそこかしこでラマトロが襲われてるの!?


「奴等め、俺達の相手をするのは厄介だと判断して、ラマトロの横取りに舵を切って来たぞ。予想以上に頭が良い」


 ラマトロの横取り!? 魔物ってそんな事するの!?


「って言うかヤツ等!? 一匹じゃないの!?」


「そうニャ。アイツ等は一匹じゃないニャ」


 ザシュと言う音と共にニャットが声をあげる。

 見ればニャットの足元にはさっきの魔物と同じ魔物が倒れていた。


「この状況は俺達がラマトロの足止めをしてるのと同じだからな。ラマトロが俺達に集中してるところに横から襲い掛かれば、簡単にラマトロを仕留める事が出来るって判断なんだろうさ」


 何それ、ズルくない!?

 

「ど、どうするんだよ!?」


「落ち着け。お前等! ラマトロを横取りされない様に集中しろ! 三人でラマトロの狩りと守りを担当するんだ!」


「それじゃ自由になる奴が出て来るぞ!」


「構わん! 全滅させられるよりはマシだ!」


「分かった!」


 マーロックさんの指示を受けて、荒くれ者達が陣形を組み直す音が聞こえてくる。

 そっか、マーロックさんはあの魔物が一匹じゃないって気付いてたから、状況を把握するためにすぐに動かなかったんだね。


「くそっ、アイツ等、俺達からマークの外れたラマトロを狙い出しやがった!」


「気にするな! 吹雪が弱くなってきてる! とにかく確保できる奴を確実に狩れ! 肝を奪われるな!!」


「「「「おうっ!!」」」」


 マーロックさんの言う通り、吹雪が弱まってきていたみたいで、意識して周囲を見ればさっきよりも少しだけど遠くまで見えるようになっていた。


「吹雪が止んだらラマトロも居なくなる! 今のうちに狩れるだけ狩れ!! 行くぞ小僧!」


「お、おう!!」


 その言葉と同時にマーロックさんとロスト君もラマトロに向かって行く。


「えっと、私達はどうしよう?」


 何かした方が良いのかな?


「おニャーが行っても何の役にも立たないのニャ」


 うん、まぁそうなんだけどね。


「えっと、それじゃあそこに落ちてるラマトロを回収しておこ。齧られてるけど欲しいのは肝だけだし」


「そうするのニャ」


 幸い、ロスト君達が相手をしていた魔物に襲われたラマトロは体の一部が齧られただけで殆ど無事だ。

 今の内に魔法の袋に入れておけば、後で横取りされる心配もない。


「そうだ、他にも無事な部位があるかもしれないから、私達はそれを回収して回ろ!」


「分かったのニャ!」


 私はニャットに乗ると、魔物に襲われたラマトロの死体を回収して回る。

 幸い、襲われたラマトロ達は大半が無事で、これなら肝の回収も出来そうな感じだ。


「でもなんで全部食べずにこんなに食べ残すんだろ? これじゃまるで私達の為にラマトロを倒してくれてるみたい」


 寧ろこれって、私達にとって都合がよくない?

 それとも気に入った味のラマトロしか食べたくないグルメさんとか?


「このっ! いい加減にしやがれ!!」


 ガキンという音が聞こえて来たかと思うと、激しい戦いの音が響き始める。

 ラマトロを襲っていた魔物と荒くれ者達との戦いが激化していく。


「地面に逃がすな!」


「おうよ!」


 攻撃を弾かれた魔物が地面に逃げ込もうとするけれど、そこに荒くれ者が槍を突き立てて潜り込むのを阻止する。

 結果魔物は雪原に身を躍らせて荒くれ者達の攻撃を回避する事に必死になる。


「ヒャッハー! もう逃さねぇぜ!!」


「ここでテメェに止めを刺してやらぁーっ!!」


 もうどっちが悪者か分からないセリフで荒くれ者達が魔物達を追いつめてゆく。


「ギィッ!!」


 流石に多勢に無勢と感じとったのか、魔物達はラマトロからも離れて距離を取る。

 けれど荒くれ者達も弓や杖を構えて離れた場所でも地面に潜らせようとはしない。


「ッ!! ヂィーッ!!」


 そしてとうとう諦めたのか、魔物達はラマトロを残して逃げ出したのだった。


「やった!」


 魔物達が逃げだした事で、ロスト君が歓声を上げる。


「よかった。これでラマトロ狩りに専念出来るね」


「いや、遅かったようだ」


「え?」


 けれどマーロックさんはやれやれとため息を吐いて肩をすくめる。


「どうしてですか? 魔物達は逃げていきましたよ?」


「見ろ、吹雪が止んでいる。ラマトロも逃げちまったよ」


 マーロックさんが天を指差すと、私達は周囲に雪が舞ってない事に気付く。


「悪い、あいつ等の数が意外と多くて、ラマトロを守るので精いっぱいだった」


 更に荒くれ者達はラマトロを守るので精いっぱいで、肝を狩る余裕までは無かったと申し訳なさそうに頭をかく。


「そんなっ!?」


 吹雪が止み、ラマトロの肝を確保できなかった事でロスト君が慌てた様子を見せる。


「慌てるな。これは一時的なものだ。またすぐに吹雪は吹く。問題はラマトロとあの魔物達を逃してしまった事だな。次の吹雪が来たらあの魔物達よりも先にラマトロの肝を回収しないといけない」


「くそっ! 何だったんだよアイツは!」


「あ、でもあの魔物が倒したラマトロは沢山ありますよ。死体も殆ど無傷ですし、これなら十分な量の肝を確保できますよ!」


 そう言って私は回収したラマトロを一匹取りだして見せる。


「本当か!?」


 ラマトロを確保できていたと聞いて、ロスト君が期待に目を輝かせる。


「「「「……」」」」


 けれどラマトロを見たマーロックさん達は、何故か浮かない顔を見せる。


「いや、それは使えん」


「え? 使えない?」


「何言ってんだよおっさん。こんなに綺麗なんだぜ。ちょっと齧られてるくらいなら問題ないだろ」


 うん、体の一部を齧られただけで、それ以外の場所は殆ど無傷の状態だよ。


「いや、それが駄目なんだよ」


「「それが駄目?」」


 一体何がダメなんだろう?

 そう首をかしげた私達に示すように、マーロックさんはラマトロの齧られた部分を指差す。


「あの魔物に齧られたその部位、ラマトロの肝はそこにあったんだ」


 え? あの魔物に齧られた部分にラマトロの肝が?


「え? じゃあもしかして他の齧られたラマトロも……」


「ああ」


「駄目だな。どれもこれも肝が食われてやがる」


「こりゃ使えねぇわ」


 そこに襲われたラマトロを回収してきた荒くれ者達から、肝が失われているという聞きたくない報告が入る。

「「……え、ええーっ!?」」


 せっかく回収したのに、無駄だったのーっ!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 合成したら肝も復活しないかな?
[一言] 「奴等め、俺達の相手をするのは厄介だと判断して、ラマトロの横取りに舵を切って来たぞ。予想以上に頭が良い」  むしろ横取りしてんのは人間の方なんだよなぁ、追ってきたんだから先駆者は魔物のほう…
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