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第111話 消えた令嬢を探せ!

「お嬢様が屋敷から居なくなってしまったのです」


 突如宿にやってきたノーマさんから、ティキルタちゃんが居なくなったという衝撃のニュースが発せられた。

 え? 待って? それヤバくない? 貴族のご令嬢が居なくなったとか、捜索案件じゃん!


「居なくなったって、もしかして家出ですか!? それとも誘拐!?」


「分かりません。しかし使用人総出で屋敷中を捜索したにも関わらず、お嬢様の姿が見つからなかった以上、屋敷に居ないのは確実です」


「でも何で私の所に?」


「カコ様はここ最近でお嬢様がお会いになった唯一の部外者ですので。……例の少年の件もご存じですから」


 それで私が疑われたって訳かー。


「ご期待に添えなくて申し訳ありませんが、私達は知りませんよ」


「どうやらそのようです。この部屋にお嬢様はいらっしゃらないようですし」


 部屋中を探し回っていたノーマさんだったけど、ティキルタちゃんの姿が無かったことでようやく納得してくれたらしい。


「そもそも、それだったらロスト君の方を探した方が良いんじゃないですか? ティキルタちゃ、様は彼に会いたがっていたんですし」


「勿論そちらにも人を向かわせました」


 ああ、既に手を打っていた訳ね。

 でもそれならもう事件は解決かな?

 私達の所に来てないなら、ティキルタちゃんが向かうのはロスト君の所以外ないだろうから。  


「ですがお嬢様の姿はありませんでした」


「え?」


 もう確認した後って事?


「また、それとなく部下にお嬢様と接触したか確かめさせましたが、そもそもお嬢様と会ってすら居なかったそうです。ですからカコ様の下にやってきたのです」


 え? それじゃあティキルタちゃんは完全に行方不明って事!?

 ガチの誘拐事件発生!?


「現状、町の外は吹雪に覆われている事で外に出る者は居ません。これは門番達に確認しました。ですのでお嬢様は町の中に居るのは間違いありません」


 それは不幸中の幸い……なのかな?

 もし誘拐事件で街から出ちゃってたら、この吹雪の中で探すのは至難の技だろう。


「で、それをニャー達に教えてどうして欲しいのニャ?」


「え? それってどういう意味?」


「町を支配する貴族の娘が誘拐されたなんてとんでもない不祥事ニャ。普通なら関係者だけで内密に問題を解決するように仕向ける筈だニャ。にも関わらず、ニャー達にそれを教えたのは、何らかの意図があると考えて間違いニャいのニャ」


 な、成程。言われてみれば確かにそうかも。


「流石に話が早い。その通りです。カコ様にお嬢様の捜索をお願いする為に事情をお教えました」


「ええ!? 私に!?」


 いやいやいや、私は運動神経も碌にない凡人ですよ!?

 さらに言うと名探偵でも何でもない一般人ですよ!?

