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塔の中に入ると、まるで私を祝福する様に通りの明かりがポポポとついていきます。
うっすらと光る小さなオレンジ色の明かり。
白亜の床と壁に、その光が反射してキラキラと辺りが輝いています。
まるで荘厳な星の世界を歩いてでもいるよう……。
この一階部分は勝手知ったる風景ながら、やはりうっとりとその光景に魅入っていた私に。
「おい、いつまでも間抜け面してっと置いてくぜ」
エドワルドがとてつもなく失礼な言葉を残し、さっさと階段を上がっていきます。
まったく一体どこまで私をコケにすれば気が済むのでしょう。
しかもあんなに不用心に階段を上がって!
もしまだ発見されていないトラップでも発動したらどうするというのでしょう!
メラメラと燃える私の苛立ちに、エドワルドは何も気づかず階上へ立ちます。
私は負けじと後を追いました。
……とたん。
ああ、何という事でしょう、私の足元にあった階段が全てパカリと外れ、斜めになるではありませんか!
「ひきゃあ!」
つるりと後ろへひっくり返りそうになる所で、私は思わずエドワルドの腰のベルトを引っ掴みます。
「〜〜!?」
エドワルドが慌てた様に(驚いた様に、かもしれません)こちらを顔だけで振り返ったのはほんの一瞬。
次の瞬間には私はエドワルド共々階下へ落ちてしまいました。
◆◆◆◆◆
どしゃん、とひどい音を立て、私は階下の床へ思い切り背をぶつけます。
それと同時、エドワルドがか弱い私の上にどしん、と落ちてきました。
「〜〜っ!」
「って〜……」
私が声も出せずにジタバタする中、エドワルドが頭を押さえながら起き上がり、私の上から退きます。
私はそれに合わせてぐりんとうつ伏せる様に体を曲げ、先ほどまでエドワルドのベルトを掴んでいた右手首をもう片方の手で押さえました。
じんじんじわじわとする痛みに思わず顔をしかめています……と。
「てめぇは何やってやがんだよ!?」
立ち上がったまま私を見下ろすようにしてエドワルドが怒鳴りました。
「落ちるなら大人しくてめぇ一人で落ちやがれ!!」
全く何という非情な男でしょう!
私は我慢ならずに起き上がるとエドワルドに向かいました。
「なんてことを言うんですの!?
レディーが階段から落ちそうになっていたらそれを救うのが紳士というものですわ!
それが何ですの!?
遺産の一つも使えばこのように下まで落ちることなどなかったものを、何の手も打たず、挙げ句の果てに私の上に落ちてくるとはいったいどういう了見です!?」
「あの状況で使えるかっ!
大体本当にレディーなら紳士のベルトを引っ掴んで階段から追い落とすようなことはしねぇだろ!?」
エドワルドが即座に反論してきます。
全く何という役立たずなのでしょう。
トレンスでしたらこうはなりませんでしたのに。
ふんっと鼻を鳴らし、私はエドワルドからそっぽを向きます。
エドワルドがイラついたようにそれを見てくるのが分かりましたが、私は気にするのをやめました。
向こうでも争う事に利点がないと思ったのでしょう、ちっと小さく舌打ちして、先程よりは大分落ち着いた声で言ってきます。
「──……で、こいつをどーすんだ?
これじゃ上へは上がれないぜ」
言って見上げた先には今では滑り台のようになってしまった元・階段があります。
傾斜が90度近くもあり、とても登れるようには見えません。
きっとエ・レステルとクレ・エンテの事ですから、このような仕掛けを作っている以上、何がしかの遺産や道具を使っても、登れないような仕組みを作っている事でしょう。
私は思わず息をつき、ぐきりと鳴った腕を支えます。
「──仕方ありませんわ。
別のルートを探しましょう。
ここを作ったのはあのクレ・エンテとエ・レステルです。
必ずしも道は一つではないはずですわ」