 何で私に!? と尋ねようとしたところで、私はノーマさんの視線に気付く。

 ノーマさんの視線は、私……ではなく、その斜め後ろに居たニャットに注がれていたのだ。

 ……ああ、そう言う事か。ノーマさんは私じゃなくニャットの力を当てにしているんだね。


「ニャーはカコの護衛ニャ。カコを放って仕事を受ける事は出来ニャいのニャ」


 ……普通に修行の為に冒険者ギルドで魔物退治の依頼とか受けてたけどね。


「それは承知の上です。ですからカコ様にお願いしているのです。勿論十分な報酬をお約束します」


 ああ、私が引き受けるのなら、護衛のニャットも捜索に協力してくれるだろうって判断か。

 うーん、どうしよう……


「ええと、ちょっと相談するので待っててください」


 私はニャットを部屋の隅に連れて行くと、どうしたもんかと相談する。


「どうしよう」


「そもそもカコはどうしたいのニャ?」


「うーん、もしこれが誘拐事件ならさすがに放っておけないけど、ロスト君の件もあるから、ティキルタちゃんが彼に会いたくて抜け出しただけの可能性もあるんだよね」


「あの小僧の所には来てニャいみたいニャが?」


「単純にティキルタちゃんが場所を知らなくて迷ってるだけなんじゃない?」


「ニャる程。確かにその可能性はあるニャ」


 何より、これ以上貴族の問題に関わると、また南都のお家騒動の二の舞になりそうな気もする。

 ロスト君との件は十分協力したし、本当だったらとっくに町を離れていた筈なんだから、これ以上関わらない方が良いとも思うんだよね。


「……カコ、ニャーはおニャーの護衛ニャ」


「え? 何突然?」


「おニャーがやりたい事なら、ニャーは協力してやるのニャ。だから無理に安全で賢い方法を選ぼうとする必要はニャいのニャ」


「ニャット……!」


 ニャットは私の頭に肉球をブニッと置くと、ポンポンと嗜めるように弾ませる。

 そのまなざしは、無理して賢くなろうとするなと言っているようだった。


「……面倒事には関わりたくないけど、本当にティキルタちゃんが誘拐されたのなら、助けてあげたい」


 正直、ここで私が関わっても、ニャットに苦労させるだけで私には何も出来ることは無い。

 でも、だからといって彼女の事を無視して町を出ていけるのかと自問自答すれば、やっぱり答えは出ない。


「ニャット、協力してくれる?」


「ニャーはおニャーの護衛ニャ。おニャーが契約を守る限り、ニャーはおニャーを守ってやるニャ。ついでにおニャーの近くにいたヤツも守ってやるのニャ」


「ありがとうニャット!!」


 よーっし! それじゃあ私も我慢しないぞー!


「分かりました。その依頼受けます!」


「ありがとうございますカコ様、ニャット様」


 ノーマさんは冷静に私達に感謝の言葉を口にすると、既にエルトランザ家が捜索した場所について説明してくれる。


「お嬢様を保護、もしくは情報を得た場合は屋敷に報告に来てください。私も捜索に向かいますので」


「分かりました!」


 話が終わると、ノーマさんはすぐさま宿を出てティキルタちゃんの捜索に戻って行った。


「それじゃあ私達も行こうか!」


「ニャ!」


 ◆


「でもどこから探そうか?」


 ティキルタちゃんを探すにしても、お屋敷の人達が動いてるから、すぐに行けるような場所はもうチェック済みだと思うんだよね。


「やっぱりロスト君の所かな?」


「あの娘が小僧の居場所を分かっていないなら、同じ目的地に向かっていけば、いずれ鉢合わせする可能性は高いニャ」


「そうだね。じゃあまずはロスト君を探そう!!」


 向かう先を決めた私達はロスト君を探しに行くことにする。


「でもロスト君ってどこに居るんだろう?」


 よくよく考えると私達ってロスト君の事、知らないんだよね。


「冒険者ギルドで聞き込みしてみるのニャ」


 成程、その手があったか。同じ町の冒険者なら、ロスト君の事を知っている人がいるかもだね!


「時間もニャいし、ニャーに乗るニャ」


 珍しくニャットが街中で背中に乗る事を許してくれる。


「いいの?」


「事件だったら時間との勝負ニャ」


「分かった!」


 私は躊躇うことなくニャットの背中に乗る。


「ありがとニャット!」


 何となく私はニャットにお礼を言う。

 本当にニャットには迷惑をかけどおしだからね。


「気にする必要はニャいニャ。これも契約の一環ニャ。それにこの依頼はニャーも受けた方が良いと思ったから止めニャかったのもあるニャ」


「え? どういう事?」


 ニャットにとって、この依頼は何かメリットがあったの?


「ニャー達はこの町で足止めを喰らってるニャ。けど他の町はこの町程吹雪が強くニャい、場合によっては吹雪自体起きてニャい可能性があるのニャ。となれば、追手がこの町に着くころに丁度吹雪が止む可能性があるのニャ」


 げっ、それはマズいかも! 私達がさぁ町を出ようとしたところで侯爵家の追手とこんにちは! って鉢合わせしちゃうかもしれないんだ!


「けどこの町を統治する貴族に貸しを作っておけば、侯爵家の追手から逃げるのに役立つのニャ」


「な、成程! 流石ニャット!!」


 確かに、この町で一番の権力者なら、ティキルタちゃんを助けたお礼として逃げるのに協力してくれる可能性が高いよね!


「それに吹雪が止まニャいと外に出られないから、する事ニャいニャらどのみち受けた方がいいのニャ」


 おお、そこまで考えて私が依頼を受ける様に仕向けたんだ。

 流石ニャット!!


 そんな話をしているうちに、私達は冒険者ギルドにやって来た。


「それじゃあ聞き込みと行こうか!」


「ニャ!」


 冒険者ギルドにやって来た私達は、ロスト君の姿を探す。

 けれど今日はタイミングが悪かったのか、彼の姿は無かった。

 まぁ都合よく会えるとは思ってなかったし、ここは予定通り彼の居場所を知ってる人を探すとしよう。 


「ニャーが冒険者の相手をするから、おニャーは受付に聞くのニャ」


「分かった!」


 二手に分かれた私は、さっそく受付のお姉さんに話しかける。


「すみませーん。ちょっと聞きたい事があるんですが」


「あら、いらっしゃい。依頼かしら? だったらこの依頼用紙に必要事項を書いてちょうだい」


 受付のお姉さんは、私が依頼を頼みに来た客と思ったのか、受け付け用紙の様なものを取り出す。


「あっ、いえ、そうじゃなくて、聞きたい事があって来たんです」


「あらごめんなさい。早とちりしちゃったわ。それで聞きたい事って?」


「えっと、ロスト君って言う冒険者の男の子が何処にいるのか知りたいんですけど」


「ロスト?」


「えっと、頬に傷のある子です」


「頬に傷のあるロスト……ああ、あの子ね!」


 よかった、知ってるみたいだ。


「でもごめんね。私達も詳しい事は知らないのよ」


「え? そうなんですか!?」


「ええ、通常冒険者に連絡をする時は、冒険者ギルドにこの人が来たら伝えてほしいって言づてを頼むものなのよ。外から来た冒険者なら滞在してる宿に連絡する事も出来るんだけど……」


 と、そこで受付のお姉さんは言葉を区切る。


「彼はちょっと特殊な生まれだから、定住する家が無いのよね」


 と、受付のお姉さんは複雑そうな顔で話しだす。


「それに彼が住んでいるのは凄く治安が悪い場所なのよ。貴女みたいな可愛い子が入り込んだら、間違いなく悪い連中に酷い目にあわされるわ。だから知っていても教えられない」


 そう言えば以前ノーマさんがロスト君は税金を支払う事が出来ず、不法に町に住みついた人間の子孫だと言っていた。

 つまり不法滞在してるってことだから、当然住所登録とかもしてないので教えようがないと。


「その、なるべく急いで彼に会いたいんです」


「んー、困ったわねぇ。どうしても会いたいのなら、彼がギルドに来るのを待つのが安全だわ。下手に探すよりもその方が早く会える可能性が高いわよ」


 うぐぐ、確かに変に探し回ってる間に彼がギルドにやって来る可能性も高い。


「じゃ、じゃあ伝言をお願いします! 彼が来たらこの宿のカコが話があるって」


「はいはい。それじゃあ伝言料金は銅貨一枚ね」


 って、金取るんかい!!

 うぐぐ、背に腹は代えられーん!


「わ、分かりました」


 渋々銅貨一枚支払って伝言を頼んだ私は、ニャットと合流する。


「こっちはダメだった。そっちは?」


「こっちも詳細な場所は分からニャかったニャ。けど、大雑把な場所は分かったから、あとは現地で捜索するのニャ」

 

 おお、流石はニャット!


 ◆


「あの小僧は下層民の暮らすスラムに居るみたいニャ」


「あー、それは私もそれっぽい事言われた」


 ただそのスラムの場所までは分からなかったんだよね。


「スラムの場所も確認したから、あとは現地であの小僧の匂いを探るのニャ!」


「おー、ニャット犬みたい」


「だーれがイッヌ族ニャ! ニャーの鼻の方が優れているのニャ!」


 この世界、デッカい犬もいるんか。ちょっと見てみたいかも。


 という訳で私達はスラムの入口までやって来た。


「おお、明らかにヤバそう」


 スラムの入口は特別な門がある訳でも、明らかに作りが違う通りという訳でもなかった。

 一見すると普通の通りから入る小さな裏路地だ。

 でも、その裏路地から漂ってくる気配は、明らかにこれまで通って来た道とは異質だった。


「この先にロスト君がいるんだ……」


 ホントにこんな所に住んでるの彼?


「どう? ロスト君の匂いする?」


 スンスンと匂いを嗅いでいたニャットが薄く眼を開く。 


「するニャ。けどもっと重要な匂いがするのニャ」


「もっと重要な匂い?」


「あの娘の匂いが、スラムの中からしてくるのニャ」


「あの娘って……もしかしてティキルタちゃん!?」


 ロスト君を探しに来たら、まさかのティキルタちゃん本人が見つかっちゃったの!?

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